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□西
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パチッと、一気に目が覚めた。
今日は特に用事もなかったけれど、いつもの習慣でこの時間に起きてしまう。
日本に居れば、6時くらいには起きて朝食を作り、洗濯をして掃除機をかけ、それが終わればお昼をとってちょっと休憩をしてから、夕飯の買い物に出かける……といったように朝方の生活をしている。
けれど、アントーニョさんと居ると、6時どころか9時くらいまで寝ているのだ。
彼は早起きが大の苦手らしく、会議がある時ですら遅刻寸前まで寝ている。
時間がないというのに朝ごはんはきっちりと食べる派なので、ボリュームたっぷりの朝食をゆっくりととるというのだから、さすがスペインの化身といったところだ。



起きてはいるものの、アントーニョさんの腕にしっかりと抱きしめられているので、身動きが取れない。
今日もお昼近くまで寝るつもりだろうか。
彼は食べることと寝ることが特に大好きで、彼の『いつも』より早く起きた日は例外なく昼過ぎにあくびが聞こえる。
お昼を食べた後に、陽だまりでシエスタという(彼の文化ではかなり重要な)お昼寝をする。
そこから夕方6時ごろに起きて、夕飯は10時を越えるというのだから、彼の生活リズムが気になって仕方がない。
寝てばかりいたら脳が溶けますよ、と言ってみたところ、ひどくショックを受けた顔をしていたけれど、次の日には嬉しそうに「俺は溶けてへん体質みたいやから平気やで!」とまで言う始末だ。

彼の寝顔を見ているのはとても幸せな時間だけれど、そろそろ暇をもてあましてきた。
昨日は、アントーニョさんのシエスタに付き合ってしまって洗濯ができなかったから、今日はぜひしたい。
だからもう起きたいのだけれど、彼を起こすのは忍びなくて(だって彼にとってはまだ起きる時間ではないのだから)、腕を上げようと試みる。
彼の腕から抜け出そうとしたら、私の体温が無くなって寒いのか、眉をひそめて強く引き寄せられた。
さっきよりもがっちりと抱きしめられたから、もう脱出不可能だ。


ああ、こんなにお天道様が高くあがっているのに、お洗濯できないなんて!
「アントーニョさん」
意味がないことを承知で名前を呼んでも、いらえはない。
あ、と口を大きく開く。そういえば、アントーニョさんに教えてもらったあれをやりましょう。
睫毛を下から撫で上げると、大抵の人間は起きる、というものだ。
試してええ?と言われたものの、彼が私より早く起きることは彼がシエスタをしないというくらい稀有なことなので、私は試されたことはない。

アントーニョさんはこの実験の結果を知れるわけだし、もしも起きれたら私は洗濯できる。
今は試すのに絶好の機会ではないだろうか。
さっそく試そうと私は人差し指で慎重に睫毛だけに触れるようにした。
まぶたが震え、起きたばかりのあどけない表情に私はにこりと笑った。

さぁ、これでお洗濯ができますよ!

「ハル。悪戯せんで、いい子にねんねしぃ?起きたらちゃんと、いちゃいちゃようなぁ……」
起きぬけの甘い声音でそう囁かれる。睫毛に触れた手にアントーニョさんの唇が優しく触れた。
「あっ、アントーニョさ……」
いい子って、私は子供じゃないです!そ、それにいちゃいちゃって……!
もごもごと恥ずかしさに耐えていると、ぼそりと耳元で低い声。

「おやすみ。愛しとるで、ハル」
目を閉じているのに、正確に唇にキスをされて、私は真っ赤になった。
きゅっと抱きしめられたまま、私はしばらく固まってしまった。


(こんなことされたら寝れません!)
>>>
親分編。知人のスペイン人はこんなシエスタ生活をしているらしい。
親分にねんねしぃ?って言われたい……!!


タイトルは西語で「いたずら」のはず。
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