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□英
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※魔法学校パロです。

ふよふよと魔法の力で飛んできた、可愛らしい花柄模様の封筒を開けると、愛しい恋人からの手紙。

『深夜12時、いつもの樹の下で』

そんな簡単な言葉だけで、アイラブユーのひとつもない。
拗ねたくもなったが、ハルからの誘いは初めてで、俺はガラにもなくときめきに胸を高鳴らせていた。


夕食の時にハルと顔を合わせても、悪戯の計画を秘密だといって得意気に笑うような、そんな悪戯めいた笑みでくすっと笑っていた。
あぁ、まさかこの俺がじらされるなんて!


じりじり。
そんな言葉が合うように悶々として夜を待った。
フランシスはどうせハル絡みだろうと決めつけて、ノロケられないようにどこかに行ってしまった。
ただでさえ寒い冬の、一日で一番寒い真夜中に湖近くでデートとくれば、当然防寒着が必要だろう。

そう考えてから、服を選ばなくちゃならないことを思い出す。
しんと暗い闇夜の逢瀬に、はっきり見えもしないお洒落はしなくてもいいのかもしれない。
それにどうせ防寒着をきっちりと身につけているのだから、そんな必要まったくないわけで。

けれど、これが恋の成せるわざなのだろう。
せっかくのデートに、情けない格好なんか絶対に嫌だ。


そうしてまるっと着替えた俺は、そろそろ約束の時間だ!と部屋を飛び出した。
美しい湖の上を箒で飛ぶのもいいのかもしれない。
「綺麗」とハルが言ったら、ハルの方が百万倍綺麗だよと囁いてやろう。(もしそんな勇気があったら)
そしたら、ハルは顔を真っ赤にして俺を………




箒から突き落とすかもしれない。(こんな時、シャイな日本人は困るよな)




大きな樹の下に箒からふわりと降り立つと、小走りでハルが来るのが見える。
「アーサー、お待たせ!」
「寒そうな格好で出歩くなバカ!ほら、」
おっちょこちょいなハルはマフラーを忘れるだろうと思って、きちんとハルの分のマフラーも持ってきていた。
しまってあった俺のマフラーをハルの首に巻いてやると、驚いた後に微笑んだ。
……ちなみに、俺が今巻いているマフラーはフランシスから借りた(奪ったともいう)もの。
(独占欲が強いと嫌われるぞ、なんてこっちの台詞だ)


「ふふ、ありがと」
「それで、今日はどうして誘ってくれたんだ?」
「アーサーに見せたいものがあって。ちょっと地味だけど」
おずおずと手袋に包まれた手が差し出された。
その中には、紙を細く捻った赤色の何か。
先端はふっくらと膨れていて、もう反対側の先は捻り余りのようだ。

俺はポカンと口を開けた。
このよくわからない何か(地味らしい)を、ハルは俺にあげたいと思ったのだろうか。
そんな不満が顔に出たんだろう。
ハルが一気に落ち込んだのがわかる。


「あ、のね……これは日本の花火で、線香花火っていって……」
「は、花火!?」
「あ、うん。こっちに火をつけてー……」
つらつらと説明を始めたハルをよそに、俺はさっきより数倍驚いていた。
この細長っこいのが、花火?
花火ってのは大きくて打ち上げられるものじゃなかったか?
この細さであんな大きな花火を打ち上げられるわけがない。

いや待てよ。もしかしたら、日本の花火職人は全員俺らと同じ魔法使いなのかもしれない。


「新年の花火を見て、日本の花火を見てみたいってアーサーが言っていたから」
お母さんに頼んでふくろう便の荷物に混ぜてもらったのだという。

「すごいなハル!こんな小さいのであんなに大きな花火が打ちあがるなんて信じらんねぇ!」
日本ってほんとにワンダーランドだ!と興奮しながら伝えると、ハルは顔をひきつらせた。


「あ、あのねアーサー……」
しょぼんと落ち込んだハルは、俺の手からミラクルスーパー花火(命名オレ)を取り上げた。
「ごめんなさい、これはそんなにすごいものじゃないの。大きな花火は上がらないわ」
ハルは一本だけその花火を取り出すと、蝋燭ほどの火を魔法でそれに点けた。
手に持っていたら危ないぞと言っても、ハルは俺の言うことなんか聞きやしない。

数秒経つと、濃いオレンジ色の小さな玉が出来上がり、パチッと瞬間弾けた。
だんだん大きさと弾ける激しさを増したそれに、俺は見とれていた。


沈黙の中でパチパチとその音だけ響く。
ハルが少しだけ手の向きを変えると、ふっとその玉が地面に落ちて消えた。

「あ、落ちちゃった」
ハルの声が小さく沈黙に沈んだ。
「……どう?」
「すごい。キレイだ」
地面に落ちてもまだ存在を主張しているオレンジ色の玉に見とれながら呟く。

「いろんな花火をやったあと、最後にこの線香花火をする人が多いの。……つまらなくなかった?」
自信なさげな声音に俺はハッとして、ぶんぶんと首を振る。
「なんて言うか……すごく落ち着く。それにノスタルジックだ」
「ふふ、よかった。つまらないと思われなくって」

あたしもすごく大好きだから。
そう言ってハルは線香花火をひとつ俺にくれた。
さっきのハルに倣い、先端に火をつける。

ジジッとくすぶる音がして、さっきより小さな玉ができる。
「……小さい」
「あはは、たまにあるんだよね、そういうの」

えいっ、とハルは小さくそう言って、いつの間にか点けていた新しい線香花火を俺のものにくっつけた。

「あ!くっついちゃったぞ!」
「これで大きくなったでしょ、ね?」
にっこりと寒さのせいで赤い頬のまま、ハルは笑った。
「動かさないでね、落ちちゃうから」
コクリと緊張しつつ頷く。
二人の線香花火はひとつの大きな玉になって、まるで恋心のようだと思った。
二人でいるからこうして大きくなることができる。

そう考えるとくすぐったくて嬉しくて恥ずかしくて、思わずくすりと微笑むと。

「あっ……」
ハルから小さな呟きがこぼれた。
「もー!動かないでって言ったのに!」
「わ、わるい」
「あはは、冗談冗談」


寄り添ったことで近づいた顔に、キスしたい衝動に駆られる。
その赤くなった頬をキスであたためてやりたい。
いやだけど、甘く柔らかい唇にももちろん触れたいわけで。

不意打ちにやってしまえと、手始めに冷たい頬にリップ音を立ててやる。
「っ!?」
ずさっと後ずさる姿になんだか落ち込む。
「なんだよ。俺たちは恋人だろ?そんなに嫌がらなくてもいいんじゃないか?」
「まさかこのシチュエーションでキスされるとは思わなかったから……」
いやいや今ほど素敵なシチュエーションもなかなかないだろバカ!

「……怒った?」
上目遣いで見上げられたら、怒れないに決まってるじゃないか!
このまま引き下がるのも癪だと、ひとつ提案してみた。
「キスしてくれたら許す」
「はっ!?」

今度は完璧にそういうシチュエーションに持って行ってやると、ハルは寒さのせいだけではなく頬を染めた。


「目、つむって」
「はいはい」
大人しく目をつむると、触れたかったそれがようやく感じられた。
あ、ちょっと乾燥してるな。

そんなどうでもいいことを考えていたせいか、それともハルが数瞬で離したせいか、唇から温かみが消えた。


「恥ずかしい!」
やっぱり慣れないよ、と愚痴をこぼすハルを横目に、腕時計を確かめた。
「もう1時すぎてる。そろそろ戻らないとまずいな」
「ほんとに?じゃあもう帰りましょ」

はい、と手渡された袋には、線香花火が数本。
「フランシスとかと、やりなよ」
「サンキュー、ハル。た、楽しかった」
「今度はもうちょっと花火っぽいの持ってくるね」
「いや、それだけじゃないんだけどな」
「え?」

「何でもない!」
キスを受けることだけは上手くなった彼女にまたキスをして、それぞれ寮に帰った。



(異国の珍しいものよりも、君の温度が嬉しい)

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脱線に脱線を重ねた結果がこれです(笑)
偽アーサーですみません!
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