z

□くに
2ページ/3ページ

今日は、4月1日。
全世界が、報道機関でさえも堂々と嘘を付ける日だ!
このナイスな日を使って、恋人のあの子に告白するつもりだ。
あ、恋人ってのは、菊の妹のハルのこと。
アーサーが去年のエイプリルフールの日、菊に嘘をついたらしくて、だけど自国にこの習慣があまり根付いていない菊は、その嘘にまんまと騙されてしまったらしい。
あんなに素直に信じる奴もいまいと、むしろ呆気にとられたという。


菊の何倍も純真で素直で、しかもエイプリルフールを知らないハルが、俺の嘘に騙されるなんてサイコーじゃないかい!?
ただ、嫌いだなんて言って騙すのはつまらないから、もっともっとハルを困らせるようなことを考えついた。

事前に4月1日はエイプリルフールと呼ばれ、どんなことをする日かも教えておいた。
だから、きっとハルには俺が嘘をつくことはお見通しだろう。

だけど、ここがヒーローと一般人の違いさ!
今日がエイプリルフールだと知っていても、エイプリルフールは午前だけ有効だってことは教えていない。
それを逆手に取って、ハルを困らせる予定なんだよな〜!

計画はこうだ。
まず、俺がハルの家に遊びに行く!そして、昼の12時になるギリギリでハルにこう言うんだ。
『君のことなんか大っ嫌いだぞ!もう顔も見たくない!』
そうしたら、この言葉を聞いたハルは嘘を見破って、
『私も大嫌いですよ!一生傍に居たくないです』
みたいなことを言うだろう。
けど、その時の時間はもう午後を回っているはずだ。


だから俺はそう言われたら、
『俺はハルを愛してるのに、きみは俺のことが大嫌いで、顔も見たくないのかい?本当はそんな風に思ってたんだね……なら、もう別れよう。言っておくけれど、これは嘘じゃないよ』
そう切り出す。
そうしたらハルは一体何が起きたのかわからなくなって、困ってしまうだろう。
きっと誤解を解こうとするだろうな。

しばらくイジって、ハルが泣きそうになったら、本当のことを教えてあげよう。
ハルの泣きそうな顔は可愛いけど、泣かせるほどひどいエイプリルフールにしたいわけじゃないしね。


我ながら悪知恵ばかりが働くなーと感心しつつ、ハルの気持ちも聞けてからかえる、一石二鳥の妙案だと笑いが止まらない。


さあ、もう準備は万端だ。
あとはこのチャイムを押すだけさ!
ま、俺はチャイムなんて押さないで庭から入って行くんだけどね!

「おーい、ハル〜!遊びに来たんだぞ!」
「あらアルフレッドさん、いらっしゃいませ。ちょうど和菓子を食べようと思っていたんです。アルフレッドさんもいかがです?」
「和菓子だって!?食べる!食べるぞ!」
「それではお茶の用意をしてきますね」
キッチンに行ってしまったハルを目だけで見送って、時計を見る。11時前だ。
のんびり和菓子でも食べながら12時を待とう。


それから美味しい和菓子とお茶で和みつつ、くだらない言葉を交わした。
ボケーッとしていたら、ハルが「そろそろお昼ですね」と立ち上がろうとしたので、慌てて時計をみた。

11時56分48秒。
あ、危なかっんだぞ!
冷や汗をかきつつ、居間から出ようとするハルを引き止めた。

「ま、待ってくれ!」
「はい?どうしました?」
「ハル、君に言いたいことがあって……」
「はい、何でしょう」
えーと、12時になる直前に言わなきゃいけないから、もう少し何かで時間を潰さなきゃだな。
目は時計を睨みつつ、たまにハルを見やった。
「もちろん今日のランチはハンバーガーだよね!?」
「アルフレッドさんがいらっしゃる前に、お昼の用意は済ませてしまったので、残念ですが今日はハンバーガーじゃありません」
「そうかい……」

普段なら文句も言いたくなるけど、今はそれどころじゃない。
時計は1分前を指していた。
こういう時間との勝負ってやつは緊張するんだぞ……。


30秒前。

「そ、それで、本題なんだけど、」
「はい」

20秒前。

「………」
「………」

10秒前。
「君のことなんか大っ嫌いだぞ!もう顔も見たくないんだ!……君は、俺のことどう思ってるんだい?」

言った!言ったぞー!
なんだかもうやり遂げたような満足感があるが、いやまだこれからだとハルを見つめた。

家の12時を知らせる時計が、ボーン、ボーン、ボーン……と鳴る。
その音が止んだところで、ハルはニコリと笑って、口を開いた。

「私はアルフレッドさんのこと、大好きですよ」
「……へ?」

私も大嫌いです。
そんな言葉を望んでいたのに、返ってきたものは正反対の言葉。


「ちょっと待って。嘘だよね?俺が大好きだって?」
「嘘なんかじゃありませんよ。あなたが好きです。できれはずっと一緒に居たいです」

大好きということはつまり、大嫌いと言うことで。一緒に居たいということは、会いたくないってことかい?
だって今日はエイプリルフールだから。嘘をつく日だから。



まさか、ハルは本当は俺のことが嫌いで、今までキスもハグも嫌々させてきてしまったんだろうか。
「そうかい……」


『いつまでもそんなにワガママで強引じゃ、嫌われるぞ』
口うるさい眉毛の言葉を思い出す。
『ハルちゃんも可哀想になー?自分もやりたいことあんだろーに、アポなしで来られちゃ何も出来ないだろ』
自称愛の国の言葉もついでに頭をかすめた。


俺はアーサーみたいにネガティブじゃないけど、これはさすがに落ち込まずにはいられないんだぞ……。

「今日のところは帰るよ……」
計画も潰れたし、予想外なことが起こるしでもう元気はない。
今日話し合えばエイプリルフールのせいで話がごちゃごちゃになるとも限らない。
明日またハルの本当の気持ちを聞けばいいさ。


じゃあ、と肩を落としつつ立ち上がると、くすくすと笑い声が聞こえた。
誰の声だい、これは?

「アルフレッドさん、すみません。まだ帰らないでください」
ハルが笑ってたのかい?どうして?
「少し意趣返しをしただけなんです。そんなに悲しんで下さるとは思わなくて……作戦大成功でした」

意趣返しってなんだい?
作戦って何の作戦だい?

頭が混乱して何も言えない。
「とりあえず、座ってください。全部お話しますから」

ハルの小さな手が俺の手を握って、座らせる。
座ってからもその手は離されることはなく、なぜだか安心した。


「アルフレッドさん、大好きっていうのは嘘じゃありませんよ。今日はエイプリルフールだけれど、嘘は言ってませんから」
まだハルの真意がわからない俺は、何もいえなくて。

「……やりすぎてしまったようですね。すみません、傷つけるつもりはなかったんです」
そんな顔なさらないで、とハルまで傷ついたような顔をした。
「……これで、許してください」
俺の手を握っていたハルの両手が、今度は俺の頬を包む。
そして、ゆっくりとキスをされた。
愛しています、と吐息だけの言葉も添えて。


「嫌いじゃありませんから、ね?」
こくりと頷くだけして、俺はハルを思いっきり抱きしめた。
「ふふ、苦しいですよ」
そう言いながらも抱きしめ返してくれた。
もっともっと繋がりたくて、言葉だけじゃ安心できなくて、奪うように強引に口づけた。

「ん、ぅ……っはぁ」
「ハル、ハル……」
「ふふ、甘えん坊さん」
解いた口付けの後に甘ったるい声で言われ、ぐりぐりと頭を肩口に押し付けた。




「それで、俺は嫌われてないってことでいいのかい?」
「そうでした。誤解を解かないといけませんね」

要は意趣返しだと、さっきの言葉を繰り返したハル。
ハルは俺がエイプリルフールについて教えた後、菊にエイプリルフールのことをまた聞いたらしい。
そうしたら、アーサーにからかわれたせいかイヤに詳しく調べたらしく、それを全て話されたという。

その中には、12時以降はエイプリルフールとしてカウントされないというものまで含まれていたらしい。
こういった悪質な悪戯に引っかからないように、と菊から厳重注意を受けたハルは、俺がどんな嘘をつくのかを考えたそうだ。

「12時を過ぎたら無効だというのを知らない振りをして、アルフレッドさんを困らせてみたいなと思ったので」
つい、と茶目っ気たっぷりに暴露したハルには、もう頭が上がらない。

結局は見破られていたということか。


「だからって、ひどいよなー!俺はハルに嫌われたと思って悲しくて仕方なかったんだぞ!」
「あんなにあっさり信じるとは思わなかったので……」
「もう絶対にあんな冗談、やめてくれよ?いくらエイプリルフールでも、もう嘘はナシにしよう!」

正直に生きた方が楽しいに決まってるもんな!

「そうですね、好きなのに嫌いだなんて言えませんもの」
「決まりだなっ!」

愛してるぞ!と告げてキスをすると、ハルははにかんで、私も愛しています、と控えめに唇を寄せてくれた。


言葉なんかなくたって、この温もりさえあればいい。


(元はといえば、菊にあんなに悪質な嘘をついたアーサーのせいなんだぞ!くたばれアーサー!)
(はあっ!?何のことだよばかっ!)

>>>
一回シリアス挟まないと終われない体質なんだろうか……。
エイプリルフールネタは初めてでした!
からかおうとして逆に泣きそうになるアルが書きたくて……!

12時以降〜ってのはウロ覚えなので、こんな決まりはないかもしれません(汗)
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ