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□うたぷり
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「ねえ、なっちゃん」
「はい?何ですか、春ちゃん」
「なっちゃんって、絶対にいい旦那さんになるよ!」
「そうですか?ありがとうございます。ふふ、嬉しいなぁ。春ちゃんが僕のお嫁さんになってくれるんですか?可愛い可愛い春ちゃんがエプロン姿で料理してるのを想像すると、可愛くてぎゅってしたくなっちゃいます」
なっちゃんは、ぎゅーって言いながらわたしを抱きしめた。

「んーっ、んん!」
なっちゃんの逞しい胸板に顔が押し付けられて、呼吸ができないよ!くるしいよなっちゃん!助けて誰か!

「ちょ、ちょっと那月!春が死んじゃうよ!離して!」
「え?あ、ごめんなさい。僕、あまりに嬉しくって、ついつい力を込めてしまいました」
し、しぬかとおもった……!恐るべし、なっちゃん!
あとオトくん、ありがとう!命の恩人だよ!


「あぁ、うんまあ、大丈夫……じゃないけど大丈夫……」
必死に酸素を取り込んで呼吸が落ち着いてくると、当初の目的を思いだす。

「って、わたしが言いたいのはそういうんじゃなくて!なっちゃんがいい旦那さんになるよって言いたかったの!」
「なになにー、どうして?」
オトくんが興味津々といった顔で聞いてきた。

「昨日テレビで見たんだけどね、奥さんが旦那さんに言われて嬉しい言葉ランキングっていうのがやってて、」
なっちゃんもわたしの話に耳を傾けてくれている。うん、なぜだか両手をぎゅっと握られているけど、気にしない!
「感謝の言葉だったり、料理とかおしゃれとかを褒めてくれるのが奥さんにはとっても嬉しいことなんだって!あと、愛してるって言ってくれるのもポイント高いみたい!」
にこにこしてるなっちゃんに、わたしも笑いかけた。
「なっちゃんってよく可愛いとか大好きとか言ってるし、些細な変化にもよく気づいてくれてるでしょ?特に、結婚した後ってなかなか愛してるとか言わないから、奥さんは愛されてるのか心配になっちゃうらしいんだよね。でもなっちゃんって全身で愛してるオーラを出してるから、そういうの全部クリアしてるなって思ってさぁ」
料理は壊滅的を通り越して殺人兵器になるから、主夫にはなれないと思うけど。

「だから、いい旦那さん!あ、でもこの条件ならオトくんもいい旦那さんになれそうだよね〜」
「ええっ、俺?お、俺にはまだ結婚は早いっていうか、そもそもアイドルだから園長先生が許してくれなさそうっていうか!」
「おやぁー?その慌てぶりじゃあ、本命の子がいるね?オトくん?」
オトくんは、バレた!と慌て始める。
かーわーいーいー!


そんな風にわたしがオトくんいじりに夢中になっていると。
「春ちゃん!」
「は、ははい!?」
やたら大きな声でなっちゃんがわたしを呼んだ。
もしかして怒ってる?わたし褒めたつもりなんだけど……。
恐る恐るなっちゃんを見上げると、

「今まで、春ちゃんの要求に応えられなくてすみませんでした。これからは、きちんと毎日春ちゃんに、「可愛いです」「愛しています」「ありがとう」と言って抱きしめてあげますね!」
「え……?」

わ、わたしの要求って、わたし何も要求してないよね!?
斜め上どころか垂直にかっ飛んでるよ、この人!
月まで飛んでいっちゃうんじゃないかな?

「お、オトくん……わたしそんな事一言も言ってない……よね」
念の為、オトくんにも確認しておくことにした。
わたしの勘違いかもしれないしね。うん、かもしれない運転は大事だからね。

「俺はそうは受け取らなかったけど……曲解に曲解を重ねたらもしかしたら……。那月って不思議キャラだし」
「不思議キャラであってもこんな曲解は許されませんよ」

声をかなり低くして遺憾の意を表す。
オトくんは肩を竦めて苦笑い。

「春ちゃん。僕、可愛い可愛い春ちゃん奥さんのために一生懸命いい旦那さんになりますね!」
大好きですよ!と飛びつかれて、わたしは逃げる間もなく捕獲されてしまった。
「なっちゃん、ちょっと待って。わたし、なっちゃんのお嫁さんになるなんて一言も……」
「もし春ちゃんがお仕事でご飯を作る時間がなくても大丈夫ですよ。僕、家事はだぁい好きだから、春ちゃんにとっておきのご飯を作りますね!」
なっちゃんの手料理なんて食べたら、一生地獄を見る!
全力で回避しようと口から出た言葉は、全くもって不本意な言葉だった。
「わたし、なっちゃんのために毎日ご飯つくりたいなぁ、あはははは!」

って、ばかー!わたしのばかー!
なにお嫁さん宣言しちゃってんのー!

後悔先に立たず、覆水盆に返らずだよこんちくしょー!

「僕のお嫁さんになってくれるんですね!あぁもう、幸せ!」
骨が軋むほど抱きしめられたわたしは、オトくんとマサやんの必死の救護活動にも関わらず、興奮したなっちゃんから抜け出すことができず、為す術もなく耐えるしかなかったのだった。


(ああもう、どうしようもなく愛してます!一生一緒に居ましょうね!)
(だめだもうわたし……手料理じゃなくてなっちゃん自身に殺される運命だったのね……)
(うわぁぁ、那月ーー!マジで春が死んじゃうって!)
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