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□英
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ペリドットと呼ばれる碧緑の瞳に惹かれた。
あの美しいエメラルドグリーンに引き寄せられるように、それだけに釘付けになる。


ほう、とため息をついた。
あの瞳に私が映ったら、私も翠玉色なっているのだろうか。
ああ、気になります。

「……ハル。俺の顔に何かついているか」
「あぁ、いいえ。申し訳ありません。綺麗な瞳をお持ちだなと思いまして」
「ひとみ」
心底驚いたアーサーさんの瞳は私たちでいうところの黒目(彼は翡翠目、とでもいうのだろうか)が大きいことがわかった。

だからこんなにこぼれ落ちそうなのかもしれない。

「自分の瞳の色なんて気にしたことなかったな」
彼の国ではいろいろな瞳を持つ方が多いらしい。
昔から違う民族が交わってきたからであろう、彼らの髪も多種多様だ。

「私のところではほとんどが黒目黒髪ですから、そんな鮮やかな瞳が珍しくて、つい見つめてしまいました」


そうして、はたとある疑問が浮かぶ。
「もしかして、アーサーさんの涙は翡翠色なんです?」
「は、」
もしそうならば見てみたいと思った。
「さぞお美しいのでしょうね。私がアーサーさんの瞳に映ったら緑色で見えるのか、とも考えたんです。あら、そうしたらアーサーさんが見えている世界も翡翠色かしら」


それも楽しそうだけれど、全てが翡翠色に見えてしまったら、私の顔はきちんと見えているのだろうか。
私がひとりで考え込んでいると、何も言わなかったアーサーさんが口を開いた。
「ハルって……天然って言われないか?」
「天然、です?」
「考えてもみろよ。もし俺の視界が全部緑だとしたら、漆黒の瞳のお前は真っ黒で何も見えないじゃないか」

言われてみればそうだ。
そんなこと思いもしなかったと目を白黒させていると、我慢できなかったのか、アーサーさんが吹き出してしまった。

「ぷっ、あはっ、あはは!」
「わ、笑わないでください」
「だって、ははっ、発想がまるっきり子どもだ!」
「もう……」

恥ずかしさを隠すためにポコポコと怒りを表す。


遂にはお腹を抱えだしたアーサーさんに、私は居たたまれなくなってソファから立ち上がった。

「待ってくれ、悪い。笑いすぎた」
まだクツクツと笑っているから、言葉に真摯さを感じない。
「もう夕暮れですし、子どもはお家に帰ります」
つん、と突き放すと今度は後ろから抱きしめられた。

「だめだ、帰さない」
「アーサーさ……」
「レディのご機嫌を直さなきゃならないからな」
「直りませんよっ」

耳元で話されたらくすぐったくてたまらないと、身をよじる。
「翡翠の涙は流せないが、きっとハルが俺の瞳に映ったら緑になるかもしれない。なぁ、確かめてみないか?」
お前の瞳を見たら俺も黒く染まってしまうんだろうか、なんて楽しそうに言うものだから、私の好奇心が疼いた。



「確かめて、みます」
くるりと腕の中でアーサーさんと向き合って、瞳を見つめる。
恥ずかしいけれど、彼も頬を染めているからお互い様だろう。

ゆっくりと時間をかけて見つめ合う。
ああ、やはり綺麗。
そんな感想しか浮かんでこなくて、気付いたら唇が静かに触れ合っていた。


「……どうだった」
「え?……あ、ちゃんと見ていませんでした」
「(これは、まだ見つめていたいと言ってるのか?)」
「もう一度、よろしいです?」
「!だ、だめだっ」
「何故です?」


(滅多にない機会、そうそう何度もできるか!)
(また今度、お願いしてみましょう)

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半実話です。友人がそんなこと言ってました。天然さんです
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