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□真澄
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・真澄といちゃついているだけのばかっぷるの話
・真澄は演劇人としてのいづみちゃんを敬愛し、恋愛として主人公に惚れているという設定です。


真澄がMANKAIカンパニーに入団したのは2つの理由があった。
大きな要因であるのは、監督のいづみが堂々と楽しくストリートACTを演じていたこと。
何にも興味を示さなかった自分が、ここまで心を動かされたのは初めてだった。

そしてすぐに自覚はしなかったが、もう1つの理由は、いづみの弟である千晴の存在だ。
団員を募集する為のストリートACTの後で入団しないかと誘われた時、千晴が端でいづみや団員の傍で献身的な補佐をしていたのを見ていた。
裏方の仕事を目の当たりにした真澄は、何故かはわからなかったけれど、千晴の存在自体に強く惹かれていった。
入団当時は『監督の弟』としてしか認識していなかったけれど、千晴の人懐っこい性格は周りの人間を癒す効果があるらしい。

自分の最後の恋はいづみだと思っていたのに、真澄の視線はいつのまにか千晴に注がれるようになって、素直に千晴を好きだと自覚していった。
いづみのことをあんなに好き好き言っていたのに、違う人を好きになってしまった。
尻軽だなんていづみに言い放ったこともあったが、それは見事に自分に返ってきたというわけだ。
いづみのことはきちんと好きだ。しかしそれは自分の事を見守ってくれていたり、演劇に本気だったりという、『立花いづみという人間』に好感が持てるという意味でだ。

恋人がするような睦みあいをしたいと思ったのは、千晴だけだった。
真澄は悩みに悩んだ。いづみに嫌われるのは嫌だったからだ。
だが、これ以上自分の気持ちに嘘はつけなかった。
いづみに自分の気持ちを素直に告げた時、いづみは苦笑しながらこう言ったのだ。

『うん、知ってた。私のこと可愛いって言いながら千晴のこと目で追ってるんだもん。さすがにわかるよ。皆も知ってると思うよ』
衝撃的な一言に固まる真澄を見て、姉のような優しさでいづみは微笑んだ。
『千晴のこと、大切にしてあげてね。私よりずっと』
ぶんぶんと頷いた真澄は、その時にはもういづみを姉のような存在として据えてしまっていることを自覚した。
その後の真澄の行動は早かった。
いづみの部屋から千晴の部屋に向かって、すぐに千晴に自分の想いを告げた。
千晴も真澄の気持ちに気づいていたようで、二人は床に座り込みながら初めてのキスをしたのだった。


そして、二人は団員が「なぜくっついてしまったんだ……」と後悔する程、見境のないばかっぷるになってしまったのである。
少女漫画のような恋に憧れる椋は、二人を見るたびに頬を染めてうっとりしているが。


***


「千晴、好き」
「うん、僕も好き」
「『真澄くんのこと好き』ってちゃんと言って」
「真澄くんのこと大好きだよ」
「……うん」
「あ、照れてる?」
「照れてない」

照れを誤魔化すようにむくれた真澄は、昼食のキーマカレーを食べている千晴の髪を耳に掛けてやった。
今日は休日のため、ゆったりと昼食を取る面々の中で二人の存在はかなり目立っていた。
「あ、ありがとう」
「お礼は?」
「ご飯食べてるから後で」
「今が良い」
「はい、ちゅっ」
千晴は手でキツネの形を作って、鼻先に見立てた先端を真澄の頬にトンとつけた。
「はぁ、何それ可愛すぎ……。ねえ、『ちゅっ』てもう一回言って」
「え?『ちゅっ』?」
「可愛すぎて死ねる」
「真澄くんが死んだら悲しいなぁ」
「絶対死なない」

二人のいちゃつきは時間も場所もほとんど関係ない。
あれだけ学校に行きたくないと駄々をこねていた真澄も、千晴と登下校するようになってから毎日楽しそうだ。
ちなみに千晴と真澄は隣同士のクラスで、合同授業で千晴と一緒に受けられる体育の時間が一番好きだと真澄が言っていた。
体操着姿の千晴が可愛い、とメロメロになっていたのはいつだったか。

学校の女子たちに王子様と騒がれている真澄は一匹狼のはずだったのに、今は休み時間の度に千晴のクラスに通いつめているらしい。
恋愛に関しては素直で一途な真澄からは大好きオーラがだだ漏れていて、今に学校中に二人の仲が知れ渡るはずだと呆れていたのは万里だ。


千晴がカレーをぺろりと食べ終えてしまうと、真澄は千晴の皿を取ってキッチンに向かってしまった。
「真澄くん?」
不思議そうに首を傾げる千晴の元に真澄が帰ってきた時には、その皿には少量のおかわりが乗っていた。
「もう少し食べるだろ?」
「わぁ、ありがとう。丁度おかわり欲しいなって思ってたんだ!」
「うわ、サイコストーカーのサイコぶりに拍車がかかっててキモい」
運悪く二人の前の席に座っていた幸は、臆面もなく感想をぶつける。
しかし真澄は持ち前のクールさでその発言をさらりと流した。

「これ食べ終わったら、千晴の部屋に行く」
「うん?何かあった?」
「抱きしめてキスしていちゃいちゃしたい」
真澄がストレートすぎる口説き文句を千晴の目を見つめながら告げると、千晴はカレースプーンを口に銜えたまま顔を真っ赤に染めた。
団員たちは二人に視線を向けないようにして、千晴の『恥ずかしいこと言わないで!』と言う台詞を期待して黙っていたのだが。

「……ん、わ、わかった」
千晴はもじもじと恥じらいつつも、小さくそれを了承した。
「イチャイチャを越して本番まで行っちゃったりして」
ぼそっと至が呟くと、綴が慌てだした。
「い、至さん!中学生の前でそういう事言わないで下さいよ!」
「えぇ、何で俺?発端は真澄でしょ」
「はわわわわ」
当事者の千晴よりも興奮して震えている椋は、手で目を覆いながらも指を大きく開いて二人を見つめていた。
忠犬よろしく千晴が食事を終えるのを待っていた真澄は、慌てて残りを口に掻きこむ千晴を眺めて「もぐもぐしてる千晴も可愛い」と恋人の横顔にうっとりと酔いしれていた。

数分後、千晴は慌てながら真澄の手を取ってリビングを抜け出した。
急ぎ足で千晴の部屋に駆け込むと、千晴はようやくひと心地ついた様子で大きく息を吐いた。

クッションに座ると真澄は早速千晴を胸に掻き抱いて、すうと深呼吸して千晴の香りを堪能する。
全て自分のために誂えられたのだと言われても納得するくらい、千晴は真澄にとって抱き心地が良かった。
さらりとした髪が真澄の首筋に当たってくすぐったい。
露わな耳にちゅっとキスを落とせば、むずがゆそうに首を竦める姿が愛らしい。
「ふふ、くすぐったい」
耳から頬、鼻先、瞼、額と優しく唇を落とす真澄の仕草は丁寧で、その丁寧さが千晴は好きだった。
唇に触れようとした時に、千晴は焦ったようにグイっと真澄の胸を押した。
「嫌?」
「ううん、でも僕、まだ歯みがきしてないからカレーの味しちゃうかもって」
千晴が乙女らしい思考でキスを拒んだと知って、真澄の頬も上気する。
「俺もカレーの味するから、一緒」
「あっ、そうだ、そういえばそうだった」
えへへ、と照れくさそうに笑う千晴が可愛くて仕方なく、真澄はキスの続きを仕掛けた。

ちゅ、ちゅ。
千晴の唇を軽く啄む。
そして柔い舌先で唇のあわいをなぞると、千晴もそれに応えて、真澄の舌が入れる分だけ口を開いた。

ぬるり、愛しい恋人の粘膜に侵入して舐めあげる。
それだけのことなのに、真澄にはこれ以上ないくらいの興奮材料になる。

千晴は逃げるような、逆に絡ませ合うような動きで真澄を迎える。
その予測不可能の動きを追いかけて、自分の舌で包むように扱いた。
ん、んっ、と小さく鼻にかかった声で鳴くのも愛らしく、その先を求めてしまいたくなる。

「っ、ぁ……んむ」
耳の表層だけを爪の先で引っ掻くような真澄の愛撫に、千晴はぶるりと身を震わせる。
とろりと瞳の輪郭が崩れる様は、更に真澄の本能をじわじわと炙っていく。
このままでは確実に最後まで行ってしまうと察した千晴が、口づけの角度を変えようと唇を一瞬離した瞬間に、パッと顔を逸らした。


「っ、こ、この後は春組のみんなで自主稽古だよね?」

「そうだけど……ねぇ千晴、一回だけ……」
滴るほど甘い声で真澄が千晴の耳に、息と共に抗いがたい誘いを吹き込む。
「ま、真澄くんの『一回だけ』は、一回だけだったことない……っ」
「だって千晴が可愛くて、一回じゃ全然足りない」
「尚更だめだよっ」
「触りっこも駄目?」
「あぅ……」

千晴の首筋に真澄の指先が思わせぶりに踊る。
千晴は真澄のお願いにはとんと弱く、押され続ければ折れてしまう。
それを知る真澄はひたすら一途に、千晴に願いを叶えて欲しいとねだるだけだ。


「ねぇ……触るだけ、駄目?」
「で、でも……」

どうやってこの誘いから抜けられるだろうか。
半分以上は流されても良いかなと思ってしまっている千晴の理性を引き留めたのは、部屋の扉をノックされた音だった。

「はっ、はぁい!」
「良いとこだったのに……」
真澄の不機嫌な声を聞かなかったことにして、千晴は真澄の腕から出て扉を開けた。
その先に居たのは左京だった。
「千晴、監督さんが買い出しに付き合ってくれって言ってるぞ。俺が今から車出すから用意しろ」
監督の補佐という立ち位置で劇団をサポートしている千晴は、これ幸いとその要請に応じた。

「俺も行く」
「えぇっ?でもあと30分で自主稽古が始まるよ?」
部屋に二人で籠もってからかなり時間が経っていたらしい。
あのまま流されなくて本当に良かった、と千晴は心底、左京といづみに感謝した。
「稽古は休む」
「皆に迷惑が掛かるのは駄目」
「せっかくの休日に千晴と一緒に居られないなんて精神が死ぬ、無理」
「真澄くん?」

責任感の強い千晴は、諭すように真澄の名前を呼んで、じっと真澄を見つめる。
「俺を見つめる千晴が可愛い……」
頬を染めて視線を逸らせてしまった真澄が根負けして(本人はかなり嬉しそうだが)、千晴は鞄を手に部屋を飛び出した。


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