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君は僕を想って泣く。
君はいつもそう感じているみたい。
「馨は光が大好きなんだよね」
わかってるから、とその唇に苦い笑みを乗せて。
千晴は光より自分を見てよ、って言わない。
鬱陶しいって思っていたことがあった。
「馨くんが大好き」なんて勝手に言って、なのに最後には「光くんとあたしのどっちが大事なの」なんて馬鹿みたいな女。
光と僕はずっと一緒に居たんだよ?
光を大事な人だと感じるのは当たり前なのに、自分が光より低いポジションに居るというのが気に食わないらしい。
千晴の気を引きたくて光に構ってばかりだった僕に、千晴は静かにそう言った。
「馨は光が大好きなんだよね」
僕なんか足元にも及ばないくらい、と言おうとしたであろう言葉を飲み込んで、苦笑する。
他の誰かに言われた言葉なら、きっと「当たり前じゃん」って言った。
けど、千晴にそう言われてしまった僕は肯定することが出来なかった。
まるで最初から自分を諦められている。
愛されたいって思ってるのに、それを僕に伝えようとしない。
なんでだろう、悲しくなった。
僕らはこうして想いあっているのに、満ち足りてない。
お互いに相手の一番になりたがっているのに、それができない。
僕はこんなに千晴が好きなのに、伝わらない。伝わっていない。
「僕は、光より千晴の方が大好きだよ」
だから、僕はそう告げた。
「……うそ」
千晴の大きな瞳が潤んで、ついに大きい粒がほろほろとこぼれた。
「信じてくれないの?僕が光より大切に思う人なんてそうそういないのに」
泪に濡れた千晴の顔を見たら胸がキリリと痛んで、これ以上見たくなくて抱きしめた。
「嘘だ。だって馨は光と居る時の方が楽しそうで」
ひっく、と嗚咽を堪えながら流れる川ように心地よい千晴の声に耳を傾けていた。
「僕と居ても面白いことなんか何もないのに」
泣き顔は胸に刺さったけれど、綺麗だったなと思う。
「それでどうして僕が好かれてるなんて思えるの」
こんなこと言われたら、昔の僕なら「じゃあ別れよ」って言っていた。
だけど、放したくない。こんなに純粋に僕を想ってくれている人を。
「ごめん、でも信じてよ」
抱きしめる力を緩めて、見つめた千晴の瞳。
目尻にたまった泪を指でやさしく拭うと、またじわりと泪が浮かんだ。
愛しいな、と素直に思えた。
千晴のこの苦悩をどうにかして解いてやりたい。
「僕が一番大事なのは、千晴なんだよ?」
思いの丈をぶつけるように、熱い口付けを送る。
頬の丸みを辿るように指先で撫で、首筋をくすぐる。
ぴくりと反応した千晴の唇を深く貪って、舌を絡め取る。
苦しそうに眉根を寄せる千晴にも、この苦しいくらいの気持ちをわかってほしいから容赦はしない。
しばらく睦みあっていた唇を離すと、キスした後の生々しい唇が目に毒のように映る。
ぱちりと瞬きをした千晴がまた一粒の雫を落とした。
そして、また千晴は言うんだ。
「信じられな、んっ………ぁ」
僕はもう否定の言葉を聞きたくなくて、唇で千晴のそれを塞いだ。
「千晴が信じてくれるまで、何回でも言うし、キスしてあげる。だから……ね?」
目尻にひとつキスを落として、泪の跡を舌先で伝う。
「や、馨っ……」
「愛してる、千晴」
「ん、んぅ………」
君の身体がぐずぐずになるまで、甘い甘い愛の言葉で満たしてあげる。
(ほんとうさ、ほんとうだよ。だから、ぼくにすべてをあずけてよ。きみのまるごとぜんぶ)