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□うたぷり
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世の中の恋人は、どうやってスキンシップを取っているのだろうか。
私の言うスキンシップとは、いわゆる「いちゃつく」という意味だ。
手を繋ぐ、キスをする、頭を撫でる、肩にもたれかかる、抱きしめる、後ろから抱きつく……などなど、さまざまなスキンシップがあると思う。
挙げ連ねたスキンシップが嫌なわけではなく、むしろ好きだ。
好きな人と心を通わせているように感じられるスキンシップは必要不可欠だと思う。

それでも、何故か納得いかない。

セシルはよく腰に手を回してくる。
性的な意味合いはないので私も過剰に反応することはないし、くすぐったがりというわけでもないから拒絶することもない。
じゃあ何が納得いかないのかというと。
セシルはその手を私のくびれ(と言える自信がないが、あえて言うならば、くびれだ)のお肉をぷにぷにと触るのが好きなのだ。
私の名誉のために言っておこう。私は少し肉付きがいいだけなのだ。お腹が出ているわけでもない。

日がな部屋にこもって作曲しているから運動なんて滅多にしないし、する時間があってもなんせ私は運動嫌いである。
気分転換を兼ねた散歩はするけれど、一日摂取したカロリーを相殺できるほど運動したことはきっと人生のうちで一度も無い。
だから筋肉がないのには頷ける。しかし、それを脂肪だとは認めたくないのが乙女心というやつだろう。

しかしセシルはそれを自覚しろと言わんばかりに、毎日毎日私の可愛らしいくびれ(脂肪)をもみもみするのだ。
「セシル……私、ダイエットしようかな」
「なぜ?春にはその必要はないと思います」
今日もソファでくつろいでいるとセシルが私のくびれをいじり出したので、思い切ってそう言ってみた。
暗に揉むなという怨念も込めて。
しかし天然王子にそれは通用しなかった。それどころか、必要ないとまで言われてしまった。

「でも、お肉ついてきちゃったもん」
ほら、とお肉をつまむとセシルは恐ろしいことを聞いたかのように目を開いてブンブンと首を横に振った。
「ノン!ダイエットの必要はまったくありません。これくらいはついていないと、病気になってしまいます。これは身体にとって必要な分です」
確かに多少の脂肪は身体に必要だ。体脂肪がなさすぎると風邪を引きやすいと聞く。
だけれども、この贅肉は私の身体にとって必要なこととは到底思えなかった。

「っていうか、セシルが何で必死になってるの」
「春の健康を維持するのも、恋人であるワタシの務めです」
考えてみれば、夜更かしはダメだの好き嫌いはよくないだの小言をよく言われる。

「とか言って、脂肪をぷにぷにしたいだけでしょ!」
私は知っている。セシルが私のお肉をぷにぷにするたびに幸せそうな顔をすることを。
うっ、と図星を指されたようで言葉に詰まるセシル。
「……本当はそうです。しかし、ある程度身体に脂肪が必要なことも事実です!」
決して私利私欲のためではないと主張するセシル。でも8割私欲でしょ。

「うーん、でも触られてると否が応でもその存在が気になっちゃうものなんだよね。この忌々しいお肉が!」
ぷにぷにと弾力のあるそれを私がつつくと、セシルも一緒になってつつきだした。
「やめてよー」
「けれど、気持ちがいい」
「なんか麻薬常習犯みたいな言い方……」
やめられない止まらない!と、某お菓子の宣伝文句が頭によぎる。

「セシルってば、もしかしてちょっと太めの子が好きとか……?」
そうだったらダイエットしなくてもいいかななんて甘えたことを考えた。
「ワタシはどんな春でも可愛らしく感じ、愛おしいと思います。しかし、必要以上の脂肪は身体に毒です。今がちょうど良い」
天然タラシだよなぁとしみじみ思っていると、セシルは無意識にかまた私のお肉をいじくりだした。
「散歩の時間増やそうかな」
「身体を動かすことはいいことです。ワタシも一緒に行きたい」
「そうだね。散歩の時間増やせば健康にもなれるだろうし」
曲を作るときの良いアイディアも生まれてきそうだしね。
「よし、明日から始めよう!」
「? なぜ今日から始めないのですか?まだ昼です。昼食をとって休憩したら行きましょう」
セシルの当たり前の提案に私は愕然とした。
「だから私、太るんだ!今から始めないから!明日からとか言っちゃってるから!」
私がバッと立ち上がると、私に絡み付いていたセシルは「にゃっ!?」と悲鳴をあげながら転がってしまった。

「行こう!今から!」
「今ですか?しかし、もう昼食の時間……」
「じゃ、セシル先に食べてて!私は帰ってきてから食べる!」
「あ、焦りは禁物です!計画的に行うことが重要です。まずは昼食をとって、今後の計画を立てましょう」
「う、確かにセシルの言うとおりだわ」
「昼食はオムライスを作りましょう」
「ふわふわ卵のがいい!」
「はい。ふわふわ卵のオムレツを作りましょう」
「わーい!」
セシルの口車に乗ったことを知らない私は、あまりに美味しいオムライスに感銘を受けて作曲を始めてしまい、散歩のことなど頭から綺麗さっぱり消してしまっていた。
そして私の宣言通り、明日から散歩の時間を増やすことになったのだった。



〜後日談〜
これは余談ではあるのだけれど、セシルがあまりにも私のお肉をぷにぷにするものだから、数ヵ月後には気にならないくらいに脂肪がなくなっていた。
「春、ワタシに隠れてダイエットしていますか?」
「え?してないよ?セシルと一緒に散歩してるだけ」
「春のこの気持ちいいもちもちがなくなっています……」
「うそっ!?本当!?」
確かにつまんでみると、以前よりつまみにくくなって、ようやくくびれらしきものが出来てきた。

「セシルがずっともみもみしてたから、脂肪が燃えたんだよ絶対!」
キラキラと目を輝かせて息荒くする私に、セシルはちょっと寂しげだ。
「ね、ね!二の腕ももみもみして!」
筋肉というものを知らない私の身体にはまだまだお肉がたくさん隠れている。
両腕を差し出すと、セシルは早速もみもみして、「やわらかくて気持ちがいい……」と幸せな表情をしたけれど、すぐに「数ヶ月したらなくなってしまうんですね……」と何故か私の脂肪ちゃんが燃えることに悲しんでいた。
「セシルはもみもみできて幸せ、私は脂肪が消えて幸せ!こんなに幸せなことってないよ!」
私があまりにも喜ぶものだから、セシルもようやく笑ってくれた。
「春の幸せがワタシの幸せです。愛しい恋人」
ちゅっと頬にキスをされて、ほんわかと胸の辺りが温かくなった気がした。

私たちのスキンシップは、こんなものでいいのかもしれない。

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私のお肉をセシルさんにもみもみしてほしいです……。
最近のドラマCDのセシルがなんか可愛さを前面に押し出していますね……。
ささやきCDくらいの声のトーンが一番すきだなぁと思いつつも、黒崎さんとのCDのセシルの「にゃーーっ」が可愛すぎてhshs!鳥海hshs!ってなりました。

アンケートでセシルさんリクエストして下さった方、ありがとうございました!
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