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□くに
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「あら?見たことのない風景ですね。いい景色です」
こんな綺麗な公園があるならば、近くにカフェがあるはずですね。行ってみますか。

公園の周りをほぼひとまわりするかという時に、カフェを見つけた私は、そこでコーヒーを頂くことにした。


店主が手ずから焙煎して挽いた豆は、かぐわしく鼻腔をくすぐる。
美味しそうなフルーツタルトを一切れ頼んで、優雅な一時を過ごしていました。


突如、無粋な電話。
ああ、こういった時ほど文明の利器を疎ましく思うときはありませんね。

携帯電話を開くと、愛しい文字列。
彼女の声を運んでくれるのならば、なんて良い物だろうかと思う私は、現金だ。


「はい」
『もしもしローデリヒさん?今どこにいるんですか!』
「さぁ?」
『さぁ?って……もしかして出掛けちゃったんですか!?』
「とても良い天気でしたので、散歩を。いけませんでしたか?」
『いけません!帰り道がわからなくてすぐ迷子になる人は、家でおとなしくしてなきゃ!』
「ところで、何か用事があったんですか?」
『用事っていうか、ローデリヒさんの家に遊びに来たら、いないんですもん。今から迎えに行きますから、一歩も動かないでくださいねっ!』

窘める声のあと、通話が切れたことを示す機械音。
「迎えにって、場所わからないでしょうに」
最初の数回は近くの人間に住所を聞けやら言われていましたが、そんなこともしばらく言われていない。

「愛の力、でしょうか」
自分の言葉がくすぐったくて、静かに微笑みながら、電話越しの声の余韻を鼓膜に残して、私は残りの優雅な時間を満喫した。



「お迎えにあがりましたよ、ローデリヒさん」
「あら、早かったですね。ご苦労さまです」
「……もう、あなたって人は。さ、帰りますよ」
「お待ちなさい。すぐそこの公園の花が咲き頃のようです。見に行きませんか?」
「……行きます!」



(ところで、どうやって私の居場所がわかったんです?)
(えっ!?(GPSが付いてるなんて言えないし……)えーっと、そうそう!愛の力、です!)
(あら、そうですか。思った通りです)

(ええーーーーーーーーーっ!?)
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