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「こらこら、ルーク。早く寝ないと」
明日は大事な日なんだぞ?と幼子をたしなめてもこの赤毛の少年は全く従おうともしない。
「だって眠くないんだ!」
「ベッドに入ればすぐ眠くなるさ」
明日はルークがさらわれて初めて国王家と公爵家が食事会をする日だ。
俺の教育者としての真価が問われる時。
「…ガイ?」
「ルーク。明日は大事な日なんだ。ちゃんとご飯をマナー良く綺麗に食べれるだろ?」
練習したもんな?と優しく聞くと、嬉しそうに頷いた。
「もちろんガイも一緒だよな!」
使用人の俺が国王と共になんて、出来ないに決まってる。
「どうだろうな?公爵様のお許しをもらわないと」
「俺が父上に言う!」
自信満々に言う焔の少年は、明日にはきっと許して貰えないことに頬を膨らませるんだろう。
「ありがとな、ルーク。さあ、もう寝るぞ。明日があるんだからな」
いつも寝付かないルークに言う言葉。
「明日も遊びたい…」
ポンポンとあやすように撫でていると、そんな願いの言葉を口にして、やっと眠りに就いてくれた。
「ガイ、風呂上がったぜ」
「ああ、サンキュー。すぐに入る」
明日は決戦の日。
明日の夜には風呂に入ることも、ガイと話すこともない。
ガイの中から俺が消えてしまう。
それは、俺がオールドラントから消えてしまうより辛く感じた。
いや、俺がガイを忘れてしまう方が本当は怖い。
忘れられてしまうなら、せめて覚えていたいのに。
「ルーク?」
「…あ?」
まさかガイが話し掛けてくるとは思わなくて、ガラの悪い態度になってしまった。
「何をそんなに不安がってるんだよ。俺がついてるだろ?」
「…うん、そうだな」
ガイがそう言うだけでホッとするのは何でだろう。
ガイならきっと俺を守ってくれるって思ってるからだろうか。
ガイがタオルで頭を拭いているのを見て、俺は―ガイが風呂に入っていた時間分―随分悩んだんだと気がついた。
「ガイ…もう寝るか?」
「そうだな、髪を乾かしたら」
ちゃんと荷物はまとめておけよ、とガイが言うから慌てて準備をした。
…といっても、全然荷物はないんだけどな。
荷物はほとんど最低限だけ。後は売ってしまった。
だって、嫌なんだ。
「俺の形見」なんてものができてしまうのは。
剣の手入れをして、ガイが戻ってくるのを待つ。
「さあ、もう寝るぞ。明日もあるんだからな」
ズキッと胸が痛む。
明日は、もうこの言葉は聞けないんだ。
この笑顔も見れない。
ガイを感じられない。
「もう明日なんかないんだ…」
そんな下らない本音は、弱々しく呟いたからか、ガイには聞こえなかったみたいだ。
「ん?何か言ったか?」
「えっ?あ、何か一緒に寝たいかな、なんて…久しぶりだし」
言い訳がましい俺にガイはいつもより数段甘い顔で、「そうだな、久しぶりだもんな」なんて笑う。
「…サンキュ」
触れ合った体温が妙に心地よくて、子供の頃に戻った気がする。
眠りたくなんかないと思うのに、まどろみに目蓋が重くなる。
「…明日も隣に居てくれるよな…?」
「当たり前だろ?明日も明後日も、ずっと一緒だ」
ガイの声はもう俺には届かなかったけど、ずっと頭を撫でられていた大きくてあったかい手だけは覚えていた。
ありがとう、ガイ。
けど、けどな。
Tomorrow has not come.
(もう、明日はこないんだよ)