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□北伊
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「フェリシアーノさん、不潔です!」
普段はめったに人を非難したり、大きな声を出さない恋人のハルが、綺麗な漆黒の瞳に涙を湛えながらそう叫んだ。

「ヴェ?ふけつ、って……何で!?オレ、ハルに何かした!?」
「フェリシアーノさんが、女の人が大好きなことは承知しています。けれど、浮気は許せません……」
「浮気なんてしてないよ!」


確かに女の子は大好きだけど、浮気はしない主義だ。
ハルを好きになってから落とすまで、可愛い女の子からのお誘いも頑張って断ってきたのに。

「言い訳など言語道断。私たちもう……さよならです」
今までありがとうございました、と律儀にもお礼を言うハルに、オレは頭がこんがらがるばかり。

「さよならって、別れるってこと?嫌だよそんなの!ちゃんと話し合おうよ!浮気なんて絶対にしてないから!」
突然の展開に、オレまで泣きそうだ。

「嘘つきは嫌いです……」
ついに大粒の涙がハルの滑らかな頬をすべった。
嘘をついた覚えはない。
だけどハルは確実にオレがしたことに傷ついてるわけで。

踵を返したハルの細い腕を掴むと、抵抗された。
「理由を教えてくれたら、絶対に誤解だってわかるから……ね?お願い!」



しがみつくように抱きしめると、抵抗は無意味だと悟ったらしく、ハルは顔を背けたままポツリポツリと話し始めた。

「フェリシアーノさん、は、すっ好きな人としか、キ、キスはしないと言ったのに……!」
堪えきれない嗚咽が混じった言葉。

ハルに告白をしてオーケーをもらった時、嬉しくてついキスをしてしまった。
顔を真っ赤にして、何をするんですか!とポコポコするハルに、キスは好きな子とするものだから、と教えたんだ。

だけど。
「ハルと付き合ってから、ハルとしかキスしてないよ?」
「嘘……!」
オレの言葉を信じないで、癇癪を起こした子供みたいに、頭を振るハル。


「ヴェ〜……嘘じゃないのに……。ね、オレはいつどこで誰とキスしてたの?」
教えて?と優しい声で聞くと、唇を噛み締めたハルは、ヤケになって叫んだ。

「ルートさんといつもしているじゃありませんか!しかも、いつもあなたから強請って!」

「え……?」
ルートと、オレが?
キス?
いつもオレから強請ってる?

ルートに?キスを?



全く身に覚えがない。
第一、ルートとオレは男同士で友達なんだからキスはしないのに。
「しらを切るおつもりですか」
ヒックと、しゃくりあげるハル。
やばい、何か言わないと!

「う〜んと、ルートとオレはキスはしないよ?あ、キスっていっても挨拶のはもちろんするけど!それはキクにもするし……」
言い訳を絞り出すと、ハルはオレの方をやっと向いてくれた。
……あ、あれ?
何でそんな驚いた顔してるの?

グッと歯を食いしばったハルは、低い声で、
「ルートさんでは飽きたらず、兄さまにまで手を出したんですか!?最低です!見損ないました!」

腕の中で暴れるハルをよそに、オレはポカンと口を開いた。

「なんだ〜そういうことかぁ」
「放してください!」
「あのね〜、オレんちには2種類のキスがあるんだよ〜。ひとつは、オレとハルみたいに、恋人同士がする唇へのキスでしょ?もうひとつは、友達とか家族にする、挨拶のほっぺたへのキスだよ!」

「挨拶でキスをするなんて、信じられません!」
「オレだけじゃないよ〜。オレんちの周りはみんなするよ?仲の良い友達に!ハルのとこは、お辞儀するでしょ?それと一緒で、習慣なんだよ〜。そういえば随分前にキクにも挨拶のキスをしたら、責任取って下さいって言われたなぁ〜」

さすが兄妹だね!
オレがそう言うと、ハルの抵抗がピタリとやんだ。

「あ、ちなみにハグもするよ!っていうか、挨拶のキスもハグも毎回ハルにもしてるじゃん!」
「お、お付き合いを始めてからしかしてません……」
「そういえばキクが、『ハルが驚いてしまうので、挨拶は言葉だけにしてくださいね。ハグも禁止です』ってハルに会う前に言ってたなぁ」
付き合い始めたんだから、キスもハグも認めてもらったんだった。

ハルは黙ったままだ。
「ルートもキクも大事な友達だからほっぺたにするんだよ?」
ハルには、恋人のキスを唇にしてるでしょ?と囁けば、耳まで真っ赤にしたハルが固まっていた。



「………ます」
「ヴェ?」
「死んでお詫びしますーー!」
「ええーー!?や、やだよ、死なないでよハル!オレ全然怒ってなんかないから!」
「さんざんフェリシアーノさんをなじっておいてこの様……死んでも償い切れません」
「じゃ、じゃあ生きてオレとずっと一緒に居てよ!」

「もう顔を合わせられません!さ、鎖国します!」
兄さまに頼んで一生引きこもります!とオレの腕を抜け出したハルを追いかけることしかできなかった。


(まってー!怒ってないってばー!)
(百年はひきこもります!)


(キクの協力のおかげで、ハルの引きこもり生活はどうにか一週間で止めることができた)

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デジャヴを感じるほど、またもや浮気誤解ネタ……何番煎じでしょうか……
しかも誤解のしかたがほぼ変わらず…!
精進します…
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