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□真澄
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・寒がりの真澄と暑がりの主人公


千晴の部屋の空気はいつも冷たい。
温い空気を浴びるのが嫌いで、ストーブやエアコンで温められた部屋に居ると、苦しくなって息ができなくなるからだ。
とはいえ、さすがに真冬に暖房の無い部屋に居るのは無理なので、こたつを部屋に置いている。
寒い時だけ足をこたつに入れて、寒くなくなったらこたつに入ったまま電気を切る。
そうすれば寒くもなく、勉強ももこたつでそのままできるし、テレビも見れるので一石二鳥だ。

だから千晴は冬はいつも自分の部屋に籠りきりになる。
それが快適なので続けているのだが、それを不満に思っているのが恋人の真澄だ。


何といっても真澄は団員内屈指の寒がり屋だった。
綴が文句を言わないのを良いことに、ずっとエアコンを入れている。
リビングでチワワのように震えている真澄を心配して、咲也と椋が防寒用品をプレゼントしてくれた程だ。
咲也からはネックウォーマーを貰い、椋からは可愛いクマさんがプリントされたもこもこ靴下を貰った。
室内でも常にこの二つを身に着け、愛用している。
因みにこの2つは最初は嫌がっていたが、千晴が「似合うじゃん」と褒めたので、その瞬間からお気に入りになった。何しろ暖かいのが最高だ。

暖房嫌いの千晴と、寒がりの真澄が冬に同じ部屋に居るのは難しい。
しかし真澄の愛は寒さをも超越するらしく、千晴が夕飯を終えて団員との会話もそこそこに自室に引きこもってしまうと、何の迷いもなく真澄は後を追っていく。
千晴がこたつの電源を入れると、真澄は震えながら千晴よりも先にこたつに入った。
「千晴、寒い」
「こたつ暖まるまで、もうちょっとの我慢な」
出来る限り身体を縮めて、こたつ布団で上半身を覆う。
くしゃりと頭を撫でられたので、真澄はうっとりとその手の心地よさに浸った。


ようやくこたつの熱がじわりと真澄の肌を温め始める。
千晴はテレビを見ているけれど、真澄は横になっているのでテレビが見えない。
まあ、それでも真澄の興味の対象はテレビより千晴であるから、真澄は千晴の顔が見られるこの位置で大満足なのだが。

しばらくしてだんだんと身体が温まってくると、途端に手持無沙汰になる。
千晴の顔を見られるのは大歓迎だが、見るよりは触りたい。触るよりはいちゃつきたい。
真澄は意を決してこたつから出る。
部屋自体は冷え切っているので、容赦なく寒気が真澄の肌を刺していく。

ぶるりと身体を震わせて、千晴の背中に抱き着いた。
「ん?どうした?」
「寒い……でも千晴に触りたい」
「ほら、足入れて」
千晴を真澄の股の間に挟むようにして、千晴を後ろから抱きしめる。
真澄の足がしっかりとこたつに入ったのを確認した千晴は、隙間を埋めるようにこたつ布団を掛け直した。
「この体勢、最高。千晴に触れるし、暖かい」
「それは良かった」
千晴の肩口に顎を置いて呟く真澄は、後ろ手で頭を再度わしゃわしゃと撫でられ、ふにゃりと力を抜いた。
一生こうして居たい。背中は少し寒いけど、千晴が湯たんぽ代わりになっているから気にするほどの事ではなかった。

後ろから千晴の手を握り、指を一本一本絡めながら、にぎにぎとその感触を確かめる。
爪が綺麗に切り揃えられていて、冬なのに手荒れもない。
真澄と掌の大きさはほとんど同じだけれど、指は真澄より少し長いようだ。
千晴の指が細いからすらっと見えるだけかもしれない。

まじまじと観察していると、「見過ぎだ」と笑われてしまった。
「おれの手なんか触って楽しいか?」
「楽しいに決まってる。千晴は手も可愛い」
「はは。手が可愛いって何だよ、聞いたことない。手に可愛いも格好いいも無いだろ」
「ある。千晴の身体だったら、どこも可愛いし格好いい」
「真澄って変なことばっかり言うよなぁ」

おかしそうに言うものだから、真澄はどれだけ千晴が愛すべき存在であるかを力説しはじめる。
「千晴の可愛い所、たくさんあるから」
「例えば?」
「笑うと左側だけにえくぼができる」
「へぇ」
「靴を履くのは絶対に右から」
「それホント?完全に無意識だ」
「夕飯にから揚げが出るとテンションあがるし、朝ご飯に焼き鮭が出ると幸せそうにしてる」
「美味しいよな、から揚げと焼き鮭」
「それに、」

真澄は千晴の耳の裏の付け根にキスをする。
千晴はまさかこの流れでキスされると思わずに、驚いてビクリと肩を震わせた。

「おわっ!?」
「ここに、ほくろあるの気づいてる?」
「え?耳の裏?」
「そう。髪に隠れてるから俺しか知らないはず。俺しか知らない千晴の秘密。はぁ、最高に可愛い……」
真澄がうっとりと恍惚を浮かべて吐息するものだから、千晴の耳に温い風が当たる。
自分でも知らない事を真澄には知られてしまっていると自覚すれば、他には何を知られているのだろう?と背筋にぞくりと何かが走った。
その変な感覚を消すように、千晴は大げさに真澄に言葉を返した。

「そ、それは気づかなかったなー!真澄のほくろの方がよっぽどエロいだろ!」
「俺のほくろが好きってこと?」
「泣きぼくろと下唇近くのほくろって、なんかエロいよな!理由はわかんないけど!」
内心焦る千晴には気付かないのか、真澄は千晴の言葉に満足げにはにかむ。
「もっとほくろ増やして欲しい?」
嬉々として変なことを聞いてくるものだから、ほくろまみれの真澄を想像してしまう。別にあったって嫌いにはならないが、わざと増やす必要など全くない。
「何にでも限度ってのがあってな?いっぱいあれば良いってもんじゃないだろ?真澄ってホント極端だよな」

恋人の好みに服装や髪形などを変えるのは珍しくないかもしれない。
しかし、ほくろを増やそうなんて努力の方向性を間違っているよなぁ……という思いは胸に秘めておいた。

「じゃあ、そのままの俺でも好き?」
「真澄のそういう素直なところ、ある意味尊敬に値する」
自分だったらこんな台詞こっぱずかしくて絶対に言えない。
千晴がこんな台詞を吐きでもしたら、大半の女子にナルシストと言われること間違いない。
でも真澄は学園の王子様だから、言われたら女子はクラクラしちゃうんだろうな。
くっ、これがイケメンとフツメンの差ってやつかこの野郎。

「千晴が好きになってくれるなら、どんな人間にでもなる。それだけ」
「……そっか、ありがとな。真澄のことちゃんと好きだから、心配する必要はないぞ」
「はぁ、もうどんだけ好きにさせれば気が済むの」

目がハートになった真澄にしばらくキス攻撃をされて、千晴は上がった体温を持て余していた。
こたつの電源を切ったものの、一度こもった熱はなかなか発散されず、正直言って暑い。
しかも真澄がぎゅうぎゅうと遠慮なく抱き着いてきて、熱が逃げきれずにいる。

「ますみ〜、暑いんだけど」
訴えの通り、千晴はじんわりと背中に汗をかいていた。隙間なくぴったりと包まれていれば汗もかくだろう。
「俺は適温。千晴と離れたら寒くなる」
「少しだけでいいからさ、離してよ。ふんわり抱きしめて欲しい」
「嫌だ。千晴と1ミリも離れたくない」
「うぅ……あづい〜〜」

真澄の言葉は嬉しいが、このままじゃ汗だくになってしまう。
千晴を堪能している真澄には悪いが、意地でも腕から抜けさせてもらおう。
何も言わずに俊敏に立ち上がろうとしてみたが、こたつに阻まれてもたもたしているうちに真澄の腕に力がこもってしまった。
脱出失敗。次は意表を突けないだろう。
「は〜な〜せぇ〜〜〜」
「絶対離さない。離したらもう、こうしてくれないだろうから、今のうちに堪能する。それとも、またこうするの許してくれる?」
「…………」
「ほら、やっぱり」
「いやいや、何も言ってないですし?」
「即答しないってことは、嫌がる可能性があるからだろ」
「暑い時じゃなければいつでもして良いぞ」
「今、冬だけど。今も駄目ならいつなら良いの」

真澄の流れるような怒涛の畳み掛け攻撃に、さすがの千晴もぐっと黙った。
純粋な瞳で真剣に質問を受け、何でこんな事で言い争ってるのか訳がわからなくなる。
あれ、もしかしてこれがいちゃつくってヤツなのだろうか。
他所でやれと万里に足蹴にされたこともあるが、本人たちは至って真面目なのだ。

そう思ってしまえば何故だかくすぐったく、千晴はにんまりと口角を上げた。
突然上機嫌になった千晴の豹変ぶりに真澄が疑問符を飛ばす。

「真澄、おれのこと離したくない?」
「当たり前。家でも外でもずっとくっついてたい。キスもしたい」
絶対離さないと、くっついている身体を更に引き寄せられて、真澄の鼻先が千晴の項に擦り寄るからくすぐったくて堪らない。
「おれってば愛されちゃってるなぁ〜」
「こんなに好きって言ってるのに、まだ実感ない?」
「再確認したの。おれだって真澄に抱きしめられるの好きだし」
「千晴……」

千晴の嬉しい言葉にメロメロになっている真澄を後ろ手でをふわりと撫でると、千晴は元気に真澄に告げる。
「よし、じゃあ離して」
「……は?」
数秒前と言っている事が違っていて、真澄もあまりの唐突さに反応できなかった。
ぐいっと真澄の腕を力づくで緩めた千晴に、真澄はショックを受ける。
しかしすかさず腕を巻きつけて、千晴のうなじに擦り寄ったまま、どんよりとした声を落とす。

「千晴は酷い……喜ばせておいて突き放すのか」
「違う違う、良い方法見つけたんだって」
「……良い方法?」
「いいから緩めろって、早く」
ぺちぺちと軽く腕をはたかれて、真澄は渋々千晴の指示に従った。
解放されてほっと息をひとつ吐いた千晴は、突如ガバッと服を脱ぎだした。

「服を脱ぐってことはそういうこと?いきなり誘ってくるなんて、大胆……」
真澄は頬を赤らめながらも、千晴の一挙手一投足を見逃すまいと見つめている。
そしてTシャツ一枚になったところで、すっぽりと今までの場所―……真澄の胸に背中を凭れさせた。

「ほら、こうしておれが薄着になれば、真澄に抱きしめられても暑くないだろ」
千晴の行動の真意を知った真澄は、花が咲くように唇を綻ばせた。
そして大義名分を得たと言わんばかりに、ぎゅっと抱き着いてくる。

「汗かいたから、汗臭いのは我慢してくれ」
「ん……千晴の匂い好き」
汗臭いと言っているのに逆にクンクンと嗅がれてしまい、やめろと真澄の顔を平手でグイと押しのける。
「嗅ぐなってば」
「どうして。好きなのに」
「嫌なものは嫌だ」
「千晴も俺の匂い嗅げば?」
「えっ、」

なんか変態くさいこと言われたぞと思った千晴だが、ちょっと興味が出てきてしまう。
くるりと身体を反転して真澄に向き合い、鼻先を真澄の首筋にそっと埋めた。
まず感じたのは、生き物の匂い。その後、真澄自身の匂いがふわりと香り立って、鼻腔をくすぐる。
悪くない、と思ってしまった。そして無意識に千晴はその匂いを取り込むように深呼吸していた。
どこか安心感さえ覚えるそれにうっとりして、ふにゃりと真澄の胸に凭れる。
慈しまれるように髪や肩を撫でられて夢見心地のままの千晴に、真澄は小さく唇を落とす。


「俺の匂い、好き?」
「うん……好きだ」
「何でこういう時ばっかり素直なの……はぁ、愛してる。永遠に好き」

ちゅっちゅっとキスの雨が止むことなく降って来て、千晴は暑さを忘れてその唇に応じた。


>>>
こたつの話が匂いフェチ?の話になりました。

真澄への愛が止まらない……!!
口調などももうちょっと勉強します。


今作が今年最後の更新となりました。
来年も皆様にいろいろなお話を提供できればと思います。
今後も宜しくお願い致します!
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