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「おはよう月くんっ!Trick or Treat!」
捜査本部に足を踏み入れた途端、この場所に似つかわしくない言葉に月は面食らった。
「あ、おはようございます……ええと、どうぞ」
「えー、持ってるの?月くんはお菓子なんて持ってないと思ったから言ったのに」
たまたま持ち合わせていた飴の詰め合せ袋を差し出すと、不満気に口を尖らされた。
「千晴さんそれって、僕にいたずらする気だったんですか?」
計画的な犯行に月が呆れたが、千晴が首を横に振ったことで予想が外れたことを知る。

「いたずらってどんなことすればいいか知らないから、しようがないんだけどさ」
教えてもらおうと思って。
実は無計画だった千晴に朝からやられつつ、定位置についた。

「そういえば、どうして月くんは飴の詰め合せなんて持ってたの?喉が痛いとか?」
「いえ、妹が今日の朝それをいきなり渡してきたんですよ。いいから持っていけって」
「じゃあ妹さんも学校とかでさっきみたいなことやってるかもね」
「ははは、そうかもしれませんね」
妹はイベント好きだから、と月が納得してふと横を見ると。

竜崎がじいっとこちらを見ていた。
「……どうかしたのか、竜崎」
「いえ、別に」
竜崎と千晴が恋人同士であることは周知の事実で、だから月も竜崎の視線の意味がわかった。


「千晴さん、竜崎にはしたんですか?さっきのやつ」
こそりと話し掛けると、千晴はふるふると首を振った。
「毎日お菓子食べてる竜崎に言っても、もらえるのわかってるから言ってないよ」

確かに毎日大量の菓子を脳の為だからといって食べている竜崎に、今さらその言葉は言われないだろうし言う意味もないだろう。
「でも、拗ねてるみたいですよ」
「僕と月くんがずっと喋ってるから見てるだけ」
ああ、つまり嫉妬ってやつか。
月は肩透かしを食らったような気分になり、いい加減パソコンで捜査を始めた。
そうしてみんなが揃うまで、千晴は全員にTrick or Treatと言っていた。
イベント好きの松田は竜崎に言われるかもしれないと思い、たくさん買ってきていた。
松田以外のみんなはもちろん持っておらず、しかし思い当たるいたずらもなかった為にいたずらされずに済んだ。

と、思っていたのだが。


「先ほどおやつを持ってこなかった皆さんは、休憩時間にケーキを買って来ていただきます」
千晴がいたずらはなし、とみんなに言った直後のことだった。
「しかし、竜崎……」
「休憩時間は多く取ってかまいません。ここはあまり人もいらないので松田さんにも行ってもらいましょう」
「竜崎ー!僕はたくさん持ってきたじゃないですかぁ」
「お好きなケーキを買ってきてかまいません」
「喜んで行ってきますっ!」
ビシッとこんな時ばかり威勢のいい松田に、空気が和む。

「なら僕も行こうかな。妹にケーキのお返しをしたいし、母さんにもお土産として」
空気を察した月も同行を告げた。
「決定ですね。それでは休憩時間までお願いします」
竜崎の一言で仕事に戻る捜査員たち。
千晴もお茶を淹れたり書類を整理して時間がすぎていった。

「手分けしてお願いします」
竜崎に渡されたプリントには住所と買うケーキのリストが載っていた。
軽く10を超える店の数に異を唱えても、「お菓子持って来ませんでしたよね」という怨念かかった言葉に負けた捜査員たちは出かけていった。


「あんなにたくさん頼むなんて、いたずらの域を越えてるよ。しかもTrick or Treatって言ったの竜崎じゃなくて僕だし」
二人きりの部屋で二人は休憩を取っていた。
「今日を楽しみにしていたもので」
「……でも今日の分の捜査が終わってからって、」
「みなさん3時間は帰ってきませんから、今でいいです」

そう、今日はハロウィンというイベントだけではない。
捜査員は誰も知らない、竜崎の誕生日だ。

「でもあとでみんなケーキを買ってきてくれるのに、僕の食べていいの?」
千晴は竜崎に誕生日ケーキを焼くと約束していたため、竜崎の先ほどの言葉に拗ねていた。

「みなさんがいては邪魔ですから。千晴のケーキ以上に美味しいものはありませんから安心してください」
「………うん」
抱き締めていた細い身体を竜崎が離すと、嬉しそうにキッチンに向かう千晴。
しばらくして切り分けられたイチゴたっぷりのタルトが竜崎の前に置かれた。

「今日のはちょっと自信作!」
だから余計に拗ねたのだと竜崎はわかった。
大きなひと口を口に運び、もぐもぐと咀嚼する。
「美味しいです」
「へへ、嬉しい」
竜崎の反応を見てから千晴もケーキに手を付けた。

「んー、んまい。練習した甲斐あった」
「練習したんですか?」
「あったりまえ!竜崎の誕生日ケーキを本番一発で作って失敗なんて絶対やだし」
「練習した分のケーキは?」
「友達とかにあげた」

てっきりバースデーケーキに浮かれていると思った千晴は、竜崎の不機嫌そうな声に驚いた。

「なぜ私にくれないんですか」
「本番の一番いいのをあげるために練習してるのに、練習を本人にあげてどうすー……っ」

当たり前の言い分を言い切る前に竜崎によってふさがれてしまった。
「失敗作も最高の出来も、私に全部ください」
「……わがまま」
「あなたにだけです」
「ばか……」

甘い唇にまたそれを重ねて、幸せを貪った。
「竜崎……生まれてきてくれてありがとう」
「はい、ありがとうございます」
「来年はもっと豪華で美味しくて今までにないのあげるから」
ぽそぽそと恥ずかしそうに囁く千晴の頬に口付けた。


「今日は千晴をくれないんですか」
「そ、それはみんなが帰ってからに決まってるだろ!」
むにっと頬をつままれ、たしなめられた。
「では今日の捜査は切り上げましょうか」
「そんなのダメ」
「……仕方ありません、大人しく夜まで待ちましょう」


キスくらいならいいでしょう、と強引にやさしいキスをたくさん振りまいて、甘い甘い時間は緩やかに過ぎていった。
(おめでとうじゃなくて、ありがとうと言える幸せ)
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竜崎がハロウィンに誕生日だった気がして書いてみました。
違かったら申し訳ないです(調べろ)
しかもめっちゃやっつけ文……!
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