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□ヴィクトル
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中四国九州選手権大会で、ヴィクトルが初めて勇利のコーチとして表舞台に出る。
大会を翌日に控えた夜、ヴィクトルはご機嫌にスーツを着こなしていた。

「明日はオレの記念すべきコーチお披露目の日だ」
「『ユウリのシーズン初日』、でしょ?主役はヴィチューシュカじゃないよ」
「そう。ユウリのシーズン初日であり、オレの正式コーチ初日だ。だから一分の隙もないくらいに完璧にしないと。チハル、ネクタイはどっちが好み?」
「またそんなこと言って……。こっちかな」
チハルが手に取ったネクタイを姿見の前で合わせたヴィクトルは、満足げに頷いた。
「うん、パーフェクトだ」
「選手よりコーチの方が目立ったら本末転倒だよ」
そう言い含めながらも、チハルがなんの気なしにヴィクトルの首にネクタイを巻いてやった。
暇だったからただの手慰みのようなものだったけれど。
その時たまたまヴィクトルの部屋を通りかかった寛子が、にこにこと人の良い笑みで言う。
「あらあら、新婚さんみたいやねぇ」
「シンコンサン?シンコンサンって何だい、ヒロコ」
まだまだ全然日本語がわからないヴィクトルとチハルは、二人で首を傾げる。

「えぇ?新婚さんって英語で何て言うんやろねぇ」
「ユウリー!シンコンサンってどういう意味?」
ヴィクトルが大きな声で勇利を呼びつけると、勇利は面倒くさそうにこっちまでやって来て説明をする。

「結婚したばっかりのカップルって意味だよ。そうやってネクタイを締めたり、いちゃいちゃしてるカップルとかをそう冷やかしたりもするね」
「ワオ!素敵な表現だね。オレたちにぴったりの言葉だ。チハルはいつまでもオレの愛しいダーリンだからね」
「おれも愛してるよダーリン」
悪戯に悪ノリしたしてチュッと頬にキスした結果、ヴィクトルは薄い肌を赤く染めて喜んだ。
「チハル、もう一回ネクタイ巻いて!」
「もういいから脱いで寝ようよ」
「シンコンサンを満喫するんだよ!」
「でもおれもう眠いし……」
「じゃあ僕もそろそろ寝ようかな〜、おやすみ」
「二人とも、あんまり夜更かしせんようにね」
「あ、ユウリ、ヒロコ……」

二人のいちゃつきに構ってられるかと、勇利と寛子は部屋を後にした。
「チハル〜」
「明日してあげるってば。明日きちんと、ヴィチューシュカのコーチ初日を美しく飾ってあげるからさ」
「絶対だよ?」
「ふふ、もちろん。楽しみにしてる」
「あっ、じゃあ約束する時のやつやろう。日本バージョンのやつ」
「あぁ、約束を破ると死ぬほど殴られて針を飲まされる、あの恐ろしいやつ」
「そうそう」
ユービキーリゲーンマン、と小指を絡めて言い終わった後、ヴィクトルはチハルの小指に口づけた。

そうと決まればヴィクトルは早速スーツを脱いで生まれたままの姿になった。
触り心地の良いシーツに包まれ、チハルをその腕に抱いたまますやすやと眠る。



そうして次の日。
勇利が緊張しながら会場でそわそわしている最中、ヴィクトルとチハルは控室に居た。
約束通り、コーチお披露目の為にスーツに身を包んだヴィクトルのネクタイを結ぶためだ。

「この大会なら問題なく1位になれると思うから、そんなに心配してないけど。ユウリに余計なこと言わないようにね」
「コーチなんだから言うさ」
「『これくらい当然できるよね?』とかは禁句ってこと」
ヴィクトルに腰を抱かれながらもネクタイをするすると手際よく結びながら、チハルはヴィクトルにあれはするなこれはダメと口を酸っぱくして言い含めていた。
「無粋な会話だなぁ。チハルはオレの恋人だろう?マーマじゃない。せっかくシンコンサンしてるのに」
ヴィクトルが肩を竦めて遺憾を表す。
「今日はヴィチューシュカじゃなくてユウリが主役の日。メンタルが物を言うスポーツなんだから、ヴィチューシュカが上手に自信とやる気を引き出してあげないと」
チハルの手が美しいノットを形作る。
最後にきゅっと苦しくない程度に締められ、ノットにポンと手を置いて終わりの合図とする。
「はい、終わり。よし、男前。俺のヴィチューシュカは何を着ても様になるね」
出来に満足したチハルがふわりと笑みを浮かべる。
リップサービスと判り切った褒め言葉でもチハルに言われれば嬉しくなってしまうのだから、自分も現金な男だとヴィクトルは胸の内で苦笑する。

恋人にネクタイを締めてもらうというのもなかなか悪くない。
味を占めたヴィクトルは、この日以来スーツを着る時はいつもチハルにネクタイ結びをねだるようになった。





それから時々、ヴィクトルが取材やら何やらでフォーマルな場に出る時はチハルがネクタイを結んでいる。
最初はヴィクトルの可愛らしいお願いに応えてやっていたが、最近はだんだん面倒になってきていた。
「チハル〜!」
「ネクタイなら自分でやって」
「えぇっ、なぜ!?」
「自分で結べるんだから、自分でやれるはずだよ」
「シンコンサンしてよ〜、チハル〜」
ネクタイを結ぶことを『シンコンサンする』と勝手に言葉を作っているヴィクトルが、駄々をこねる。

面倒くさいと素直に言えば、愛が無い!と詰られると予想がついたので、チハルはさてどうしようかと頭を捻る。
すぐにパッと閃きが下りてきて、チハルはにっこりと美しい笑みをヴィクトルに向けた。
「自分で結べたら、ご褒美として夜に解いてあげてもいいよ?」
思わせぶりな指先でヴィクトルの首筋をツゥと撫でる。
ヴィクトルはチハルの言葉の意味をしっかりと理解して、妖艶に目を細めた。

「その言葉、忘れちゃだめだよ」
ヴィクトルはチハルの頬に口づけて、上機嫌でネクタイを結び始めた。
どうせ二人はいつも乾く間もなく肌を合わせているのだ。たまにはこんな誘い方も悪くないだろう。








…………後悔とは、まさに読んで字の如く。
「んぁぁっ、ヒッ、も、出ないって、ばぁ……むりぃ」
「無理じゃないよねぇ?ご褒美なんだから、もっと気持ち良くして貰わないと」
「あ、そんなこと言って、ンぁ、俺ばっかイって、あぁっ」
その夜、勇利がベッドに入るのを見届けたヴィクトルは、約束通りにチハルにネクタイを解いてもらった。
散々焦らせだの、もっと色気たっぷりにだのと茶々を入れながらも大変満足できるお遊びの後、じゃあご褒美を貰おうかとチハルを組み敷いたのが始まりだった。
そこからしつこく気持ちいい場所だけを的確に刺激され、何回か気をやったところで、まだヴィクトルはチハルのナカで衰えることなく自身を主張していた。

「ほら、気持ちいいね?ここ、好きだろ?」
前立腺に掠りそうな場所を際どく攻め立てると、あまりのもどかしさにチハルは腰をくねらせてくぐもった声を上げた。
「あぁぅ……あっ、そこ、やぁぁっ」
切なげにヴィクトルを見つめて、涙の膜をうっすらと浮かべた瞳をくるくると動かす。
「ね、お尻でもっとキュッって締めて」
「ん、んんぅ」
ヴィクトルのいやらしいお願いに応えるように、チハルは唇を噛み締めて後ろをゆるゆると動かした。
同時に腰も突き出して刺激を与えて、ヴィクトルは気持ちよさに顔を顰めた。
「ふァ、はっ、はぁっ」
犬みたいにはぁはぁと息を荒げる様にもエロスを感じて、ヴィクトルはその柔らかい唇に噛み付いた。

「んむっ……んぁぁ……んん」
キスをしただけでこんなにも蕩けてしまう恋人が愛しい。
思わず力が入って注挿を強めてしまい、眉をハの字にしてチハルの感じ入る声が骨にまで振動して伝わってくる。
「あぁ、良いよ。最高だ……とろとろで、キツい。もっと大きくなっちゃうかも」
「やっ、そんなの、無理ぃ……!これ以上なんて、おかしくなる、からっ」
「そんなに可愛い反応されたら育つに決まってるよ」
びくびくと震えるヴィクトルの熱に、チハルはくらくらしながら無意識に締め付けた。
「うん、そう上手だ。オレの恋人はオレが気持ちよくなれることを知り尽くしてるっ、ほらっ」
長大なそれをずるりと抜いてから、素早く打ち込む。
肉のぶつかり合う音が響くなか、その衝撃の強さにチハルはまた軽く達した。
「ふぁァぁっ!?」
ぴゅるっと出た愛液を指で掬って、チハルに見せつけるように舐め取る。
信じられないものを見ているような顔をしておきながら、その瞳の奥には隠しきれない歓喜と情欲が渦巻いているのをヴィクトルは気づいていた。
チハルのヴィクトルに向ける愛情は、深くて甘ったるい。そしてその奥底には苦みがあるのを知っている。
勇利には諦観を覚えつつも嫉妬していること、それを隠さずに出して甘えてくれるのが嬉しい。

自分も大概だ、と苦笑するヴィクトルの愛は重くて粘着質なのだ。
愛し尽くさないと気が済まない。チハルの器いっぱいに愛情を流し込んで、表面張力ぎりぎり最後の一滴まで受けてもらわないと。

「だからね、オレの愛をもっと知って?」
脈絡のない言葉にも、肩で息をしているチハルは気づかない。
ぐちゅりと粘り気のある音を聞かせるように、ゆっくりと腰を回す。
「ぁん……」
小さく鳴いたチハルは、まだ息を整えている。
「チハル、オレもイきたい」
「ん、」
ちゅ、ちゅ、と余韻が醒めないように愛撫を施しながら耳元でねだると、チハルはとろりとした瞳でヴィクトルを見て頷いた。
「ありがとう」
「俺で……気持ちよく、なって」
もう無理だなんて言いながらこんな誘い文句を言うなんて、どこまでヴィクトルを翻弄させれば気が済むのだろう。
「辛かったら言って?」
「ふふ、今まで一回も無い」
「あぁ、本当に君は……!」

煽るような事を言うのが悪いと結論づけて、ヴィクトルは爆発しそうな己に歯を食いしばって耐え、その先を目指す。
「ひ、ぁぁっ、あっあっあっ、んぅ」
「食い締めて、離さないで……っ、く」
「ヴィチューシュカ、あっ、も、イってっ、イって?」
「うん、出すよ、出る……っ、」
肉壁にごりごりと絞られ、ついにヴィクトルは精を放った。
より先に進もうとする本能が何度もチハルの奥を突く。
あまりの快感にヴィクトルがベッドに突っ伏す。
チハルをぎゅうっと掻き抱いて、しばらくそのままで呼吸を整えた。


「っ、はぁ……最高だった」
「ん、俺も、気持ちよかった」
汗をかいたままで二人とも深呼吸して、お互いの匂いを吸い込む。

「でもしばらくは、ネクタイ解くの禁止。毎回こんなにがっつかれたら持たないよ」
「あんなにエロスたっぷりのチハルを見られないなんてあり得ない!」
「普通のえっちで充分でしょ」
「いつものセックスが駄目だなんて言ってないだろう?チハルがいつも気持ちよくなってるのを見るの好きなんだから」
「変なところ観察するのも禁止!」
「変じゃない、素敵なところだよ」
ちゅ、と落ち着かせるようにこめかみにキスを落とせば、それで口を閉ざしてしまうのだから、まったく可愛いことこの上ない。
いつまでもこうして好きでいてくれますように、とヴィクトルは静かに願いながら愛しい恋人の頭を抱き締めた。


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新婚さんがいつの間にやらたっぷりエロス添えになっておりました。
琉架様、企画へのご参加ありがとうございました!
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