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□ゲーム
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俺がSOS団の部室の扉を開けると、そこには誰もいなかった。
長門さんが居ないなんて珍しいななんてふと思いながら、空いてる椅子に座ってぼんやりとしていた。
キョンは涼宮と一緒に何やらやらかそうとしているらしいので、遅れてくるそうだ。まあ、キョンは強制的に連れて行かれたから、不本意だとは思うけど。

誰もいない部室ってこんな空気なんだな。
いつも長門さんがいるから、どことなく静かな雰囲気なんだけれど。
あれ、でも今も人が居ないから静かだよな。長門さんが居る部室とは「静か」の意味が若干違う気がする。

何だろうなー、と一人で首をかしげていると、カチャリと大人しい音が聞こえた。
「ああ、長門さん」
目顔で俺を確認して、長門さんは鞄を定位置に置くと、いつものように本棚を眺めた。
本を手に取って、定位置にある椅子に向かう。

「あ」
俺がこぼした声は、長門さんの心の声とかぶったのではないだろうか。
だって、俺が座っている椅子は長門さんの定位置である椅子だったんだから。

「ご、ごめん」
「いい」
俺がガタッと立ち上がると、長門さんは短く立たなくていいと言った。
俺は即座に他の椅子を探すも、なぜかない。


「あ、あれ?椅子がない」
「涼宮ハルヒが昼休みに他の場所に移動した」
「あ、そうなんだ。……って、じゃあこの椅子に座ってよ!立って読書って辛いだろうから」
「大丈夫」
「大丈夫って……」

大丈夫なわけがあるかと長門さんを見つめても、本棚を背に表紙をめくり始めていた。
女の子を立たせておくなんて俺にはムリだ!でも、長門さんは俺が立って椅子を勧めても首を横に振るだろう。

うーん、どうしよう。


あ、そうか。


「長門さん、ここ座る?」
長門さんに示した場所とは、俺の膝の上。
無言で俺を見る長門さんは、何言ってんだコイツみたいな目をして俺を見ている(気がする)。
「へ、んかな?それでも俺は仮にも恋人……長門さんを立たせていたくないんだ、けど」
ごめん、と謝罪を口にしようとすると、長門さんは俺の目の前に来ていた。

「あなたが構わないなら」
座る、という意味にとっていいんだろうか。
「全然構わないよ!嫌だったらこんな提案しないし、ええと」
俺がこの行為の正当性を必死に考えていると、長門さんはくるりと反対側を向いて俺の膝の上に座った。


長門さんの脚が俺の脚を挟んで座っているのだから、もちろん長門さんの膝は開いてしまっていて、俺は焦りながらブレザーを脱いだ。
「こ、これひざ掛けにして」
俺が後ろからブレザーをかけてやると、小さくありがとうと聞こえた。

長門さんって、なんだかいい匂いがする……。
これって石鹸の匂いかな?長門さんらしくて、いいな。

「あ、あの、手……前に回してもいいかな」
手持無沙汰になってそう聞くと、こくりと頷いてくれた。
恐る恐る手をお腹の方に回すと、本を持っている長門さんの手の甲が触れた。

うわああ、なんかコレ、すっごい恋人っぽい!!!
胸中でテンションあがってしまって、心臓がバクバクしてる。
手を回したことで長門さんの体温がよりはっきりと感じられて、安心とドキドキがごちゃまぜになってる。

か、肩に顔を乗せてもいいかな。
いくら恋人とはいえ、そんなに進展してはいない俺たち。
ドキドキしてるのは俺だけなのかなとか思いつつも、本に夢中になってる今の長門さんだったらそのくらいしても気にしないんじゃないかという期待でいっぱいになった。


よ、よし。乗せよう!ちょっとでもピクリと反応されたら、何気なさを装って外せばいいな。
そっと優しく肩に顎を触れさせながら、次第に力を抜いてもたれかけた。
特に拒絶反応はない。ふぅ、一安心だ。
長門さんが読んでいる本は二段組みの文字が小さい本だった。あ、なんか頭痛がしてきたような……。
やっぱり俺と長門さんだと頭の構造が違うんだろうな。

しばらくその体温に馴染むように身体を預けていると、ドキドキしていた鼓動ががトクトクと安心したそれに変わっていった。
二人がこうして触れ合うことが当たり前のようになる日が来ればいいな。
まだキスをするタイミングすら掴めてないヘタレ男だけど、こうやって少しずつ勇気を出せばもっと近い存在になれるのだろう。



「長門さんって……あったかい」
目を瞑りながら、半ば無意識にそう呟いて眠りに落ちた。



その後、空気が恥ずかしくて入ってこれずに部室の前で固まっていた朝比奈さんと、事情を聞いた古泉がドアを開けるまで俺は心地よいまどろみに浸っていたのだった。
(おやおや、初々しいお二人の愛情表現ですね)
(お、お二人とも、とってもお似合いだと思います!)


(あなたの体温の方がよほど熱い)

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長門さん好きすぎてすみません!!
男の子視点はヘタレが可愛いと思うんです!ドキドキしながらアクションを起こす男の子って可愛くないですか!?
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