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□英
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※学ヘタ
校舎裏への呼び出しと言えば、告白というのがセオリーだよね。
でもあたしは、そんなことで浮かれていられる場合じゃなかった。
だ、だって、その呼び出した相手ってのが、なんとあの(悪名高い!らしい)生徒会長のカークランドくんだからです!
放課後、校舎裏に。と鋭い目つきで睨まれるように言われたら、もう怖すぎて首を縦に振るしかなかった。
あの声音にあの目じゃ、あたしがどんなにお気楽な奴でも、告白かもなんて心ときめかせられないよ。
隣にいた友達なんて、本気で泣きそうになってたもん!
告白以外で校舎裏のシチュエーションってことは、もうこれは決闘しかないと思うんだよね!!
あたし何かしたかなぁ!?
あ、もしかして1週間くらい前に、教室から出ようとしたときにカークランドくんにぶつかったせい!?
どこ見とんじゃこのアマー!っざけんなよコラ、領地にすんぞ!ってこと!?
ああああああどうしよう、怖いよ怖いよ怖いよ………。
行きたくないけど、全身全霊で拒否したいけど、もし行かなくって明日教室に乗り込まれたら……!
あぁ、絶対に血を見る!いや、見る前にあたしは天国行きだきっと。
……何が原因でカークランドくんが怒ってるのかはわからないけど、とにかく精一杯謝って、許してもらおう!
謝って退散して、もう目立たないようにすれば、彼も目をつぶってくれるはずだ。
怖い人に目を付けられちゃったよ、もう!
あたしの華やかな(はずの)学生生活は、幕を閉じたってわけね……。
うんうん唸っていたら、一生来なくていい終業のチャイム。
気分が一気に落ち込む。
死刑台に送られる無罪の囚人はこんな気分なんだろうか。
そんな風に鬱々と考えながら、あたしはおとなしく校舎裏に向かった。
だって、だってね……!
カークランドくんといつも一緒にいるお友達(らしき人)が、あたしのことをずーっと監視するように後から着いてくるんだもん!
逃げたらただじゃおかねーぞってオーラをすごく感じる。
お母さんお父さん、先立つ不幸をお許しください……!
ざっ、と校舎の角を曲がると、そこには眉をひそめたカークランドくんがいて、威圧感が怖い。
「ハル……!」
「はっ、はぃぃ!」
どうしよう、カークランドくんが何か言う前にとにかく謝らないと!
すぐに聞こえるであろう文句を遮るように、あたしは必死に謝った。
「す、すすっ、好きだハルっ!」
「ごめんなさいっ!……て、……え?」
あれ、今、カークランドくん、なんて言ったのかな……?
予想と結果が一致しなさすぎて、あたしは目をぎゅっと瞑ったまま、脳を高速回転させていた。
「HAHAHA!アーサー振られたんだぞ!」
「あんなに自信満々で言ってたのになぁ」
監視役のお友達が騒いでいて、でもその声は遠く響いている。
ふら……れ?
「決闘じゃないってこと……?」
ちょっと格好いいお友達に頭突きをかまそうとしていたアーサーくんは、あたしの言葉に手を止めた。
「えーと、ハルちゃん?決闘って、どういう意味かな?」
未だに頭を捕まれているお友達が、あたしに(思いの外優しい笑顔で)笑いかけた。
あたしはわけがわからなくなって、斯く斯く然々と洗いざらい話した。
ようやく言葉を止めたあたしがふぅと息を吐くと、ぶっ!と堪えきれなかったのか、お友達が吹き出した。
「け、けっとうって、アーサーはそんなことしないぞ!」
「ぶはっ!このアマーって、典型的な不良すぎでしょ!俺ら、どんだけ悪のイメージ持たれてんだ?」
ひーひー言いながら転げ回って、バンバン地面をたたく二人を見て、あたしもふにゃりと気が抜けてしまった。
「あー、笑った笑った。……で、ハルちゃん。決闘じゃなくてベタな場所での告白なんだけど、返事は?」
イケメンくん(フランシスくんというらしい)が、泪でにじんだ目をこすりながら問う。
あたしはというと、地面にへたり込んでいた。
なんだかわかんないけど、この人たちは本当の不良じゃない気がする。
恐怖政治を強いるカークランドくんだって、そんなに悪くて怖い人でもないんだろう。
「えと、相手を誤解したまま断ることってとっても失礼なことだと思うの。だから、恋愛とかはわからないけど、みんなとお友達になりたいな……なんて」
こんなこと言っちゃって大丈夫だろうか?
一瞬戸惑ったけど、カークランドくんの顔が嬉しそうにパッと華やいだ。
カークランドくんが眉をしかめてないのを見るのは初めてだなぁ。
「ハルっ!と、友達になるんだよな!?それでいいんだよな!?」
「え、あ、うん!カークランドくんたちが良ければなんだけど……」
「断るわけない!」
ほんわかした顔でカークランドくんが言うから、あたしも嬉しくなってしまう。
「じゃあ、これからよろしくね」
「……っ、あぁ」
手を差し出すと、カークランドくんはあたしの手を掴み、ぶんぶんと振った。
「あ、わ、わわっ!」
「おいアーサー、女の子の手をぶんぶん振るなって」
「わっ、悪い!痛くないか!?」
「あはは、大丈夫だよ」
話せば話すだけ、笑いがこぼれる。
こんな始まりも、いいよね?
(明日からの学校が楽しみだなんて、無意識に浮かれてる自分がいた)