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□トキヤ
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・ST☆RISH成人済。未来設定です。
・主人公はST☆RISHの専属作曲家。



今年のツアーの先駆けとしてST☆RISHのベストアルバムが発売された。
デビュー曲から比較的新しい曲までを網羅した2枚組のアルバムの売れ行きによって、ツアーの内容が変わるという触れ込みで販売意欲を煽る早乙女の戦略に舌を巻くメンバーであったが、そのおかげか売れ行きは今までのCDの中でダントツだという。
ミリオンセラーも夢ではないと囁かれているなかで、ST☆RISHのメンバーと専属作曲家である千晴は一堂に会していた。


「初日売上目標達成おめでとー!」
早乙女から提示されていたノルマを達成すべく、あらゆるメディアで宣伝をしたのが功を奏したのか、提示されたノルマを軽々と超える成果が表れたのは喜ばしいことだ。
音也の言葉を皮切りに、グラスのぶつかる音が響く。

「よーし、翔もようやく成人になったことだし、今日は急性アルコール中毒にならない程度に翔をつぶすぞー!」
笑顔で恐ろしいことをいうのは、自身もそれほど酒に強くない千晴だ。
「明日も仕事なんだよ!」
「明日は昼過ぎからって言ってたじゃん!ほら、先にこれ飲んどきな」
アルコールを飲む前に摂取すると良いと言われる飲料水を翔に押し付けた千晴は、自分は明日は休みだからとガバガバとビールを呷っている。
「はい、トキヤにお酌してあげる〜!グラス持って!」
「まだビールに口をつけたばかりだというのに……」
「まあ一杯だけだから!」
芋焼酎をトクトクと注ぐ千晴に、トキヤは仕方なさそうに礼を言った。

「みんなでこうして集まるのは久しぶりですね!僕、楽しみにしてたんですよぉ」
「いやぁ、本当は嶺ちゃんたちも呼ぼうと思ったんだけどさぁ〜。嶺ちゃんは今日は歌番組の収録なんだって」
「藍は未成年だし酔っ払いの介抱なんてまっぴらごめんだってよ」
「黒崎さんは私用があるらしい」
「カミュは『騒がしい場に長時間居るほど暇ではない』だそうです」
「バロンのツンデレも困ったものだね」
「ノン。レン、カミュは男爵ではありません。伯爵です」
「ああ、ごめん。知ってはいるけどバロンっていう呼び方が似合うからついね」


広めの個室でわいわいとみんなで食事するのは久しぶりだ。
未成年だった翔が居るために今まで居酒屋に来たことはなかったが、それも今日から解禁とあって何人かは浮き足立っている。
たくさんの種類を飲んでみたいと言い出した翔のために、那月と音也があれこれと注文を始めた。


「なんか、ずいぶん久しぶりな気がするなぁ。トキヤとちゃんと会って話すの」
トキヤの隣に座っている千晴が、から揚げを頬張りながら呟く。
「曲ができるまでは千晴は忙しいですし、曲が出来てからは私はレコーディングや撮影や宣伝などで忙しいですからね」
二人は恋人同士ではあるが、お互い仕事に妥協をしないという共通点があるため、なかなか時間を合わせられずに居た。
千晴はST☆RISHのグループとしての曲の提供加え、メンバーが個人で出している曲の作曲も担当しているため、多忙をきわめている。
トキヤも芝居をしないかと声がかかっており、その舞台のために勉強したり身体を鍛えたりと、こちらもかなり精力的に活動をしている。

「家に帰ってもトキヤ先に寝ちゃってるし。そんで俺が寝てる間に仕事に行っちゃうし……」
こんなに忙しいのは久しぶりで、恋人にひっついて元気を補給する暇があれば仕事をしなければと焦るくらいの多忙さだ。
「明日は私も一日休みをもらっていますから。一緒に起きていろいろしましょうか」
「トキヤのシチュー食べたい!肉がとろとろのやつ!」
「ふふ、いいでしょう。千晴の好きなものをたくさん作ってあげますよ」
「やったー!」

ニコニコと疲れを吹っ飛ばすほどの恋人の甘い笑顔に、トキヤもほわんと温かい気持ちになる。





大きめのテーブルに所せましと並べられたグラスやら皿やらが結構なスピードで入れ替わり、もう時計は酒が入り始めてから3時間ほど経っていた。
酒の席では定番の昔話から、これからのグループ活動や個人活動についてのことまで話は広がり、宴もたけなわという頃だった。
隣の席に居た千晴は音也と翔と飲み比べをするといって向こうへ行ってしまった。
飲みすぎて悪酔いすることだけは勘弁してほしいとはらはらと見守っていたが、トイレに行くために席を立ったトキヤは、ブルブルと震える携帯を手に取った。
マネージャーからの舞台に関する電話で、15分ほどの会話の後に用を済ませて席に戻った。


「っ、捨てられたんだぁぁぁぁ」
「お、落ち着け日高。あらかた手洗いにでも行っただけだろう」
「そうですよ!トキヤくんが千晴くんを捨てるわけありません!」
「だってもうずっと前から居ない……トキヤ、どこ……?」
べそべそと鼻をすする千晴は、トキヤが扉を開けると目を真っ赤に腫らして子供のように泣いていた。
「おれのこと嫌いになったからどっか行ったんだぁぁぁぁ!ずっと会えなかったから」
えぐえぐと嗚咽をもらす千晴を慰める那月と真斗をぽかんと見つめていると、トキヤが戻ってきたことに気付いたレンが
「ほら、王子様のご帰還だ」
くすりとからかいを込めた瞳でトキヤを見た。


「ぅえ、どこ?」
パッと俯いていた顔を上げて千晴は母親を探す子供のような真剣さでぐるりと一周見渡す。
トキヤに目線をやったあと、確かめるようにじいっと見つめて、瞬きをした瞬間に涙がぽろりと落ちたかと思えば満面の笑みでトキヤに抱き着いてきた。

「トキヤ!居た!」
ぎゅうう〜と離さないと言わんばかりの強さで抱きついてきた千晴の頭をぽんぽんと撫でてやる。
「おれに黙ってどっか行くなんて、ひどい!」
酒臭い呼気に、飲み比べをさせるのではなかったと後悔するトキヤだったが、こうなってしまったからには仕方がない。

「トイレに立ったら、マネージャーから電話が来て少し話していただけです」
「ほんと……?じゃあ、おれのこと捨てたんじゃないの?」
「どうしてそこまで話が飛躍するのですか。まったく、君は………」
酒に弱いことは知っていたが、普段は笑い上戸になるくらいだったのでここまで酔っぱらう千晴は初めてで、酔いすぎると泣き上戸になるのだということをトキヤは初めて知った。


「だって……トキヤと久しぶりにいっぱい喋って、ご飯食べて、嬉しかったのにいきなり消えちゃうから……」
じわりとまた潤み始めた瞳にトキヤは内心で慌てた。
「消えません。ここに居るでしょう?それに明日は千晴のためにシチューを作らないといけませんしね。約束したでしょう?」
「……!うん!」

キラキラと無垢な瞳が揺れて、一気に機嫌が浮上した千晴はトキヤの首に腕を回して唇が触れ合いそうなくらいにぐっと近づく。
「おれのこと好き……?」
「当たり前でしょう。何を言っているんですか」
鼻先をつまんでやると、千晴は嬉しそうにいやいやと首を振った。
「愛してる?」
「…………」

いくらメンバーに千晴と恋仲であることが知られているとしても、友人が見ている前で愛を囁けるほど神経が太いわけもなく。
羞恥と葛藤していると、せっかくおさまったはずの涙がまた千晴の頬を濡らす。

「………きらい?」
唇を噛みながら悲しみに耐えるように震える声で呟くのは卑怯だ。
レンのからかいの対象としては絶好のエサであるが、いくら酔っているとはいえ恋人の心を守りたい気持ちもある。
トキヤは千晴の耳に唇を寄せると、「愛していますよ」と低くかすれ気味の声で囁いた。



ぼわっと赤くなった千晴が、照れているのか慌てはじめた。
「ほ、ほんと?」
「心外ですね。嘘で言う言葉ではありません」
「じゃ、キスして」
「はい?」

唇に噛み付いてたしなめてやりたいという欲をどう発散しようかと思っている矢先の千晴の甘えた声につい低い声を出してしまった。


「トキヤはおれが好きでしょ?おれもトキヤが大好き。だからおれはトキヤのもので、だからトキヤはおれにキスするのがふつう!」
酔っ払いの思考回路は思いもよらない場所に繋がるらしい。
ちらりと辺りを観察すると、トキヤと千晴など最初から居なかったかのような空気になっており、メンバーは各々好きな会話に花を咲かせている。

「トキヤのものなんだから、キスマーク、つけて」
トキヤの頭を自分の首に押し付ける千晴。
首回りが隠れないシャツを着るのを好む千晴は、いつもキスマークを付けようとすると嫌がる。
ここまで大胆であると言うことは、理性や羞恥などは消え去っているのだろう。ならば明日は記憶がないに違いない。
正気に戻ったら恥ずかしがって怒るかもしれない。
そうしたら、堂々と「君がねだったんです」とでも言ってやろうか。
どうせレンのことだ、こちらのやり取りは窺っているだろうから嘘だとなじられても証人になる。


これで千晴を自分のものだと主張できるのだ、と思わぬ誤算に喜びが胸から湧く。
千晴が望むままに首筋に二つほど所有印を散らすと、えへへと照れた千晴がそっと痕をなぞる。
これはキスくらいならしてもいいのではないか、と欲望が駆け巡りそうになる。
もういっそのこと千晴を抱えて今すぐ抜け出そうか。


しかし、千晴はするりとトキヤの腕から逃げ出した。


「おーとーやーーーっ!見てみて!キスマーク!トキヤがつけたやつ!」
「ん〜〜〜」
「おれトキヤのだから!だから、もうトキヤといちゃいちゃすんなよなっ」
「んぅ………ふわぁ……千晴、なにぃ?」
テーブルに突っ伏して寝ていた音也を揺り起した千晴は、堂々とキスマークを音也に見せびらかす。
そして小さな独占欲を吐き出してスッキリした様子で音也に抱き着く。

「音也はぁ〜、ほんとにトキヤといちゃいちゃしすぎ!」
「えぇ?してないよ〜」
「してるじゃん!肩に手置いたり、トキヤに上目遣いでお願いしたり!」
「してたっけ?」
「してましたー!でもそういうのもうダメだからね!だっておれがトキヤのものだったらトキヤもおれのものだから!」
しまりのない緩み切った顔を音也にひけらかす千晴。


「だからぁ〜、音也は」
「千晴」
「んぇ?」
「顔が近いです。そこまで近づかなくても十分でしょう。離れてください」
そういいながらも自分の胸に千晴を抱き込んで、ついでに唇に噛み付いた。

「やきもち?」
でれでれの顔で聞かれて悔しくなる。
千晴はいつも、自分の方がトキヤを好きすぎると唇を尖らせるけれど、そんなのは嘘だ。

「音也だよ?」
「君は私だけのもの。相手が誰であろうと、千晴は誰にも渡しません」
からかいを含んだ声音についムキになってしまった。

ぽかん、と状況を把握できずに開きっぱなしにしている唇すら愛おしいのだから始末におえない。


「そろそろ失礼します。二人分の代金はここに置いておきます」

眠りこける年少組と、千晴と同じく状況を把握していない真斗。
お熱いねぇ、と茶々を入れてくるレンと、仲良しで良いですねぇと相変わらずのほほんとしている那月に見送られながらトキヤと千晴は帰路に着いた。





「とっ、トキヤ!あの、さっきのって、」
先ほどの言葉に衝撃を受けて少し酔いでも醒めたのか、千晴は耳まで赤く染めておろおろしている。
「会えなくて寂しかったのは千晴だけじゃありません」
「へ?」
「帰ったらたっぷり『補給』させてもらいますから、そのつもりで」

パクパクと口を動かす千晴の腰に手を当てて、トキヤは逃がさないと言わんばかりに千晴の真っ赤な耳に噛み付いた。



>>>

メンバーが空気になってしまいました……。
そしてトキヤさんのキャラが……!!酔っぱらっていたということでひとつお願いします。
トキヤさんは出身地柄、お酒が強そうだと思っているのですが、たまにはトキヤさんの違う面を!ということで書いてみました。
ST☆RISH成人済とか書きましたけど、セシルさんの年齢はたいして気にしてないです←

悠里様、お気に召していただけましたでしょうか?

企画参加、ありがとうございました!
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