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□労働
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俺の想い人には、大好きで大好きで仕方のない人がいる。

「ゆーちゃん!」
彼女は口を開けばゆーちゃんゆーちゃんと、我が陛下を呼ぶ。
そして、陛下も目に入れても痛くないと宣言しているものだから、たちが悪い。

「どうした、ハル」
「エーフェがおやつ作ってくれたんだって!行こ行こ!」
「行く行く!な、ギュンター、休憩していいだろ!?」
「そんなっ、陛下はわたくしとお勉強するのがそんなにお嫌いなのですかっ!?」
むせび泣くギュンターに、二人とも困り顔だ。

「ねぇ、ギュンター?ちょっと休憩したいだけなの。美味しいケーキと紅茶を飲めば、ユーリもまた勉強したくなるよ!ね、ゆーちゃん?」
「えっ?あーうーん……そ、そうだな!休憩したら絶対戻ってくるからさ!ギュンターの分も持ってくるし!いいだろ!?」
二人の双黒に上目遣いで懇願されたら、二人に対しては誰よりも意志が弱いギュンターは咎めるわけもなく。むしろ、
「べいがどハルざまが、わだぐじにゲーギをもっでぎでぐだざるなんで〜〜!」
と、大変感動していた。


「いくぞ、ハル」
「うん!」
自然な流れで手をつなぐ二人は、想い合っていないことが不思議でたまらないくらい、仲がいい。
これについては、浮気だのなんだのと騒ぐ弟も、苦言を呈することはできないようだ。


前に、陛下のことが好きなのかと聞いた時、ハルはキョトンとしたあと笑顔て言った。
「もちろん、世界一大好き!」
「俺も、世界一大好きだぞー!」
「ほんと!?嬉しい〜!」
和む会話で目的を忘れそうになるが、思い起こしてまた先を紡いだ。

「えぇと、では、愛しているということですか?一応、ユーリの婚約者はヴォルフラムということになっていますから、これだと浮気ということになりますが……」
「違うよー!ゆーちゃんは世界一大好きだけど、愛してるとかそういうのじゃないの!ね、ゆーちゃん」
「そうだよコンラッド。俺はだれよりハルが好きだけど、彼女にしたいとかじゃないんだって!」

わかった?と二人して俺の顔を覗き込んでくるが、イマイチ理解できない。
「じゃあ……もしハルに彼氏ができたとして、デートの約束をしていたにも関わらず、ユーリが遊ぼうと誘ってきたらどうしますか?」
「ゆーちゃんと彼氏と三人で遊ぶ!」

即答に苦笑しつつ、
「彼氏に、ユーリと遊ぶなと言われたら?」
「そんなの嫌だなあ……。あ、でも大丈夫!あたしと同じくらいにゆーちゃんのこと好きになってくれる人と付き合うから!」
「……そうですか。陛下はどうです?自分がハルの立場だったら?」
ハルの言葉に目尻がさがりきっている陛下は、ニコニコ顔で同じことを言った。

「俺も!ハルのこと可愛がってくれる女の子と付き合う!」
「もし結婚したら、お隣に住もうね!」
「一緒に住めばいいじゃん!二世帯住宅みたいにしてさ!」
「ゆーちゃん、それ素敵!そうしたら、赤ちゃんたちも楽しいよね!双子ちゃんみたいに、同じ服を着せてあげようよ!」
「ハルの子どもかー!可愛いんだろうな〜」
「ゆーちゃんの子どもも絶対カッコ良くなるよ!それに可愛いグレタも、きっと良いお姉さんになってくれるんじゃないかな」

将来の話で盛り上がる二人に、やっぱり魔族を率いるものとしてはこれくらいの寛容さがないと駄目なのだと自分に言い聞かせた。



こんな風に、お互い大好きな二人だが、本当に恋愛感情はないように見える。
だからこそヴォルフラムも、ハルについては浮気者と陛下を詰らないのだ。


「ギュンター、コンラッド、お待たせ!お茶の時間だよ〜」
本当は執務から逃げたいだろうに、ハルが居る手前、逃げられなくなった陛下が戻ってきた。
「ユーリ、ハルは?」
「ハルは、ケーキ係。すぐ来るよ」
「手伝ってきますね」
「あ、コンラッド……」

スルリと部屋から抜け出すと、すぐにハルを見つけた。
「ハル。持ちますよ」
「コンラッド。大丈夫だよ」
陛下と一緒にいないことが少ない今の好機を逃すわけにはいかない。
俺はさり気なくハルの前に立って歩みを止めさせる。

「コンラッド?どうしたの?」
「ハルは前に、陛下のことをハルくらい大好きな人と付き合うと言いましたよね」
「そうだね、そんな人居たら良いな!」
「居ますよ、あなたの目の前に」
「え?」

目を丸くするハルに、追い討ちをかける。
「俺は、命に代えても陛下をお守りする覚悟があります。そして、陛下と同じくらい……いや、それ以上に、ハル、あなたが好きだ」
あまりに突然すぎる告白に、ハルは驚きを隠し得ない。

力が抜けたのだろう、手に持っていたトレーが落ちそうになるが、俺がすぐに受け止めた。

「俺は陛下とあなたと三人でデートでも全く構わないし、もし結婚して四人で同居することになっても大丈夫です。むしろ、二人とも守り易くなりますから、大賛成だ」
俺とあなたとの子どもはきっと可愛いだろうと言おうとして、さすがにセクハラだと陛下に訴えられそうだからやめておいた。

「陛下のことが世界一大好きで構いません。その代わり、俺のことを世界一愛して下さい」
今まで数多くの女性をおとしてきた笑顔と流し目を使うと、ハルは顔を真っ赤にして、俺を突き飛ばして執務室にかけていった。

「あれ?ハル、どうした?顔が真っ赤だ。風邪でも引いた?」
部屋から陛下の心配そうな声が聞こえる。
「ち、違うのっ!は、はいこれケーキ!ゆ、ゆーちゃん!あああたし、アニシナのところに行ってくるね!」
「え!?実験台にされちゃうぞ!やめといた方が……」
「じゃ、じゃあアニシナのところにいるグレタに会いに行く!」
「って、結局アニシナのところに行くってこと!?あっ、ハルー!」


忠告も聞かずに部屋を飛び出したハルは、俺を見たとたんに硬直して、回れ右をして去っていった。


意識させることには成功したようだ。
そうしたら後は、出来るだけ優しくして甘やかして、こちらに引きこむまでだ。

覚悟していてくださいね、と心で宣言して、執務室へと入っていった。


(コンラッドー、ハルが具合悪いみたいなんだ!俺がサインしてる間は、付き添ってあげてくれない?)
(お任せ下さい、陛下)
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