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□真澄
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綴が実家に戻ったのをいいことに、真澄は千晴を自室に連れ込んだ。
ただでさえスキンシップ好き(千晴限定だが)の真澄が、この好機を逃すはずもなく。
まだ夜も更けていないのに散々キスをされ、性急にしつこく求められた千晴は、風呂に入る余裕もなくぐったりとベッドに横たわっていた。

半ば気を失うようにして眠った千晴をぎゅうと抱きしめる真澄の力が強すぎて、苦しさのあまり目を覚ませばまた身体をまさぐられた。
ちらりと時計を見れば草木も眠る丑三つ時。
眠らせて欲しいとお願いしたものの、火のついた真澄の欲は留まる事を知らず。
力が出ずに口でしか拒絶できなかったのも影響したのだろう、真澄にはそれははっきりとした拒絶には見て取れず、睦言の一種として受け止められた。
そして流されるがまま、真澄の情熱を受け入れた身体はもう指先たりとも動かせなかった。
丁寧に身体の隅々までをタオルで拭われ、可愛い、好き、愛してる、ずっと傍に居る、なんて甘すぎる口説き文句のオンパレード。
そこまで好かれて悪い気はせず、真澄の暴挙を許してしまう自分の流されやすさにも、ここまで流されきってしまえば腹が立ちもしなかった。
朝イチでシャワーを浴びようと決意した千晴は、真澄の腕に抱かれて微睡の中に落ちていった。






遮光カーテンの端から漏れる光の明るさに目を覚ました千晴は、一瞬自分がどこに居るのかわからなくなった。
きょろりと一度見渡して、自分の居場所と昨日の記憶が脳に流れ込んでくる。
「あ、真澄の部屋か……」
独り言が掠れて、喉に違和感が残った。風邪を引いたか、と思ったけれど原因は完全に昨日の睦み合いだったことが推して知れた。
昨日までお互いの予定がなかなか合わずにご無沙汰だったから、あんなに求められたのは仕方なかった部分もある。
ただでさえ欲しがりで与えたがりな真澄をオアズケ状態にさせてしまっていたのだ。
前に真澄を犬と評した万里の言葉を参考にすれば、これは『飼い主の責任』ということになるだろう。

真澄に後ろから抱きつかれるような体勢になっているため、身動きがとりづらい。
起きているのか知りたくて身体を反転させようと思ったけれど、動くのは首だけだった。
「へ?」
腕を後ろへ倒そうとしても、力が入らずにパタリと落ちてしまう。
「え、あれ?」
腰を動かすと鈍痛と共にビキッと体内で変な音が鳴り、千晴は呻き声をあげた。

寝たのに筋力と体力が回復していないのだろうか。
それともそれを越える程に激しい夜だったということか?
一人で顔を赤らめていると、後ろでもぞりと真澄が動いた。

「ま、ますみっ、真澄」
「ん〜……ふぁぁ」
「起きて、真澄」
「んん?千晴……」
「真澄、おれの身体そっちに向けさせて」
「え?」
何故だと訝る声に、いいから早くと催促する。
いとも簡単に身体をくるりと反転させられ、千晴の筋肉が悲鳴を上げる。

「うぐっ……」
「どっか痛い?」
「どっかどころか、全身。身体が動かない……」
頭の回転が速い真澄は、その原因を素早く理解したようで頬を少し朱に染めた。
「俺のせい……か」
「嬉しがらないでくれるかな」
ここまで嬉しそうにされると、文句のひとつでも言いたくなる。流されてしまった自分も自分であるのだから、真澄だけの責任ではないのは十分承知してはいるのだが。
「今日は昼から約束あったのに……」
友人と適当にぶらぶら遊ぼうと約束していたのだが、これじゃあ遊ぶどころか歩くことも儘ならなさそうだ。
別日に変更できる約束だったのが不幸中の幸いだ。

「じゃあ、今日はずっと一緒に居られる?」
真澄が嬉しそうに無邪気に聞いてくるので、千晴は怒る気力も何も消え失せ、はぁと溜息をひとつ吐いて目を閉じた。
「断りの連絡入れてくれるなら」
「わかった」
素早く千晴の携帯に手を伸ばし、千晴の友人との会話画面に文字を打ち込んでいく。
送る前に千晴のチェックを受けて、「本当にごめんって入れて」という指摘の後、それは無事に送信された。
そこまで時間がかからず、OKというスタンプが送られてきた。

「千晴を独り占め……嬉しい」
昨日あんなに独り占めしたくせにと詰れば、多分また真澄のいろいろな欲に火を付けることになるだろうと、賢明な判断を下して自重した。
「おれ、真澄を淋しくさせてた?」
「いちゃいちゃ出来ないのは、不満だった」
「まあ綴も居るし、昨日みたいなのはこれからも頻繁には出来ないと思うけどさ……。淋しくさせてたらごめん」
「千晴が俺のこと好きなら、それだけで良い」
殊勝な台詞に、おやっ?と眉を上げた千晴は、意地悪な言葉を発した。
「じゃあ、真澄のこと大好きだから、もうえっちもキスもしなくても、ただ好きでいるだけで良い?」
表情が乏しい真澄がわかりやすく驚いた顔をしたので、千晴はついつい吹き出しそうになった。
「……だめ。千晴に触れないとか無理。何でそんなこと言うの」
駄々をこねる子供みたいにイヤイヤと首を振る際に頭を胸板辺りに押し当てられて、なぜだか千晴はきゅんとしてしまった。
「からかって楽しい?」
「うん、楽しい。真澄がおれのこと大好きなんだなってわかるのが嬉しいかな」
「からかうな」
「おれの楽しみのひとつなのに」
真澄は不服そうにじっとりと千晴を見たが、それ以上にまっすぐな瞳で千晴に見つめ返されてしまい、うっ、と息を詰めた。
「そんな目で見られたら許すしかない……すき」
「へへ、ありがと」

良い子にはご褒美をあげよう、と千晴は真澄に向かって腕を広げた。
まだ力が入らなくて浮かせた腕はぷるぷるしてしまっているけど、『胸に飛び込んでおいで』の合図を真澄は見逃さず、俊敏に千晴の胸にすっぽり収まった。
真澄は千晴を抱きしめるのも大好きだが、千晴に包まれるのも同じくらい好きだった。

「あー、腕だるい」
力を抜いた腕がだらんと真澄の肩甲骨あたりに回る。
「俺のせい?」
「真澄が離してくれなかったからさ」
「千晴が俺の首に腕を回してキスをねだったからだろ」
「じゃあ真澄はおれとキスしたくなかった?」
「あんな可愛い顔されて、我慢なんてできるわけない。千晴が可愛すぎるせい」
「可愛いよりかっこいいって言われる方が嬉しいんだけどなぁ」
「千晴が可愛いのは宇宙でも常識」
詐欺師かというくらいにするすると砂糖の蜂蜜掛けみたいな言葉を出してくるものだから、千晴もついつい欲張りになって、こうして言葉遊びみたく真澄を詰るのをやめられない。
愛されてる実感がこれでもかと押し寄せて来て、最初はこっ恥ずかしかった甘い囁きも、今ではもう無いと満足できなくなってしまった。
真澄の愛に溺れて死にたいとすら思ってしまっている程、重症患者だ。
簡単にときめいてしまう千晴も千晴なのだが。

「真澄ってほんと魔性……」
「それって、千晴が俺にめろめろってこと?」
「幸にもサイコストーカーって言われてるけど、真澄の愛って基本的に重いじゃん?」
悪びれずにあっけらかんと言い放つと、ショックを受けたように真澄は固まった。
「あ、変な意味じゃなくてさ」
腕をどうにか動かして、安心させるように真澄の髪をくしゅくしゅと撫ぜる。
優しい千晴の手つきはいつもと同じで温かく、真澄の気持ちを少しだけ落ち着かせることができた。

「最初はちょっと戸惑ったけど、真澄が注いでくれる気持ちをずーっと貰ってるうちに、もう真澄の愛が無いとおれってダメだなぁって思って」
「え……」
「真澄に可愛いとか好きとか言われるとさ、嬉しくなって、愛しくなって、もっと欲しいって思っちゃうんだ。なんか中毒性のある麻薬みたい。多分おれの方が、真澄が居なくなると淋しくて悲しくて生きていけないんだろうな」
真澄の顔が見えていないからこそ言えた、ずっと胸にしまっていた本音。
団員たちはみんな、真澄からの矢印が大きくて重いと思っている。
それは間違いではないのだが、千晴からの矢印だって見えにくいだけで、きっとずっと重量級なのだ。

「千晴に殺される……嬉しすぎ。そんなこと言われたら、可愛いも好きも、たくさん言って俺のこともっと好きにさせるから」
「これ以上?」
「そう、もっと千晴が俺だけを見て、俺にだけ笑って、俺だけを好きにさせる」
「んふふ、そっか」
欲張りな恋人の言葉に千晴はにやつく。幸福が胸いっぱいに満ちていき、抱きしめる身体の確かな温度が心地よい。

「そっか、って何。どうして好きって言ってくれないの」
「好きって言ってるじゃん」
「言ってない」
「こうやって抱きしめられてると、おれの『好きだ〜〜〜っ』て気持ち、伝わって行かない?」
ありったけの力で千晴がぎゅうっと抱きしめると、真澄の頬が上気した。
「千晴の愛に押しつぶされて死にそう」
「やっと伝わったか」
「うん。だから、今度は俺の番」
千晴の腕からするりと抜けだした真澄が、今度は千晴を自分の胸にすっぽりと収めた。

「千晴、今日も可愛い。もっと俺の愛を感じて、もっと好きになって」
千晴を抱きしめながら、またすやすやと穏やかな寝息を立ててしまった真澄の腕の中で、千晴がクスリと苦笑した。

「これじゃあ今日はもうベッドから出られそうにないな」
身体もまだ回復の兆しを見せないし、そもそも真澄に抱きしめられたままでは身動きが取れない。
「せっかくの休みなのにな」
口先では文句を言いながらも、千晴の唇の端には幸福が見て取れた。


>>>
真澄が可愛い。
いつも言ってるけど。

真澄を幸せにしたい一心です。

タイトルは、1141様より
「まったりした時間にお題を5つ」
・01.ベッドから抜けられない朝
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