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□南伊
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昔、私はロヴィーノと一緒に、アントーニョの家で暮らしていた。
ロヴィーノよりお姉さんの私は、ロヴィーノが何かに失敗する度にアントーニョに一緒に叱られたりしていた。
誰よりも仲の良い姉弟のような存在だったと思う。それは今でも変わらない。

私もみんなと同じ国で、だけど小さくていつもお金が無い。
だからロヴィーノがアントーニョの家から自分の家に戻ると決めた時、私はロヴィーノの家にお邪魔することにした。
ロヴィーノの家の方が私の家に近いし、何より私はロヴィーノの世話をしなきゃという、よくわからない使命感に燃えていたから。
おっちょこちょいで家事が苦手なロヴィーノが心配で仕方なく、アントーニョはずっと淋しいと言っていたけれど、私は荷物をまとめた。



うざったいほどに私とロヴィーノを構っていたアントーニョと住まいを別にしてからは、私がロヴィーノを可愛がるようになった。
失敗するとばつが悪そうに涙を堪える姿は小さな時と何も変わらない。
私が仕方ないわねって苦笑いして、一緒に片付ける。
それが日常で、当たり前のことだった。

だけど、ロヴィーノの家に来てからずいぶん時が経って、あんなに小さかったロヴィーノがどんどんと大きくなっていった。
気付いたら私の背を越えていて、悔しくなった私は、アントーニョの家に愚痴りにまで行ったのだ。

その頃からロヴィーノは輪をかけて恥ずかしがり屋さんになってしまった。
世話好きの性分が抜けずに、お風呂に一緒に入ろうとしても「ばかやろー!」と顔を真っ赤にしてポコポコ怒るロヴィーノは、本当に可愛い。
あぁ、遂に思春期が来てしまったのね、なんてお母さんみたいなことを考えてしまった。
昔は「髪洗えちくしょー」とか偉そうなこと言ってたのにね。


そして、私が構おうとすると巧みに避けるようになった。
頭を撫でようとしたらすっと間合いを取るし、一緒に出掛けても手を繋いでくれなくなった。


とにかく、今の私の心境は息子がつれなくなって悲しい母親の気持ちだ。


「でね!ロヴィーノったら、あたしが髪を拭いてあげようとしたら嫌がって部屋に帰っちゃうの!それに、ご飯の時に口元におべんと付けてたから、取ってあげたら『もういらねぇ!』とか言って部屋に帰っちゃうし……」
何かあるとすぐに部屋にこもっちゃって、あたしは淋しいのなんのって!

「そりゃ、仕方あらへんで」
「アントーニョ、私の話ちゃんと聞いてる!?どこが仕方ないのよ!」
言いたいことがありすぎて、アントーニョの家にワインを持って押し掛けたのが2時間前。
ハイペースで飲んで話してを繰り返す私に、アントーニョは付き合ってくれている。

「俺やって、二人が成長して出て行った時は、ほんまに淋しかったで。あんなに毎日騒がしかっのに、急に静かになってしもうて……帰って来ても誰も居らへんしなぁ」
「アントーニョ……」
「チビたちは、みぃんなそうなんや。大きくなって独り立ちするもんやで。ロヴィーノももう子供やないんやし、子供扱いされんのは嫌なんとちゃうん?それにアイツもれっきとした男やし、いくら何でももう女の子と風呂は入れんやろ」
「でも男とか女とかの前に、ロヴィーノはずうっと私の弟分なのに……」
「親分や姉貴分にならんと、この気持ちはわからへんねんなぁ。せやからまだロヴィーノにはわからんねん」

アントーニョの言葉がずっしりと胸にのしかかる。
「私……嫌われてるわけじゃないのかな」
「それは平気やろ。あいつが嫌いな奴と一緒に住めると思うか?」
「そうよね、嫌われてはないわよね、うん」
嫌われてないだけマシだと自分を励ました。

「ごめんなさい、アン。愚痴ばっかり言っちゃって……ありがとう。スッキリした」
「気にせんでええよ。ロヴィーノにはロヴィーノの考えがあるやろうから、暫くはそっとしといてやってくれへん?」
「うん」

眉をあげて口元で笑うと、アントーニョは仕切り直しだとばかりに明るい声で言った。

「さ、気を取り直して飲もか!」
「そうね、いいワインだし、楽しく飲もう!」
それからは他愛ない話で盛り上がった。
話のネタは主に、アントーニョの家で過ごしていた時の昔話。
あんな事があったとか、こんな事があったとか、当時を懐かしみながら自然と会話が弾む。

私はアントーニョとロヴィーノが大好きで、アントーニョも私とロヴィーノを愛してくれているのがわかる。
ロヴィーノも素直じゃないけど、きっと私たちを憎からず思っているはずだ。

暫くすればまた仲の良い姉弟分に戻れるといいな、と私たちは勢い良くワインを空けた。




それからどれ位経っただろう。
ふわふわと浮かぶ感じがして、気付いたらロヴィーノの家に戻って来ていた。
今、私がいるのはリビングのソファ。
いつの間にか寝ていて、いつの間にか家に帰ってきていた。
アントーニョが送ってくれたのかな?

「ハル」
「ロヴィーノ?」
「これ飲めよ」
水を渡されて、とりあえず飲む。
「ありがとう。ねぇ、ロヴィーノ。私、いつ帰って来た?アントーニョが送ってくれたのかしら」
「あいつから連絡が来て、俺が迎えに行ったんだよ」
「ほんと?ごめんね、わざわざ」
「別に」
素っ気ない態度に落ち込む。いつものことなのにね。



「ロヴィーノ」
「何だよ」
「……ぎゅーってしていい?」
「はぁ!?何言ってんだ!」
真っ赤なロヴィーノ。あはは、可愛いね。

「私たちの仲じゃない!姉弟仲良くしましょ!」
ほらほら、とせがむと、心底嫌そうな顔。
……めげないんだから!

じっと見つめていると、諦めたのか舌打ちをして、ぐいと腕を引っ張ってきた。
「わわっ」
「……れ、だって」
「え?」

「俺だって、もう男なんだぞ、馬鹿」
ロヴィーノの声が震えている気がする。
「ハルの弟じゃない、一人の男だ」
この短い言葉で、ロヴィーノの気持ちがわかってしまった。


ロヴィーノは本当に小さな頃までしか、私をお姉ちゃんと呼ばなかった。
ロヴィーノが私を名前で呼んでからは、お風呂も入らなくなったし、手も繋がなくなった。

つまり、それは。


「関係壊したくなかったけどな……。ハルが悪いんだぞ、このやろー」

もう我慢できねぇだろ。

ロヴィーノのその一言に、あたしの心臓はひっくり返りそうになる。

ロヴィーノの声ってこんなに低くて男らしかったっけ?
ロヴィーノの身体ってこんなにがっしりしてて、大人の男の人みたいだったっけ?

は、恥ずかしい!


「もう容赦しねぇから、覚悟しとけ」
「か、くご……」
「イタリア男、なめんなよ」
額にキスされて、ロヴィーノはBuonanotte.と部屋に帰っていった。


ソファから転げ落ちたあたしは、ただ混乱することしか出来なかった。



(そうして本気になったイタリア男に陥落する日は、そう遠くないと気づいたのだった)

>>>
伊達男にしたかったんです……
俺だって男だ!って言わせたかったんですが……誰?って感じになっちゃいましたね。
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