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□真澄
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・主人公は監督。≒いづみちゃん。

真澄はリビングで膝を抱えて俯いていた。
今日は千晴が学生時代の友達と行っている二泊三日の旅行から帰って来る日だから、もっと嬉しそうにしていてもいい筈なのだが。
現に真澄は今日出掛けるまでは無表情ながらも花を飛ばして喜んでいた。
だが帰って来た時には既に今のように意気消沈していて、お人好し組がどうしたのかと真澄の周りに集まっている。

「……何で俺じゃ監督を幸せにできないんだろう……」
本格的な悩みに、団員たちは何があったのかと困惑する。
千晴に関しては必要以上にポジティブな一面を見せる真澄がここまで打ちのめされるとは。
とうとう正面切って告白をし、見事玉砕したのだろうか。
とはいえ会っていないのに、振られるとはこれ如何に。LIMEで告白でもしたのだろうかと団員たちは目配せをする。
真澄はLIMEで告白しそうもないが、現代っ子は真っ向コミュニケーションに慣れていないものだから、やはりLIMEで告白してしまったのだろう。

「アプローチの仕方が悪かったんじゃねえの」
別のソファに座りながらテレビを見ていた万里が悪びれず言い放つ。
「万里くん、ひどい!」
真澄を弟のように可愛がっている咲也が、万里を非難する。
「相手は大人なわけだろ?そんでお前は未成年、しかも高校生。そりゃ振られるに決まってんだろ。高校生と付き合ったら淫行罪で捕まるしな」
「確かに、せめて卒業はしてもらわないと、まっすーと正式に付き合うのはムズいかもしんないね」
千晴の気持ちを一切考慮していないが、それ以前にクリアすべき問題があるだろうと団員たちは顔を突き合わせて考える。
「団員と監督ってのも気まずいかもな。しかも俺たちは駆け出しの劇団だし、熱愛報道なんか出たらファンが離れてく可能性もある」
綴は真剣な表情だ。
「立ち位置とか考える前に、自分のサイコぶりを反省して普通の人間になる努力したら」
「幸チャン、辛辣!もうちょっと言葉選んであげて下さいっす!」
「付き合う前から束縛体質なんだから、付き合ったらもっとすごいことになるのは目に見えてるしな」
「ポンコツ役者とサイコストーカー、どっちがマシだろ」
「なんだとコラ!」
「ジェラシーのあまり恋人を刺し殺す男のニュース見たヨ!マスミは絶対それになるネ」
「するわけないだろ。アイツを殺すなんて出来るわけない」
「監督を殺して俺も死ぬ、とか考えないんだ?」
「至さん、真澄に変な知識与えないで下さいよ!」
綴が慌てて至に諌言するが、至はどこ吹く風といった様子で気にも留めていない。
真澄を疑う訳ではないが、妄信ぶりを間近で見ている人間からすれば、真澄がその考えに至る可能性も無くはないとひっそり思っていた。
「俺が最後に見るのは、監督の幸せそうな顔が良い。悲しい顔なんてさせない」
「真澄クン、カッコイイっす!オレっちも早く真実の愛ってやつを見つけてぇ〜!」

「……だけど俺じゃ、監督を幸せにできない……」
結局、またそこに戻ってしまった。
己の至らなさに歯噛みしている真澄に、団員たちは簡単に励ます言葉を告げられなかった。

「そもそも、どうして真澄くんだとカントクを幸せにできないの?」
その言葉を聞いた真澄は、生気のない顔でぼんやりと口を開いた。
「監督は俺より……」
「ただいまー」

リビングの扉越しにくぐもった声が聞こえた。千晴が帰って来たのだ。
扉の近くに居たシトロンが開けると、荷物を持った千晴が入ってくる。
「ただいま戻りましたーっと。みんな元気にしてた?」
団員たちの顔をぐるりと見回す千晴に、臣が気を利かせて麦茶を差し出す。
「おかえり、カントク」
「あ、臣くんありがとう」
ごくごくと飲みきる様を見て、喉仏動いてる、好き……と真澄は桃色のため息を吐く。

「……お帰り」
「あ、真澄くん。ただいま」
「……これ、言ってたやつ」
真澄が両手サイズの紙袋を千晴に渡すと、旅行疲れで疲労が滲んでいた千晴の顔がパッと明るくなる。
「ありがとう!わざわざ並んでくれたんだ」
「アンタが食べたがってたやつだから」
「たまにしか出店やらないから、なかなか買う機会無かったんだ。本当にありがとう!」
カレー好きに加え甘味好きでもある千晴は満面の笑みで礼を言う。
「嬉しそうに笑うアンタも好き……」
後で食べよう、と小躍りしている千晴を真澄はアンニュイな顔で見つめる。


荷解きしてくると部屋に戻った千晴を見送り、また真澄はどんよりと肩を落とした。
「はぁ……あんなのすら監督を幸せにできるのに……」

その言葉で全てを把握した綴と万里は、同時につっこんだ。
「「菓子のことかよ!」」
「さっきのワタシたちの真剣さを返してほしいヨ!」
シトロンが憮然と言えば、至は失笑した。
「ま、どうせそんなことだと思ってたけどさ」
「犯罪とかのレベルじゃないってことか。さすがサイコストーカーは考えることが違うね」
「菓子に嫉妬とか……恥ずかしい奴」
天馬が嘆息するも、真澄は歯向かうことなくしょんぼりとしている。

「だけど、カントクが幸せになれたのは真澄くんが買ってあげたからだよ!だから、いまカントクが幸せなのは真澄くんのおかげだよ」
明るく真澄を励ますのはやはり咲也だった。
「考えようによってはそうっすよ!真澄クン、落ち込まないでくださいっす!」
「そーそー、まっすー自信持っていこ♪」
お人好し組が続々と真澄に温かい言葉を掛けていく。
「………ん、」
真澄もこくりと頷いた。良かったとホッとする咲也の前から立ち上がった真澄は、
「お礼に撫でてもらうように頼んでくる」
いつもの調子で千晴の部屋に向かったのだった。


「ほんとブレねぇな」
「落ち込んだところで真澄は真澄、ってこと」

至の言葉に、団員たちは全くもってその通りだと認識を新たにしたのだった。

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監督のことで一生懸命な真澄が可愛いですね。
落ち込んでる真澄も可愛いですよね。
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