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□レン
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・へたれんと不思議っこちゃん


最近、俺のベッドには先客が居る。

「千晴……またかい」
「んー、じんぐーじのベッドがきもちいのが悪い……」
何よりも睡眠を愛すこの男は、同じクラスのアイドルコースの生徒だ。
おチビちゃんと幼馴染らしく、よく話したりしている。

この間たまたまダーツを一緒にやった時、千晴が俺のベッドで遊び始めたのが運の尽き。
『うはっ!何コレ!ふかふか!』
目をキラキラと輝かせ、無垢な少年のように俺のベッドで跳ねるのを繰り返すのが面白くて止めなかったのが悪かったのか。
次の日にはぜひまたあのベッドで寝かせてくださいと頭を下げられ、断ってもしつこかったからこちらが折れてしまった。


何が楽しくて女の子でも恋人でもない千晴をベッドに寝かせるのかは自分でも甚だ疑問だ。
それでも小さな子どもがうたたねをしているような無垢な表情を見せられて、どうしても起こす気にはなれなかった。


「俺も今日疲れてるからもう寝たいんだけど」
「んー、どうぞー」
「どうぞって、男二人じゃ狭いだろう?」
「じんぐーじのベッドでかいから大丈夫だよぉ。俺、隅っこで丸まって寝るし」
そういうやいなや、本当に端に寄って猫のように丸くなって寝息を立ててしまう。

「まったく……困ったねぇ」
すやすやと眠る千晴を見たら、追い出すのも可哀想だ。
実際、本当に千晴は邪魔にはならなくて、まあ面倒くさいからいいかとそんなことを続けていたら。






昼休み。
「じんぐーじ、眠い」
「昨日も相変わらず俺のベッドでずっと寝てたのに、まだ眠いのかい」
「んん、なんかじんぐーじの傍に居ると眠くなる」
「……それは、どういうふうに受け取ればいいのかな」
「どんなふうに受け取ったの」
「俺といると退屈、かな?まあ、それならおチビちゃんのところに行けばいいんじゃないかい」
「退屈じゃないよ。眠いだけ。翔と一緒に居るのは楽しいけど、今はじんぐーじんとこがいい」
俺の肩に頭を凭れながら、眠気交じりの声でぼそぼそと呟く千晴。

「それはそれは、光栄だね」
男に懐かれた経験なんてないけど、まあ悪いものでもないな。


午後の授業が始まる5分前。予鈴が鳴ると、俺は千晴の頭をぽんぽんとたたく。
「ん〜〜」
「ほら、授業の準備をしなくちゃ」
「じんぐーじはサボるくせに」
「千晴はサボらないんだから、席に戻ること」
「ふぁぁ〜」
大きなあくびをひとつして、千晴は自分の席に戻っていった。
そして俺はそのまま教室を出て、屋上に向かう。
その時たまたま女の子と会って、デートの約束を交わした。


放課後になって、約束通り学園を出てデートをした。
女の子はキラキラふわふわしていて、可愛らしい。
俺が全ての女の子を平等に愛すことを認めてくれているから、面倒もない。
その場限りの優しさと、その場限りの甘え。それが俺と女の子の関係だ。
また遊ぼうね、とリップサービスもして部屋に戻る。

部屋に戻ればまた千晴が俺のベッドで寝ているのだろう。
ガチャリとドアノブを捻って部屋に入る。
すぐにベッドに視線を投げると、いつものふくらみがない。
また端で丸まっているのだろうかと端を見てみたけれど、居なかった。


「ああ、そういえばそろそろ課題提出が近いんだったかな」
千晴は俺とは違って、本気でアイドルを目指している。
いつでも俺のベッドで寝ているわけにもいかないだろう。

シャワーも浴びたしそろそろ寝るかとベッドに横になる。

……何だろう、この匂い。
ああ、千晴の匂いか。この間俺の肩に頭を乗せた時も、こんな匂いがしていた気がする。
疲れていたのだろうか、匂いの正体がわかった途端、ストンと落ちるようにして眠った。








次の日。

千晴は昼休みになるとすぐにAクラスのパートナーのところに行ってしまった。
俺も久しぶりに女の子たちと昼食を共にする。
楽しい時間だったけれど、時間が進むのは遅かった。
無意識に教室のドアを何度も見ることに気付かないまま、授業開始の予鈴が鳴った。

今日は久々に授業でも受けよう。
ちらりと千晴を見ると、真剣に授業を受けている。
寝ぼけ眼で俺のベッドに横になっていたのが嘘みたいだ。
ああしていると整った顔立ちをしているのだということに気付く。


結局千晴の横顔ばかり眺めていたら放課後になってしまった。
「やあ、千晴」
「じんぐーじ」
「ずいぶん真面目に授業を受けていたね」
「まあね。来週が課題提出だし。じんぐーじは?」
「はは、そこそこかな」
「ふうん。……じゃあ俺、練習行くから」
「ああ」
ひらひらと手を振ったけれど、千晴は一度も振り返らずに教室を出ていった。





そして、その日から千晴は俺の部屋に来なくなった。

それはもちろん課題提出が目前に迫っているからであって。
ただ、じんぐーじと居ると眠くなるという千晴の言葉通り、千晴は俺にあまり近づかなくなった。
避けられているだとかそんなことはない。全ては課題のためだ。




ようやく、課題提出の日。
夕方5時が提出期限だ。
女の子とのデートを終え、部屋に戻ったのは7時だった。

居るんだろうか、千晴は。
そればかりが気になって、あわただしく部屋のドアを開ける。
果たして、ベッドに千晴は居た。

すうすうと前と変わらない寝顔で、俺のベッドに膨らみを作っている。
「っ、はは……」
何故だか安堵している自分がいて、身体から力が抜けるのが分かった。

少しだけ、目の下に隈がある。
ちゃんと寝ていたんだろうかと心配になりつつ、そこをそっと撫でた。
千晴に触れてしまえば、得体のしれない何かが胸を駆け抜ける。
ベッドに座り、くしゃりと千晴の髪を撫でる。


抱きしめたい衝動に駆られた。しかし、理性がそれを抑制する。
それでも気がついたら俺もベッドに横になっていて、千晴の肩に顔を埋めていた。

ああ、千晴の匂いだ。

「……じんぐーじ?」
「っ………起きたのかい?」
「んー」
ポーカーフェイスを装っているけれど、いきなり声を掛けられて心臓は早鐘を打っている。

「じんぐーじの、匂い」
枕に顔を押しつけている千晴。
その言葉に煽られて、つい悪戯心が芽生えてしまった。

「ベッドでそんなに可愛らしいことを言うなんて、襲われても仕方がないよ?」
顔を真っ赤にして「違う!」と言う千晴が見たかったのが本音だ。
それを想像してくすくすと笑っていると。

「じんぐーじってさ、案外鈍いな」
「?」
「俺がじんぐーじのベッドに侵入する理由、わかんないんだ?」
じっと上目遣いで見つめられて、そんな言葉を吐かれて。
理性なんてとっくに凌駕されていた。

気づけば千晴に跨って、組み敷いていた。
「そんなこと言われたら、もう止まれないな」
耳元で自慢のシュガーボイスを披露すると、ぴくりと千晴の肩が跳ねた。
そのまま耳にキスをして、額、瞼、頬へと順に口づけていく。
そして千晴のふっくらとした唇に噛み付こうとすると。

「ん……何だい?」
手のひらに邪魔されて、キスできなかった。
「今ここでキスしたら、なし崩しになるからヤダ」
「はは、ここまで来てお預けなんて、なかなか小悪魔だね」
「俺、じんぐーじの取り巻きの女の子とは違うから」
「そうだね、子羊ちゃんたちは俺のベッドで寝たりしないからね」
「……それは、じんぐーじのベッドがきもちいのが悪い」
「それ、この前も言っていたけど」
「だってじんぐーじのベッドはふわふわで大きくてきもちくて、じんぐーじの匂いがするんだもん」

ふわっと花が咲いたように綻ぶ千晴に、きゅんとしてしまった。
こてんと俺の首筋に顔を向けた千晴は、しかし眉をひそめた。

「けど、じんぐーじは今じんぐーじの匂いしない」
ころころと端に逃げてしまった千晴の言葉にすぐにピンときた。
「どーせ女の子とデートしてきて、ベタベタ触ってたんだろ」
拗ねたような声音に、俺は吹き出しそうになるのを堪えた。

だって、まだ恋人にもなっていないし、愛の言葉だって交わしていない。

「それじゃあ、俺がシャワーを浴びて出てくるまでに、俺の告白にどう答えるか考えておいて」
ちゅっとこめかみにキスをすると、力なくべしっとはたかれた。
「その前に女の子とデートするのやめれば」
「千晴がYESって言ってくれたら、もちろんやめるさ」

俺が一週間ずっと千晴のことを考えていたんだから、俺がシャワーを浴びている間だけでも俺の事で頭がいっぱいになればいい。
千晴は俺を拒まない。
その確信と、これからどうやって千晴をべたべたに甘やかせて愛を囁こうかと考えると、覚えず唇が弧を描いた。




>>>
この後、ルンルンでベッドに行くレンさんが千晴くんが寝てるのを見て愕然とするとかどうですかww
「俺がじんぐーじのベッドに侵入する理由、わかんないんだ?」っていうのが書きたくてですね……!

需要があったら続き書きたいな……。
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