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「「ねぇ、どっちか選んでってば」」



1ーAへと続く道の途中に、千晴はうんざりしたようにため息を吐いた。

「もー…何、いい加減しつこい」

くるりと後ろを振り返ると、双子がにんまりと千晴を見つめている。


「だぁーかぁーらぁ、千晴が僕と馨のどっちの方が好きかって聞いてんの」
「いーじゃん?別に聞いてもふぅんって思うだけなんだからさ」


そう、千晴は正に無駄な選択を迫られていた。
事の発端は3日ほど前。

いつもは授業中もひそひそと千晴に話し掛けてきていたのに、その時間の光は静かだった。


千晴は平穏な時間を過ごせたものの、馨はやっぱり気になったようだ。

休憩時間にとことこと光の元までやってきて、どうかしたかと問う。


「うーん……さっきの時間に、ずっと考えてたんだけどさぁ」

光は夕飯に食べたいものをリクエストするくらいするりと、よくわからない発言をしてのけたのだ。


「千晴って僕と馨のどっちの方が好きなのかと思って」
いきなり名前を引き合いに出され、隣の席に座っていた千晴が光の顔を窺う。

「いきなり何を言うかと思えば……」
突拍子もない双子の性質を知っていても、多少の驚きはあるらしい。

千晴は内心、動揺していた。


「そもそも、何でそんな話を……」
「昨日、部活に行く途中でお嬢様がさ。千晴は僕と馨のどっちが好きなのかって話をしてたのを聞いちゃってさ」


ため息を落とす千晴に追い打ちをかけるように、馨も話しだした。

「お嬢様たちは禁断の愛が好きだからね〜。千晴が入って三角関係ってことじゃない?」
「まったく、何言ってんだか……なぁ、藤岡?」


どうにか話題を逸らそうと、千晴が後ろの席の藤岡に話を振ると。

「え?ああ……うん」


ちっ、聞いてなかったか。
「無駄だよ千晴。ハルヒは基本的に他人に興味ないから」
「そっ。特に今日は特売日だから」

トクバイビとやらは一体何なのだろうと思いながらも、まあ話題はどうやらそれたらしい。

「へぇ…俺もしたいな。トクバイビ」
この用法が間違ってないことを祈りながら控えめに言うと藤岡は、え?と不思議そうな顔をした。


「千晴ってば興味ないくせにさ。それより、どっちなわけ?」

光は興味津々に聞いてくる。

「どっちも何も…俺とお前たちの間にあるのは友情だけなんだから、どっちが好きも嫌いもないだろうが」


言ったら言ったで傷つくくせに、とはさすがに千晴も言わないでおいた。


光は満足な答えが得られなかったことに拗ねてしまい、千晴のばーか。千晴のあほ。千晴のちびでぶ!
と散々に千晴を罵倒していた。


「「…友情じゃない…」」

そんな二人の呟きも千晴の耳には届かず、毎日そうやって聞き続けられるまま、今日になってしまった。
まあ、次の日にも同じように千晴が双子に友情がなんたらと言ったら、
「「僕らは千晴を海より深く愛してるよ」」
だとか言ってまたお嬢様たちを騒がせていた。


この作戦は通用しなかったか、と千晴はため息を吐いたのだけれど。



「「ねぇってば」」
「…いい加減怒るぞ」

いつもは千晴が先に折れてしまうのに今回は違うから、二人もどこで引き下がれば良いのかわからなくなってしまっていた。

怒るぞ、と言われればさすがに黙るしかない二人だ。



そうしてまた千晴は仕方なく折れてしまうのだった。

「あのな……ちょっとこっち」

始業まで時間があることを確認した千晴は二人に来い来いと手招きをして、空き教室に引っ張り込んだ。


「いいか?俺はお前たちのどちらかを選ぶことは絶対にしない」

「「……………」」


二人もそれに気付いているんだろうか。
気付いていなかった時の為に、しっかり言っておこう。

「仮に俺がどちらかを選んだとしても、お互いすっきりしないだろ?」

選ばれなかった方は少なからず傷つくだろうし、選ばれた方だって手放しで喜べないはずだ。

「お前たちはお互いにお互いが一番大切なんだから、同じ扱いを望むだろうし」

ぐっと二人が図星だという顔で眉を寄せる。

「なのに、俺が二人を両方選んでもどっかしら納得いかないんじゃないか?」


「…そんなこと」
「ない……」

光の気まずそうな反論に、馨が後を継ぐ。

「でもやっぱり二人を選んでほしいと思ってる。違う?」


千晴がふっと息をついて、優しい瞳で二人を見つめる。


「小さい頃から3人で居たんだからな。俺の洞察力を嘗めるなよ」


「ほんっと…千晴にはお手上げ」
「友情なんていっときながら、千晴だって僕らのこと大好きなくせにさ」

「そうそう、よくわかってんじゃん」
意趣返しにとそう頷く千晴の目論み通りに、二人は目を瞠る。

やっとこの質問から解放されると思えば、千晴はふふ、と思わず笑みを零した。



やはり千晴にも幼い頃からこの二人しか居なかったのだ。
こんなにも自分を愛してくれる存在を無下にできるわけもなかった。


「「千晴…」」
「ん…?」

「「大好きっ」」
両頬に同時に唇が降ってきて、千晴の頬も緩む。


「はいはい」
千晴はいつものように二人の口付けの返事にと、二人の額に順番に口付けたのだった。



後日談。

「千晴くんの頬に光くんと馨くんがキスなさってる写真があるのを知っています!?」
「まあ!そんな写真が!?買いに行かなくては……!」


「……一体誰がそんな写真を……」
「「間違いなく鏡夜先輩だネ」」

「即刻販売禁止を言い渡してくる…!」
「「無駄だと思うけど……」」

そうして双子は今日も千晴を困らせるのだった。

((ねーねー、僕たちどっちがカッコいい!?))
(はぁ……これも逃れられない運命なのかなぁ……)
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