z

□うたぷり
12ページ/20ページ

--------------------------------------------------------------------------------
「うわぁー、ここ、桜の木多いね〜」
「ほんとだ!ここで花見したかった!」

休日の今日、音也とあたしが買い出しから帰って寄り道したら、桜が満開になっている通りを見つけた。

「そうだね、先週は学園の庭でやったから、あんまり桜なかったもんね」
「楽しかったから良いんだけどさ」

忙しいと断る一ノ瀬さんを音也が泣き落として、先週末にいつもの6人と春歌ちゃんと友ちゃんとあたしでお花見をした。
男の子みんなでサッカーをしたり、バラエティ授業の練習をしたりして、なかなか楽しい時間を過ごせた。


楽しかったねとのほほんとその通りを歩いていると、強い風がびゅうっと吹いた。

「あ、桜散ってる」
「本当だ。明日は雨だっていうし、すぐ全部散っちゃうかもね」
「やっぱ桜が散るのって切ないよね……」
「季節を感じられるよね」
「あっ、そうだ!ねぇ春、桜の花びらのジンクス知ってる?」
「地面に落ちる前に花びらを取れたら願いが叶うってやつ?」
「そうそう!散っちゃう前にやろうぜ!」

音也があまりにも楽しそうにそう提案してくるから、あたしも笑顔で頷いた。

「よーし、スタート!」
荷物を端に置いて、二人して上を向いて花びらを見つめている。
ひらひらと舞い落ちてくる花びらを掴もうとしても、思いっきり手を伸ばすと、風圧を受けてするりと逃げてしまう。

「けっこう大変〜!」
躍起になってぴょんぴょん跳ぶあたしに、音也はくすくす笑った。
「花びらを受け止めるみたいにして取ると簡単だよ。ほら、俺もう2枚!」
「えっ、じゃあもう2つも願い叶うじゃん!羨ましい〜」
「これって、3枚集めなきゃいけないんじゃないの?」
「何それ、聞いたことないよ」
「え〜、俺は3枚って聞いたけど。1枚ならすぐ取れちゃうからってさ」
「あたしには無理!」
「そんなこと言わないでさっ、頑張ろうぜ!」
ねっ!と音也スマイルにやられたあたしは、しぶしぶチャレンジを再開した。

「受け止めるように、ね」
「そうそう。あっ、ほら!!取れた!いい感じ!」
「わっ、本当だー!取れたよ!よーし、頑張っちゃう!」
「がーんばれー」
「って、音也はもう取れたの?」
「うん!だから、春の応援係」
頑張れ〜とエールを送ってくれる音也を横目に、どうにかもう1枚ゲットした。



「もう疲れた……」
「えぇっ!?あと1枚だよ?」
「うう〜……諦めたくないあたしと、疲れたあたしが葛藤してる……」
「がーんーばーれー!!って、あ……」
「ん?」

音也はあたしを見つめながらすぐ目の前までやってきて、
「春の髪についてるの見つけた」
「え?取って取って」
前髪に音也の手が触れて、反射で目をつむると、さらりと前髪が揺れて額に柔らかな温かみを感じた。

「ん?」
パチリと目を開けると、離れていく音也の顔が見えて。
しかもその音也の頬は赤らんで、恥ずかしそうにはにかんでいた。

「今のって……」
「へへ、つい」
頭を掻いた音也があたしの手のひらに桜の花びらを乗っけてくれた。

「ねぇ、これってあたしが取ったことになるの?」
「地面に落ちてないんだし、良いんじゃない?」
「まあいっか。よし、やっと願いごと言える!」
「春は何を願うの?」
「もちろん、卒業オーディション優勝!でしょ?音也は?」

「俺は……。来年の今日も、春の誕生日とかクリスマスとか記念日とかも全部全部、春と一緒にずっと過ごせますように……かな」

儚げに微笑む姿と桜の散る様子が、まるでどこかの絵画を見ているように見えた。


まるで諦めてしまっているようなその表情に、胸がしめつけられる。

「そんなの、」
あたしはその空気を振り払うように口を開いた。
「そんなの、あたしが叶えてあげる。だから音也もオーディション優勝をお願いしなよ!二人で願えばもっと叶う確率あがるよきっと」

目を丸くする音也の手を取って、頬に唇を寄せる。


「手始めに、今日の音也の誕生日を今までで最っ高の誕生日にしてあげる!」
行こう!と音也を引いて桜並木を駆け抜けた。


>>>
音也おたおめ!朝気づいて、超特急で書き上げました(苦笑)
通勤道にあった桜が風で綺麗に散っていたので。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ