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□うたぷり
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・ちょっと病んでる?


「神宮寺くんっ!おはよー」
「おはよ、レディ」
「レンー、来週遊ぼうよっ」
「来週は他の子羊ちゃんと約束があるんだ……。ごめんね。来週末なら空いているよ」

わいわいがやがや。
そんな言葉が似合いそうなほど、神宮寺レンの周りには女子生徒が多い。

「……いいのかよ、春」
「いいんじゃない、別に」
翔ちゃんが気まずそうにあたしを見た。なぜならば、私は神宮寺レンの彼女というやつだからだ。(公表はしていないけど)
普通、彼氏の周りに女の子が群がっていて、しかもその女の子の遊びのお誘いにいとも簡単に乗ってしまう彼氏はどうなんだろうと思ってしまうだろう。

だけどあたしは、本当に何とも思っていない。
いや、数か月前までは私は嫉妬の炎で怒り狂っていた。
レンに別れを突き付けたこともあるし、あんたなんか大っ嫌いとひっぱたいたことだってある。
それでもレンはあたしを引きとめた。引きとめて、好きだといった。
恋愛ご法度のこの学園で、レンは私だけを贔屓することはできないと言った。
私も退学は困るから頷いた。


そして、この嫉妬から逃れる術を見つけたのだ。
「もう慣れたから、別にどうとも思ってないよ」
これは強がりとかじゃなくて、本当にそうなのだ。
「見切りをつけたってことかよ」
「レンのこと、ちゃんと好きだよ。恋人として、ちゃんと。でも、レンが女の子と遊んでもどうでもいいの」
わかんねぇ、と顔をしかめる翔ちゃん。
翔ちゃんにはちょっとまだ早かったかな?


「正直なところ、今ならレンが浮気したとしても全然辛くない気がする」
「は?何だよそれ」

女の子の可愛らしい声。
レンの甘く誘うような声。
恋する女の子の瞳。
レンの濡れた魅力的な瞳。


レンの全てがあたしに向いてなくてもいいの。
「一つでも、あたししか知らないレンが存在してれば、あたしはレンがどんなに酷いことをしても何ともないんだよ」
照れたり、泣いたり、笑ったり、怒ったり、色っぽかったり。
そんなレンはみんな知ってる。だからそれは、あたしにはいらない。
誰にでも見せる顔なんか、あたしに向けてほしくない。

はぐらかそうとする時に片目を眇める癖も、レンに溺れている女の子に見せればいい。
深い口づけの最後に上顎を舐める仕草も、何十人にでも披露すればいい。
どうやってレンが女の子を抱くのかだって実践したいならすればいい。


「あたししか知らないレンをあたしに見せてくれるから、あたしはいつだってレンを愛してる」
ふと、レンと目があった。
レンは計算しつくされた笑顔とウィンクを私に見せる。
ねえ、そんなものいらないから。




あたしに、あたししか知らないレンを早く見せて。

(あたしはそれで幸せなの)
(レンだって、幸せって言ってるから)


>>>
もうちょっとまともな予定だったけど、病んでる人みたいになってしまった……。
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