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□加
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僕は、自分に自信がない。
ハルが好きだということを自覚はしていても、遊びの誘いだって恥ずかしくて出来やしない。
ヒーローが好きなアルフレッドみたいに、「ハルを守ってあげるぞ!」とも言ってあげられない。
僕らは似ているのに、こんなにも僕は無力で、情けなくなってしまう。
いつもはのんびりとした時間を過ごしているけれど、ハルを好きになってからは、ハルのことばかり考えている。
だけどハルと会ったとしても、気の利いたことは言えないし、言葉が足りなくて、気持ちは伝わらない。


『マシューはアルじゃないんだから、同じように振舞わなくてもいいの』
どうしたらアルフレッドみたいになれるんだろうと、彼の真似ばかりしていた頃、ハルはそういってくれた。
『マシューの傍に居ると、私までふわふわの綿飴みたいになってしまうみたいに、優しい気持ちで居られるのよ』
『つまらなくない、かなぁ……僕』
『他人はどうだか知らないけれど、私はマシューと居ても退屈しないわよ。第一、つまらないと思っていたらこうして話したりもしないだろうし』
『ありがとう……』
『ほらほら、元気出して。マシューの大好きなパンケーキを作ってあげるから。おいしいメイプルたっぷりのね』
『うん!ハル、……ありがとう!』
ありがとうの代わりに、大好きと伝えたかった。この気持ちを吐き出さなくちゃ胸が痛くてどうしようもない。
ハルに嫌われたり、変な風に思われるのが嫌で、何度も口をつむぐ。
僕らしくなく、悩んだり苦しんだりする時間が増えて、好物のパンケーキだって喉を通らないこともしばしばあった。


何度か、もういっそ嫌われてもいいから、ハルの気持ちばかりを優先するんじゃなくて、僕の気持ちを泣き喚くように伝えてしまおうかと思った時もあった。
だけど、僕にはハルが一番大切な人で、自分よりも大事にしたいと思っているから、傷つけたくなんかない。
ああもう、始末が悪いなぁ。




雨が降る午後、ハルはいきなり僕の家を訪ねてきた。
「ハル!ど、どうしたんだい!?」
いきなりハルが来たことと、傘も差さずにずぶ濡れだったことに驚いた僕は、ハルの様子に気づきもせずに家に上げた。
ハルが熱めのシャワーを浴びている間に、ホットミルクを作る。香り付け程度にメイプルを溶かした、甘い甘いホットミルクだ。
シャワーを浴びたハルにホットミルクを差し出すと、静かにふた口ほど飲んで、ハルはほろほろと涙をこぼした。
「ど、どうして泣いてるの……?嫌なことがあったのかい?」
泣いている女の子を慰めたことなんかない僕は、おろおろするしかできなかった。
「ううん、個人的なこと……。ごめんね、突然来ちゃって。なんだかマシューに会いたくなっちゃってね」

照れ笑いするハルのその言葉は僕にとっては強烈な殺し文句だ。
だって、ほかの誰でもない僕を頼ってくれたって事だよね?
ああ、嬉しいな。恋をすると、こんなに嬉しいこともあるんだ。

「マシューの顔みたら、安心した」
「え?」
「マシューって、人を癒す何かを持ってるよね」
「そうかな?僕は……」
僕なんて、と言おうと思ったけれど、ハルが言ってくれた言葉を思い出して、やめた。
せっかくあの時褒めてくれたのに、その人の前で卑下するのは相手に失礼な気がして。

不自然に途切れた声に、ハルは僕を見て、話題を変えるように、
「このミルクも、美味しい」
「い、いつでも飲みにおいでよ」
会いにおいでよ、とはさすがに大胆すぎて言えなかった。そんなことを言ったらハルがもし次に来る時にためらうかと思って。
「うん、また飲みに来たいな。でもね、マシューが居ないと嫌よ」
「え!?」
「マシューとこうして過ごすのが好きなの。マシューの家でミルクとパンケーキを食べてても、マシューが居ないとこんなに穏やかな気持ちになれないもの」
「そ、それって、」

自分の顔が真っ赤になるのがわかる。顔がひどく熱いから。
もしかして、ハルも僕と同じ気持ちで居てくれるって思っていいのかな?

「どういうことかわかる?」
「えっと、た、たぶん」
「好きってことよ?」
「す、すす……!」
頭が混乱してきた。いろいろなことが頭に浮かんで消えて、何も考えられない。

「ぼ、僕なんかでー……」
「マシューじゃなきゃ嫌だって、何回も言ってるじゃない」
「う、うん」
僕は恥ずかしさをごまかすようにホットミルクを飲む。
僕でいいの?なんて馬鹿げた質問を遮ってくれたことが嬉しい。

「僕は、ハルの傍に居たい……です」
「うん。私も居てほしい」
「ハル……大好き」
「私もよ、マシュー」


予想外の告白と想いを確認しあうキスは、メイプルよりも甘く甘く感じられた。




ハルの為に、僕は居るよ。
アルフレッドみたいに豪華で面白くて、ハルを引っ張っていけるような人にはなれそうもないし、ましてやスーパーマンみたいにハルを助けてあげることなんてできそうもないけど。

ハルとお茶でも飲んで、他愛ない話をしながら穏やかな時間を過ごしたい。
ハルがほんの少しでも微笑んでくれるような自分で居たい。

頼りない僕だけれど、ほかの誰でもない、君だけの僕になるよ。








inspired by ゆず
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