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とある放課後、桜蘭高校ホスト部は通常通り色めきたっていた。
各々が接客をするなか、扉を開く者がいた。
「いらっしゃ……」
たまたま扉の前を通りかかった環が歓迎の言葉を言う前に、それは遮られてしまった。
細長い指が口元にたてられて、静かにという命令がなされる。
環はその客の目当てが心当たったものの、言うとおりに接客に戻った。


「そうそう!昨日、馨ってば風呂上がりにバスローブが無いからって半泣きになって部屋に戻ってきてさぁ……」
「僕が入ってる間に光が隠したんじゃん!」
「だって、馨の困る顔見たかったんだもん」
「部屋に戻るまでみんなに見られて恥ずかしかったんだよ?」
うるうると目を潤ませた馨が恥ずかしそうに目を伏せる。
すると光が馨の頬を押さえて、顔をこちらに向けさせる。
「ごめんっ、馨!今日はちゃんと置いておくから……」

至近距離と美形のコントラストという効果に、お嬢様たちは黄色い声をあげる。
「馨くんの泣き顔……!」
「さぞ可愛らしかったでしょうね……」
目をハートにさせながら騒ぐ彼女たちの後ろから、クスクスと品のいい笑みがこぼれた。

そのテーブルにいたみんながその音の主を振りかえる。
「きゃあーーー!千晴様!!」
「こんにちは」
ひらひらと手を振る千晴に、誰よりも驚いたのは馨だ。
あんな光景を見せてしまった目の前の先輩は、自分の恋人だったんだから。

光も馨と千晴を見比べて黙っている。
なんといっても、ひとつ年上の千晴は鏡夜より数段タチの悪い人だったから。


「俺も見たかったな、馨の裸」
にこりと微笑めば、その破壊力は抜群。
「は、裸じゃないからっ……」
光との掛け合いでは馨もなじるだけだったが、千晴の前だと本当にたじたじだ。

千晴は目を細めると、すぅっと双子が座っている3人掛けのソファに腰掛けた。

「……じゃあ、俺には裸を見せてくれる?」
白く細長い指で馨の喉元をくすぐり、顎を持ち上げる。
普段とは違うヴィジュアルと、普段より照れまくっている馨を目の当たりにしたお嬢様たちは、かなり甲高い声で感激を露にした。


さすがに何事かと、みんなが双子と千晴たちのテーブルに視線を送る。
それを気にもかけず、千晴の意図的な暴走はつづく。


「っていうか大体、何で千晴先輩がここにいるの?」
「ずいぶん前から来てみたかったんだよ。馨が光にいつもいじめられてるって聞いてね」
「いじめてないって!これは接客用の態度!」
心外だ、と光が抗議する。

「本当にいじめられてるなら光をどうしてやろうかと思ってたけど、こういういじめなら俺の専売特許だよな」
ニコリと笑みを見せる千晴に、光と馨はそれぞれ別の理由で青ざめた。
「(どど、どうしてやろうって……僕、なにされそうだったの!?)」
「(専売特許って……今日はもしかしてずっと千晴先輩にいじめられんの!?)」

「馨だけじゃ不公平だから、光も一緒にいじめてあげようか?」
「エンリョしますっっ!!」
光は断固拒否したものの、千晴の悪魔のような笑みに逆らえるはずもなく……。

「いやいや、今まで俺の馨を泣かせた罰として思いっきり可愛がってあげよう」
ちょっと、と優しく馨の前から光の隣へと席を移る。
双子の間に割り込んで、光にニヤリと笑む。

「俺の馨、とおっしゃらいましたわよね!?」
「泥沼の三角関係ですわぁ〜〜!馨くん争奪戦ですわね!」
お嬢様たちの妄想は果てしない……。

「んー、まずは光をどうしてやろうかなぁ?」
心底嬉しそうに思案する千晴を見て、光はこれ以上ないほど混乱していた。

しかし千晴はふと隣の馨に目が行った。

「馨?どうかしたのか?」
かすかに千晴の眉がひそめられる。
「何でもないですけど?」
「うーん……」
馨のつっけんどんでそっけない返事に少しの間逡巡してから、何か思いついたようだった。
スッと馨の耳元に顔を寄せて、ぼそりと低い声でつぶやいた。
「俺が光ばっかり構うから、寂しくなった?」
くすりと甘やかに囁かれるから、馨は羞恥に頬を染めて身体を離した。

「きゃあああ!お二人の内緒話ですわぁ!」
「馨くんのお顔が真っ赤よ!」


いろいろな理由でむくれる光になんか目もくれず、千晴は馨の手を取った。
「馨は俺が光を構うのが寂しいみたいだから、いっぱい構ってやらないと」

「ちょっ、せんぱ……」
扉の近くには鏡夜が立っていて、千晴とアイコンタクトを交わすと、仕方ないと苦笑した。
閉店間際の時間帯だったから、お咎め無しだったんだろう。
しかも、手を引かれる馨は不安や羞恥の交ざった複雑な表情を浮かべていたからなおのことだった。


部室から出ても会話はなく、どこに行くのか馨にはわからなかった。
だけど、馨が不安に駆られてほんの少し、本当にほんの少しだけ拘束を強くしたら。
ふっと愛おしげに微笑んで、馨よりずっと強く握り返してくれた。

馨はそれが嬉しくて、咄嗟に腕に縋り付く。
曲がり角に差し掛かった途端、強く身体を引かれて気付くと馨は抱き締められていた。

一瞬身体が強ばってから、ここは滅多に人の通らない道だと知って安堵する。


それでも馨の表情はまた暗くなった。
「千晴先輩、ごめん……なさい」
「んー?」
やわらかく頭を撫でられるのは気持ちいい。

「馨が、謝ることないだろ」
「でも……心狭くて」
「俺も光に嫉妬するよ」
「え……?」

少しだけ乱暴に髪を梳かれて、千晴が照れているのだと知る。
「だって四六時中も傍にいるだろ。まるで恋人みたいにだ」
さっきも、光にあんな可愛い顔を見せるなんて勿体ない。
「ごめん、でもあれは……接客用で、」
「わかってる。馨も光もお互い大事だってこともな」

その言葉で、千晴が精一杯の優しさで馨を甘やかせてくれていることに気付いた。

こんなムチャクチャな先輩だって、やっぱりこんな一面を持っているんだ。

「あ、でも、光にいじめられて涙目の馨も可愛かったな。俺もあんな風にいじめてみたい」

にっこりと音符マークまでつけて、頭の痛いことを言う千晴も、やっぱり千晴なのだということも思い知った。

「ー……とりあえず、今からいじめようかな」
「はっ?なんで??」
「光とイチャイチャしてたし、あんな可愛い顔を他人に見せた。それに囁いた時に思い切り拒絶されたし……」

「……はいはい、わかりました」
降参ですと両手を挙げる馨。
「かーおる。恋人に敬語は?」
「……使わない」
「はい、正解。ご褒美」

千晴がちゅっと馨の額にキスをしてやると、馨の瞳が少しだけ潤んだ。

「……馨は本当に煽るのが上手い。そんな顔は光にも見せるなよ」
「何言って……んっ」

今度はきちんと唇に触れて、馨が甘い吐息をはいた。

「じゃあ、鏡夜のお許しも出たことだし。行こうか」
「え?行くって……どこに?」
「誰にも見られないところ、かな」
ボッと顔から火が出て、どう返そうかと悩んでいる顔もそそる。

やっぱり、自分はこの色っぽい後輩が可愛くて仕方ないんだと千晴はくすぐったくなった。
また唇にキスを落とすと、何?と照れる馨の腰に手を回して引き寄せたのだった。

(俺も今度、客として行って二人のいちゃいちゃ見ようかな)
(はぁ!?何言ってんの、ムリ!)

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これが自分のドS鬼畜の限界……。
限界を……超えてぇ!(ジャンル違)
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