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□南伊
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『来週末、時間ある?一緒に出掛けようよ』
と、恋人のハルからデートのお誘いが来た。
お互いの都合でまともなデートは半年ぶりだったから、アントーニョが『トマトの収穫手伝ってー!』と泣きついてきても、うるせーと一蹴した。

気合いを入れてお洒落をした。
家に来ると言ったハルのためにチュロスを作る。
ちょうどチュロスに砂糖をまぶし終えたタイミングでハルが来た。
今日はいいこと尽くめな気がする。


できたてのチュロスで一息ついて、さぁ出掛けるかという時に、ハルがとんでもないことを言いやがった。

「ロヴィ、その服じゃダメだよ。もっとラフな格好してきて。シャツとジーンズとかでいいから」
「は?何でだよ」
「何でも!あたしも着替えるからね」

部屋まで背中を押されて、着替えを厳命された。
下町にでも行くつもりなら、スーツスタイルの今の格好じゃあ確かに不釣り合いだ。
せっかく決めたのに、とぶつぶつ文句を言いながら、言われた通りにジーンズとシャツに着替える。

部屋から出ると、先に着替え終わっていたハルが出掛ける支度をしている。
「ラフすぎだろそれは……」
ハーフパンツのオーバーオールは、確かに露出が多くて涼しいだろうが。
「いーのいーの。さ、行くよ」

さっきのスカートの方が可愛かったのにと思いつつも、差し出された手を拒むわけにもいかず、ハルに従って家を出た。





***



あり得ねーあり得ねーあり得ねー!
被らされた麦藁帽子を目深にかぶりながら、オレは悶々と作業を続けていた。


本当なら今頃ウィンドーショッピングなんかして、ジェラートでも食べてたはずなのに!
「なんでトマトの収穫してんだよ、ちくしょー」
「んー?ロヴィ何か言ったか?」
「うるせー、アントーニョ!全部オメーのせいだ!」
ちぎー!と怒りを顕わにすると、アントーニョは全然怖くなさそうに「怖いわぁ」と笑った。

「それにしても、手伝ってくれてありがとうな、二人とも。親分だけじゃ終わらなくってなぁ」
「いつもアントーニョにはお世話になってるんだから、当たり前だよ!今の時期は一番収穫量が多いんだから。これから毎年、ロヴィと二人で手伝いにくるからね!」
汗をかきながらも最高の笑顔を見せるハルに、アントーニョはいたく感動したようだった。

「優しい子分たちをもって、親分ほんまに幸せ者や!」
涙目でハルに抱きつきやがるから、離れろとタオルをぶん投げると、「ロヴィにもしたるから!順番こやでー」とギュウギュウに抱きしめられた。

「やめろこのやろー!放せ!」
「あはは、相変わらず仲いいね」
「仲良くなんか、ねぇっ!」
「照れんでもええのにな」
照れてねぇよ!と頭突きをかますとようやく離れた。
「頭突きは堪忍したって!」
「あはは、やっぱり仲いいじゃん」


軽口を叩き合って、また作業に戻る。
しかし、口からは勝手にため息がこぼれてくる。

別にアントーニョの手伝いが嫌なわけじゃない。
食べきれないほどのトマトを持ち帰れることはむしろメリットだ。


けれど。
「これはデートじゃねぇだろ、このやろー……」
浮かれていた自分が馬鹿らしい。
ハルは自分とのデートより、アントーニョの手伝いの方が楽しいんだろうか。
「久しぶりなんだぞ、なのに」
二人きりで居たいと思ってんのはオレだけなのかよ。



心の中のモヤモヤをどうにかしたくて、ガーッとトマトをカゴに入れていく。
あー、早く終わらしてシエスタしてぇ。
今日のデートが楽しみすぎて、昨日はなかなか寝付けなかったから、だいぶ眠たい。

無心でトマトを採っていたせいで、いきなり聞こえた声に肩を浮かせるほど驚いた。
「ロヴィーノ、どしたの?」
「ぎゃー!」
「ちょっと、驚きすぎ!」
「い、いきなり話しかけてくんなよ!」

ごめんねと素直に謝られて、沈黙が落ちた。
特に話すことはない(口から出てくるのは、意味のないグチばかりだろうから)。

気まずい沈黙を破ったのはハル。

「……アントーニョの手伝い、嫌だった?ごめんね、ロヴィが行きたい所とかあったかもしれないのに」
「……別に、ねぇよ」
素っ気ないオレの態度にハルが困ってるのはわかってる。

デートを期待していたなんて女々しいことは死んでも言いたくない。

「疲れただろうし、一休みしてきなよ。こっちはアントーニョとあたしで充分だから。ね?」
ハルがオレを気遣ってんのは解る。
けど、まるでオレだけ戦力外だと除け者にされた気がして、気に食わない。

オレよりアントーニョと居たいのかよ。


「いらねー、んなの」
ボソッと吐き捨ててトマトを採るオレを、苦笑したハルが見てくる。
「そっか、うん」
わかった、と言ったハルの声は震えていて、傷つけたことを知る。
オレに合わせてしゃがみ込んでいた足を伸ばして立ち上がったハルは、オレから離れようと一歩足を踏み出す。


焦ったオレは目の前の脚を思い切り引き寄せた。
「うわぶっ」
ちっとも女らしくない悲鳴の後、ハルが倒れ込んだ。

「もー、いきなり引っ張らないでよ、バ……」
バカ、と吐き出そうとした言葉を唇で塞ぐ。
目を丸くするハルの頭を抱えれば、おとなしくキスを受け入れてくれた。

長いキスの後、唇が離れると同時に、
「明日は絶対、ちゃんとしたデートするんだからな、もうアントーニョなんか手伝わねーぞ」
あのスカートとスーツで腕を組んで歩くんだ。
お洒落なカフェやレストランに入って、雑貨屋を回ったりして。


ポカンとしていたハルは、オレが不機嫌だった理由にようやく気づき、くすくすと笑った。
「明日はずっと二人っきりだよ。美味しいジェラート屋さん見つけたから行こうね」

嬉しそうに笑うハルに、もう一度軽いキスをした。


(ロヴィ、ほっぺに土が付いてる)
(あ?どこだ?)
(違う違う!ここ!)
(んー)


(子分同士でいちゃいちゃしとる……ほんっまに可愛え!楽園やんなぁ!)


>>>
拗ねるロヴィが書きたかったのです。
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