zz

□wj
76ページ/91ページ

ふと夜中の1時に目が覚めた僕は、きゅっと心臓が竦むのを感じた。

背中に汗が滲んでいるのは、夢が怖かったからだろうか。



こういう時に感じる孤独って……なんか嫌だ。
誰でも良いから温もりを感じたい。


「……かおる……」

けど本当のところは『誰でも良いなんて』詭弁で、好きな人の温もりが一番安心することをこの身体は知っている。


恋人の名前をぽつりと呟いたら、もっともっと温もりを与えてほしくなってしまった。

「まだ、起きてるかなぁ……」

こんな夜中に電話なんて非常識極まりないことは百も承知だ。
それに、馨の隣にはきっと光も寝ているから、二人揃って起こしてしまうのは忍びない。


だけどほんの少しだけでも馨を感じたいんだ。

「メールなら……起きないかな?」
着信音もそんなに長くは設定してないはずだし……と考えてメール画面を呼び出す。

カコカコと本文に繰り返し同じ言葉を、書いては消した。

自分はなんて恥ずかしいことをしてるのかと思う。


馨だって深夜にいきなりこんなメールが来たら驚くだろう。


好きってゆって?なんて、こんな直球なお願いもいいとこだろう。
しかし直接的に安心できる何かが欲しいんだと、素直な僕が訴える。


「……明日の朝一番に会いに行けば良いや」
そうだよだから我慢しろ、と無理に自分を納得させて、メールを消す。


「明日会ったらまず最初に、驚かせようっと」
抱きついてキスして大好きだって言ったら、さすがの馨も面食らうに違いない。
僕は親元を離れて一人暮らしをしている。

学校への送迎はしてもらうと両親と約束しているから、明日(といっても今日)は早く起きて運転手さんに早めに来てくれるようにお願いしよう。


馨と光の寝込みを襲うのもいいかもしれない。
いっつも僕がイタズラされるから、今回はこっちが仕掛けよう。


良い計画だと笑いながら練っているうちに、いつの間にか30分ほど経っていた。
「早く寝ないと朝起きれなくなるな…」

しかし寝れそうにないとわかり、砂糖控えめ牛乳多めのミルクティーをいれて一息吐いた。

「はぁ……おいし」
手早くカップを洗ってまた布団に入る。

身体が暖まったからだろうか?
なんか顔を撫でてゆく空気が冷たい気がする……。


小窓を閉め忘れたりしたんだっけ?
あったかい布団から抜け出すのが億劫でしばらく対策を考えていると。



いきなり身体が何かに包まれた。

「えっ、な、なにっ?」
壁側を向いて寝ていたから、布団ごと僕を抱き締めている何かがわからない。

「やっやだっ、かおるっ……!」
泥棒!?まさかっ!

混乱している僕の耳元に間隔の短い吐息が聞こえる。

それと同時に僕を呼ぶ声も。


「……千晴?」
耳によく馴染んだ声に、一気に脱力した。

「か、おる……?」


首を一生懸命回すと、やっぱり僕を抱き締めていたのは馨だった。
……だけどどうして馨がここに?

馨にはセキュリティドアの番号も教えてるし、スペアキーも渡してるけどさ。
「千晴、寒い。布団に入れて」
「あっ、うん……どうぞ」

混乱しながらも馨を招き入れたら、セミダブルのベッドが一気に窮屈になった。


「かお……」
「好きだよ、千晴」
どうして来たのかと聞こうとしたら、遮られておかしなことを言われた。

「……え?」
「だから、大好きだよ」

ぎゅっと馨の腕に抱き締められると、馨の匂いがしてドキドキした。
抱き寄せられた先の胸はとくとくと心地よいリズムを刻んでいる。


「ど、して……僕、馨に連絡してないのに」
テレパシーというやつだろうか。
なら馨ってばすごい力を持っているんだな、なんて素直に感心してしまう。


「……メール来たけど?」
「うそっ!?」

確かに消したはずだと、枕の近くにある携帯を手繰り寄せて、送信履歴を辿る。

一番上の送信欄には「馨」の文字。

「消したと思ったんだけど……?」
「千晴が押し間違えたんでしょ」
「……かも」

僕の手から携帯を奪った馨は、適当に携帯をそこいらに置いてまた僕を抱き寄せた。



「んで、どうしてメールしたの?」
「変な夢見たみたいで……起きたらなんかすっごく馨に触れたくなった」

包まれている温もりに安心して息を吐く。
人肌に包まれるってこんなに気持ちいいんだ……。



「けどさ、メール返してくれるだけでよかったのに……」
あんな恥ずかしいメールの返事も困るかと一人で赤くなってしまう。

「千晴は僕に会いたくなかったわけ?」
むすっとしてしまった馨に、慌てて訂正をいれる。


「ううん、本当は会いたかったよ?でも、こんな夜中に会いたいなんて迷惑だし、寝てるよなって考えたらー……」
光にも迷惑がかかると思ったんだ。


素直にそう伝えると、馨は愛しさ全開って感じで笑った。

うわぁ、カッコいい……。
思わず見とれていると、馨がポツポツと話し始めた。

「ちょっとうとうとしてた時に千晴からメールが来てさ。電話しようかと思ったけど、どうせなら直接行って驚かせようとね」

ふふっとイタズラっ子の顔をした馨。
僕もしてやられた!って笑ってしまった。

「やっぱり馨には勝てないや」
「ん?なにが?」

さっきまで練っていた計画を話すと、馨は「僕の方が一枚上手だったわけだ」なんて言ってきた。


あ、言わなきゃよかった。
でなきゃ明後日にでもできたのに。


でもまあいいか。
僕が二人を驚かせたって、それは倍になって僕に返ってくるだろうし。


「そうだ。光も起きちゃったよね?学校行ったら謝らないと」
「光は寝付きいいからヘーキっしょ」
「そう?」
暗闇だと蛍光色を発する時計をふと見ると、もうずいぶん時間が経っていた。


「馨、帰らないで良いの?抜け出してきたんでしょ?」
「光と執事に、千晴ん家に泊まるって言ってきたからヘーキ」


馨って、やさしいなぁ……。
普段は光みたいにやんちゃだけど、こういう時にはすごく紳士だし。


「馨……ありがと」
嬉しくてはにかみながらお礼を言うと、馨もやさしく微笑んでくれた。

「大好き」
「まっ、僕の方が千晴を好きだと思うけどね」
「なにそれ」


今日は二人ともなんだか素直だ。
普段なら照れて言えないことも、今ならするりと言えてしまいそうなくらい。



「かおる……」
期待をこめた眼差しで頬を染めて馨を呼ぶと、すっと目を細めた馨が額にキスをした。


「……馨ってば!」
そこじゃないと口を尖らせながらまたねだる。
クスクスと笑う馨がごめんごめんと言いながら、今度は頬に唇を寄せる。


「千晴……」
見つめあいながら名前を呼ばれて、僕が瞼を閉じれば望んだところに口付けられた。


やさしくさらわれるような口付けを施される。


僕は馨とするキスも好きだ。
大事にされているんだと感じることができるから。

嬉しさのあまり心臓が痛いくらい高鳴る。


微かに唇を開くと、そろりと温かな舌が侵入してくる。
「んっ、………ふ」


ドキドキしすぎて、その心音で聴覚がシャットダウンされる。

舌を馨のそれでやさしく絡められると、もう意識がぽうっとしてしまう。


気持ちいい、と身体が悦んでいる。

「は……あっ、は…」
名残惜しそうに離れていった唇を追いかけられずに、枕に頭を沈めた。

「かお……もういっかい…」

泪がうっすらと帯びている瞳は、誘うようなものになってしまった。


「千晴……その顔、反則すぎ」
「大好き…んんっ」



ありがと、馨。
こんな夜中に僕のワガママで駆け付けてくれて。

ずっとこれからも一緒にいたいな。


大好きだよ、馨。



2度目のキスが終わり、安心してしまった僕は、さっきまでの不安が嘘みたいに溶けていくのがわかった。

そして馨の温かな腕の中で、運転手さんが朝にエントランスまで迎えに来てくれるまで僕は眠り続けていた。



(わあああ馨っ、遅刻遅刻!ほら行くよ!)
(千晴の寝癖は僕が車の中で直してあげよっと)
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ