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高等部の入学式という今日は、晴れの舞台にふさわしい好天だった。
春爛漫、桜吹雪。

そんな言葉が頭に過り、ふっと息を吐いた。
今年もホスト部はコスプレするんだろうなとか、今年の研修旅行はどこだろうなとか考える。

エスカレーター式とはいえ、入学式にこんな気だるい気分なやつもいないだろうと思う。
あ、でも光は大抵同じこと考えてるかな。


どうせ高等部へ進学したって、このお金持ち校はほとんどクラスメイトが変わらないんだから新鮮味がない。

今年も面白いのはホスト部だけかもな。



さぁっと春の風が吹き、僕はきちんとに並んでいる桜の木を仰ぎ見た。
穏やかな日差しが僕の肩をやさしく温めている。

ふと視線を落とすと、ひとつの影を見つけた。
全身に花びらのシャワーを浴びながら、その人は桜並木を歩いてくる。


綺麗だな…そう思っただけだった。
果たしてそれは桜にか、その人にか。



一目惚れってあるのかななんて僕は考えたけど、光が僕を呼ぶ声を聞いたらもうそんなこと忘れてしまっていた。
長ったらしい入学式を終え、案の定ほとんど代わり映えのない顔ぶれを横目に見ながら席に着く。
教室を見渡すと数人が中等部とは違っていた。


「馨、馨。見ろよ、あれが特待生じゃないか?」
光に言われるまま視線を向けると、だっさいセーターにビン底メガネ、ボサボサ髪のいかにもってやつが静かに座っていた。

「なんだ、期待外れ。だっさい」
まっ、特待生だからってがり勉七三分けの黒ブチメガネくんが来られてもつまんないけどね。


そういえば、と胸の内で首を傾げた。
あの桜並木に居た人って、どのクラスなんだろう。

新入生の印を胸に付けていたから、同じ学年だってことはわかった。


って、僕はそんなに細かいところまで見てたっけ?
桜吹雪のあのシーンは、どうやら僕に強烈な印象を与えたらしい。

「なー。でもあいつの前の席って誰だろうな?」

光の言葉に、思考を止めて特待生を見る。
立っている人はいないのに、ひとつだけ空いた机はどこか不思議だ。



「きっと教室探し回ってんのかも」
ぷっと光が吹き出すと、僕もおかしくなってしまう。
「かもねー。入学式で早々から何やってんだか」

くすくすと二人で笑い合っていると、教室のドアがガラリと開く。



担任かとみんなが視線を向けると、それはただの男子生徒だった。


あ、と僕は呆気にとられる。



さっき桜の木の下を歩いていた人に似ている、と。
桜吹雪がすごかったからきちんと顔を見れてないので、確信は持てないけど。


「……馨、あいつ知ってる?」
無意識のうちに首を横に振ると、だよなぁと返ってくる。

「ま、そこそこキレーめな顔してんじゃん。外部だよな?見たことないし」
「……どうだろうね」

女子たちがその男子生徒を見てざわざわと囁きはじめる。
そいつはそんなのを気にもしないで、さっきまで空いていた席に座ると、後ろをクルリと向いてだっさい特待生と話しはじめた。


二人が談笑している様子を見ると、昔からの親しさを感じた。
「なんだ、特待生か。今年は二人も居るんだ。めっずらしい」
「……だね」

きゅ、と胸が苦しくなる。
どうしてだろうと考える間もなく、今度は本当に担任がやってきて、思考は中断された。


「今年から同じクラスになった人だけ、自己紹介してもらいます」

担任が必要事項を全部話し終えたあと、いきなりそんなことを言ってきた。


「じゃあ、まず日高くんから」
かたん、と控えめに椅子を引くと、日高と呼ばれたあいつが立ち上がった。


顔立ちは悪くはない。
漆黒の髪も瞳も、キレイと形容されるだろう。

小さな顔に乗っかった薄桃色の唇がゆっくりと開かれる。
「日高千晴です。趣味は写真を撮ること、特技は料理です。よろしくお願いします」
にこりと最後に笑顔のオプションを付けて、女子の興味を引いたみたいだった。

見た目を裏切らない声の質と、趣味特技。

日高千晴はひどく中性的な顔立ちをしてる。
女顔、といっても過言じゃないね。


「殿はソッコーでスカウトするよね」
光がひっそりと僕に話し掛けてくる。

「ホスト部に新入りかぁ……」
面倒だなぁと嘯く僕。


綺麗な顔なんて見慣れてるのに。
なんだか大変なことになる予感がするんだけど……。


言葉になりそうな考えていたことを自分の中に押し込めて溜め息を吐く僕と、日高千晴に興味津々の光は、きちんと聞いていなかった。
日高千晴のあとの、藤岡ハルヒの自己紹介を。

「……藤岡ハルヒです。よろしくお願いします」



…ま、聞いていなくても全然平気な自己紹介だったわけだけどね。

これが僕と日高千晴と……藤岡ハルヒとの出会いだった。


(きっとこれは「ふためぼれ」ってやつだ)
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