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□西
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「アントーニョ!アントーニョ!」
ぱたぱたと可愛らしい足音と共に、これまた可愛い俺の恋人が顔を出した。
「なんやー?」
「ロヴィーノに教えてもらったんだけどね!」
「うん?」


「キスしたって!」
無邪気な笑顔でそんなことを言うものだから、俺はどう返していいのかわからなくなる。
「ハル、あの、」
「ロヴィーノが、スペイン語ちょっと教えてくれたんだ。で、これってどういう意味?」

やっぱり意味まではわかってなかったか。
がくりと肩を落として、
「ロヴィに聞かんかったん?」
「アントーニョが快く教えてくれるって言ってたよ」
「……ロヴィーノ」

余計なことをしてくださったもんだ、子分さまは。



「……もしかして、変な意味?」
「ちゃうけど、」
「でもアントーニョ嫌そうな顔してる」
「いや、期待したっちゅーかな……」
「じゃあ、良い意味?」



ハルが「キスしたって」と言ったからといって、意味がわからないのだから心からそう思ってはないわけだ。
それなのにいきなりキスするのはどうなのか。
まあ、恋人だしいいかなんて俺の楽観的な脳みそは、深く悩むこともなく行動を指示した。


「ほな、教えたるから、もっかい言ってくれへん?」
「うん!キスしたって!」
やっぱり意味がわかっていなくたって、このキスしたっては無視できない!

ほにゃっと幸せな気分で、ハルにやさしく口づけた。
「大好きやで、ハル」
いきなりのキスに、目を白黒させてハルは固まった。

「意味わかった?」
「……えと、愛してるって意味?」
「ちゃうなぁ。ほなもう一回」

軽くリップ音を立ててまたキスした。

「ハルが言うたから、キスしたんやで」
限りなく正解に近いヒントに、今度こそハルは真っ赤になった。


「キスして、ってこと?」
ぼそぼそと呟くハルに、またキスをした。
正解のご褒美のキス。
「正解や。ようできました」
いいこいいこして、満足した俺。



「で、いきなりスペイン語なんてどないしたん?」
「スペイン語勉強したくて、最近始めたの」
「言うてくれればええのに」
「話せるようになってから驚かそうって思ってたんだけど、『キスしたって』の意味が気になってしょうがなかったから、アントーニョに聞いたんだ」


恋人のちいさな秘密が可愛くて愛らしくて、
「ほんまハルのこと大好きやなぁ、俺」
「あたしも大好きだよ」
「嬉しいわぁ。俺は幸せもんやんな」
「アントーニョが幸せだと、あたしも幸せ」
「ほんま可愛すぎやで自分!たまらんわぁ!」


ガバッと俺より低い身体を包み込むように抱きしめる。
もう一生、離したない!


「もう俺、ハル大好き病や」
「なら、いつか治っちゃうの?」
「悪いけど、これって不治の病やねん」


ハルも、俺大好き病になればいいのに。
そう呟くと、もう重病患者だよと返された。



(言葉をマスターするには、その国の恋人を作ればええんやって)
(じゃあ、アントーニョ教えてね!)
(愛の言葉ならぎょうさんあるで!)


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親分のまるかいてにたぎって書き上げました。
スペイン語勉強したい!
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