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□真澄
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・主人公は監督。人物背景はいづみちゃんと同じ設定ですが、口調・性格などは別です。主人公≒いづみちゃん。


真澄が学校を終えてMANKAI寮に戻ってきて一番にすることは、監督である千晴を探すことだ。
千晴はあまり部屋に籠ることがないため、談話室に居るか外出していることが多い。
倉庫の整理などをやっている場合もあるが、その時は他の人間がだいたいの行動を把握しているので、真澄は通学カバンを持ったまま談話室に向かう。

ソファで寛いでいる中学生グループに話しかけると、千晴はまだ帰って来ていないとのことだった。
密もソファの隅に蹲ってすやすやと寝ている。
千晴が居ないのならば、別に談話室に居る必要もない。
真澄はさっさと話を切り上げて部屋に戻った。
ベッドに寝転んで、携帯の写真フォルダを開いてスクロールしていく。

「はぁ……千晴可愛い、好き」
頂きものの果物を皆で食べている時、頬袋をパンパンにしていた場面を撮ったものだ。
「大人なのにこういう無邪気なところ……可愛すぎ」
一枚一枚をじっくりと観察して、胸がいっぱいになる。
テレビを見ながらうとうとして、かくっと落ちた瞬間に目を覚ましてきょろきょろと辺りを窺うところなど、談話室に居て心底良かったと思った瞬間だった。
もちろんこれはお宝動画として保存してある。もうすでに百万回は見ているだろう。

「そろそろ帰って来てもいい時間か」
真澄は実は千晴のことを下の名前で呼んでいる。本人に呼んでも良いか聞くと、「せめて”さん”付けしてほしいかな」と苦笑されてしまった。
周りの人間が真似ると困るので人が居る時は監督と呼んでいるが、二人きりの時は名前で呼ぶことも少なくない。

ベッドから起き出して、談話室に向かう。
扉を開いたところで真澄の視界に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。
いつもはポーカーフェイスの真澄も、動揺とあまりの衝撃に膝から崩れ落ちた。


「千晴さんが……浮気してる」
「真澄くんお帰り―……って、浮気?」
「ねえ、アンタの膝は俺専用だよね。何で他の奴なんかに許してんの」
「あぁ、僕がちょっと一息入れようと思ってソファに座ったら、反動で密くんが少し起きちゃったみたい。それでモゾモゾしだしたらこんな風になっちゃってたんだよ。僕は休憩しようとしてただけだから良いかなって思って」
ふるふると拳を振るわす真澄に、事も無げに千晴は答えた。
確かに千晴は真澄が談話室で寝そうになって膝枕をねだると、用事がない時はすんなりとOKしてくれていた。
膝枕なんて恋人のやることだ。だから千晴は真澄のことを憎からず想ってくれていると思い込んでいた。

それなのに、千晴は真澄だけでなく万年寝太郎の密にまで膝枕を許すとは……!!

「それって完全に浮気だよね。俺が千晴さんを好きって知ってて膝枕してくれたのに、そいつにもするの?」
「えっ、真澄くん、とうとう付き合えたんだ!おめでとう!」
真澄の恋を応援している咲也は、嬉しそうに、素直に二人を祝福した。
「ちょ、ちょっと待って」
「たっだいまッスー!あれ、皆さんお揃いでどうしたんッスか?」
千晴が訂正を入れる前に、賑やかしの太一と一成が元気良く帰って来た。
「真澄くんの恋が遂に叶ったんだって!」
「おぉ〜!おめでとうございますッス!」
「おめピコ〜!まっすーやるじゃん☆」
「ふ、二人ともちょっと、」

「はは、良かったな真澄」
コーヒーを飲みながら静観していたはずの臣まで参加してきて、千晴は話が大きくなってきたぞと慌てる。
だいたいこうして監督である自分をからかってくる団員は少なくなく、特に今みたいに大勢で畳みかけられると反論の弁が行き渡らなくなる。
「ん。結婚式は白無垢を着てもらう」
「僕がお嫁さん役!?」
「監督が旦那役なら紋付き袴が見られる……!?それも最高、見たい」
「あっ、あの、お色直しすればいいと思いませんか?一生に一回のことですし……」
恋愛や結婚にかなり夢を見ている椋が、頬を染めて妙案だと言いたげに挙手をした。
「それ採用。ウェディングドレスも用意する」
「それなら俺っちと幸チャンで張り切っちゃてドレス作っちゃうッスよー!」
「まあ、ウェディングドレスなんて作る機会ないし、やってあげてもいいけど」
普段は中学生らしからぬ大人すぎる言動で年上の団員にも臆することなくピシャリと鞭打つこともある幸だが、今回に限っては完全にからかい側に回っている。
何故わかるのかと言われれば、困ったようにおろおろする千晴を見て、にやりと悪い顔で笑っているからだ。

「は、話を聞いて、」
「じゃあ、おみみがウェディングケーキ担当にけってーい☆」
「なんだ、俺も参加させてくれるのか。だったら監督のためにカレーも作ろうか」
「生春巻きも」
「ああ、任せてくれ」

やんやと架空の結婚式話で盛り上がる団員を見て困り果てた千晴は、この喧噪のなかでもすやすやと寝ている密に泣きついた。
「うぅ、密くん。寝てないで助けてください……」
「未来の旦那の前で、他の男といちゃつくのは良くない」
いつのまにか会話の中心から外れていた真澄は、鋭い目つきでソファまでにじり寄って密を睨みつけた。

「う、浮気っていうか……そもそも僕ら付き合ってすらないよね!?」
「えっ、そうだったの!?」
咲也が千晴の声を聞きつけて、素っ頓狂な声をあげる。
「俺がアンタに夢中なのは知ってるはず。あとはアンタが頷くだけ」
「え、でもそういうのってもう少し段階というか、区切りみたいのをつけてするべきというか……。それに16歳に手を出したら社会人としての未来がなくなるし」
「じゃあ二十歳になったら良いってこと?それまで待てって言うなら待つ」
「あっ、ごめん今のは僕の言い方が悪かった。そういうことじゃないです!」


「ヘンタイショタコン監督が纏め上げる変態演劇集団MANKAIカンパニーになるわけね」
「ゆ、幸くん!そんなこと言っちゃダメだよぉっ!真澄くんの恋が……!」
「千晴さんに変なこと吹き込むな」
「へ、変態ショタコン……」
「あぁっ、ほら、カントクが顔面蒼白になっちゃってますよ!」
「大丈夫。とりあえず婚約だけしておいて、俺が18になったら結婚すればいい。それまでに春組公演で挙式費用を荒稼ぎするから」
「え?え?でもそれってつまり僕は真澄くんと結婚するってことになる?」
「困ってるアンタも可愛い。……ほんと好き」

密を膝に乗せた千晴の横で、真澄が千晴にすり寄って抱きしめて、恍惚の表情で桃色の息を吐いている。
「他の男に膝枕するはムカつくけど、千晴さんが俺と結婚するなら許す。しないなら許さない」
「えぇ?でも僕の膝枕にそれほどの価値ないと思うけど……というか、僕の膝は僕のものだし」
「アンタの膝枕は俺の。やっぱりムカつくから、こいつどかす」
真澄は荒々しく密を突き飛ばす。簡単にグラついた密の身体が重力に従って床に落ちていく。
ごつん、と大きな音がして千晴は肝が冷えたが、真澄を除く団員と千晴の心配をよそに、密は健やかな寝息を立てて眠りこけている。


「密くんだいじょ、あっ、こら、真澄くん、勝手に寝ころんじゃダメだよ」
空いた千晴の膝に我が物顔で鎮座した真澄は、ぶすくれた顔で千晴を見上げる。
「アイツは良いのに俺が駄目な理由はなに」
「太一くん。密くんをそっちのソファに寝かせてあげてくれる?」
「お安い御用っッスよー!」
「ありがとう。たんこぶ出来てないかな?」
「んー?わかんないけど、たぶん大丈夫ッス!」
「起きたら聞いてみようか」
真澄の問いにすら答えてくれない千晴。
いつもならば、膝枕をしてくれる時は優しく頭を撫でてくれるのに。
今はまるで真澄がこの場に居ないみたいにされている。

「アンタの膝で寝てるのは俺なのに、どうしてそいつばっかり……」
真澄は拗ねて千晴の腹側に顔を埋めて、千晴の腰に腕を巻き付けた。
「仲間をソファから落とす悪い子に貸す膝はありません。ほら、起きて」
どうやら真澄は千晴を少し怒らせてしまったようだ。
確かに密は寝ぼけて千晴の膝を枕にしただけで、それ以外は何も悪いことなどしていない、むしろそれが彼の通常運転なのだ。
千晴以外の人間の膝にだってよく頭を乗せている。ただ今回は千晴だっただけだ。
それを真澄が勝手に嫉妬して、勝手に密を悪者扱いしただけで。

「……やだ、ごめん。もうしないから、俺のこと嫌いにならないで……監督、千晴さん……お願い」
ちょっと懲らしめるつもりで言っただけなのに、千晴の言葉は真澄には真っ直ぐ届きすぎてしまう。
ぎゅう、と更に強く真澄の腕が千晴を拘束する。
やだやだ、と母に許しを請う駄々っ子のような無邪気な様に、千晴も怒りを収めるしかなくなる。

真澄は真澄で千晴を好きすぎるが故の暴走なのだ。
千晴に熱を上げている真澄は、幸が命名した「サイコストーカー」など気にもせず、ひたすらに千晴を見つめて愛を囁く。
それを大人な団員たちが温かく見守ってくれているから、この曖昧な関係は成り立っているのかもしれない。


「……はいはい、わかった、わかりました。じゃあ密くんが起きたらきちんと謝ること。それで許してあげる」
「千晴さん……優しい、好き。大好き、愛してる。嫁に来て。いや、嫁にする」
「ああもう、さっきまでの話を蒸し返さないでくれないかな」
困ったように、でも楽しそうに千晴が笑うから、真澄はそんな弾ける千晴の笑みにまた心を蕩けさせるのだった。


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真澄が可愛い……!監督に一途なのに報われないのが可哀想すぎて、どうにかして可愛がりたいと思ったのに、結局くっついていない二人を書いてしまいました……。
今後どうにかして真澄が報われるいちゃいちゃしてるお話が書きたいです!
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