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□西
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「ロヴィ!堪忍してぇな、俺もう眠いんやから……」
「いいから、続き読め!」
「ってもうこれ3冊目やで!?そろそろ寝ないと明日起きれんようになるで」
「うるせーこんちくしょー!」
「なんやその言いぐさ!」

ハル〜!と、アントーニョはとうとう恋人の名を呼び、助けを求めた。
「はいはい。じゃ、場所換わりましょ」
「ロヴィ、ちゃんと寝るんやで!おやすみ〜」
「ハル!これ読みたい!」
子分さまは親分の言葉にひとっつも耳を貸さずに、ハルに甘い声でねだった。
「あら、王子様とお姫様のお話?いいわよ」
むかしむかし、と優しくゆっくりと紡がれていく物語。


リビングでコーヒーを飲んでいたアントーニョは、ハルはものの10分でロヴィーノを寝かせることができることを知っていた。
夜、寝たくないとぐずるロヴィーノに絵本を読み聞かす習慣を始めてからというもの、アントーニョがロヴィーノを寝かしつけることができたのはほんの数回だ。
それなのに、ハルときたら毎回たやすくロヴィーノを寝かしつけてしまう。まるで魔法のように。

「何があかんのやろな?」
ロヴィーノが寝ないということは、興味のある話ということだ。それに毎回、勇者だとか剣士だとかの話をせがまれる気がする。
つまり、男の子向けの話だと興奮して寝つけないということか。
「それって、俺の読む話の方が面白いってことやんなぁ」
それならそれで嬉しいけれど、
「でも寝かすために読む本やし……複雑な気分や」
「アントーニョ、なに頭抱えてるの?」
「わっ、ハル」
「あは、そんなに驚かなくてもいいのに。どうかした?」

心配そうな瞳でアントーニョを窺うハルに、アントーニョは苦笑して首を振った。
「大したことじゃないんやけど、ハルはロヴィを寝かしつけるの上手なのはなんでやろーって思ってん」
「そうね。確かにアントーニョは寝かしつけるの本当にヘタ」
「そやねん。せやから理由教えたって!」
「理由っていってもねぇ……。冒険モノばっかりだから興奮して寝れないのよ」
予想通りだ、とアントーニョはただ苦笑するしかない。

「王子様とお姫様のお話とか、冒険するにしても敵と戦ったりしないやつがいいわ」
「オウジサマとオヒメサマか」
「それに、アントーニョの声が大きいし」
「えっ、俺そんなにデカいか!?」
「うん。たぶん臨場感を出そうとして声に強弱を出してると思うんだけど、もっと優しい声でやらなきゃ。楽しすぎて寝れなくなっちゃうでしょ」

絵本ひとつでそんなことまで考えてはいなかった、とアントーニョは目を丸くした。
「囁くくらいの優しさでいいの。そうしたら、ロヴィーノも眠くなってくるから、そうしたら優しく布団の上からゆっくりのリズムでぽんぽん叩いてあげて」
こんなふうにね、と実演して見せたハルの手は温かくて、鼓動より少し遅いくらいのテンポでぽんぽんとアントーニョのお腹に触れた。
これは確かに安心するリズムだ。ゆらゆらと波に揺られているような気分になる。

「ふわぁ……俺まで眠たなってきた」
「ふふっ、じゃあ明日これでチャレンジしてみてね」
ロヴィーノを息子みたいに扱っているハルと自分は本当の夫婦みたいだな、とアントーニョはくすぐったくなった。


ハルと、夫婦になれたらいいのに。
夫婦になったら、もっと近づけるだろうか?
いや、自分たちなら結婚しても変わらないだろうと自信を持って言える。
でも結婚したいから、近いうちに改めて言おうと決心した。

「ハル、大好きやで」
「………」
「何やその目ぇ」
「いや、この流れでまさかそう言われるとは思わなかったから、驚いて」
自分の思考回路は単純明快なのに、ハルにはわからないのだろうか。

「今の会話が夫婦みたいで嬉しかったから、ハルと夫婦になりたいなーって思っただけや」
あ、言ってしもた。ま、ええか〜。今度言うのも今言うのも一緒やろ。
ぽやんとそんなことを考えていたら、ハルはすっくと立ち上がってズンズンと遠ざかっていく。
「え、ハル?どこ行くん?」
「ろ、ロヴィーノがちゃんと寝てるか見てくる!」




「……もしかして、今のがプロポーズって気づかんかったんやろーか」
ハルはニブチンやなぁ、でもそんなとこも可愛えなぁ。
へらりと笑うアントーニョこそが実は鈍感で、ハルの顔が真っ赤に染まって、泣きそうになっていることなんか知らなかったのだ。



(もうっ!ほんと、あの流れであの言葉、意味わかんない!)
(今度は、ハルは俺のトマトみたいな子ぉやー!とか言うて再プロポーズしたろ)

>>>
親分は絵本を読んであげるのが下手だったら萌えるな、という妄想からいつの間にかプロポーズ話になっていました。
プロポーズ下手な親分も萌えるな!超鈍感な親分萌えるな!親分なら何でも萌えるな!
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