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朝、ルフィたちのおっきな声で目が覚めた。
うっひょー!と大喜びしているってことは、いよいよ目的地近くの夏島が見えたってことだろうか?

確かに少し蒸し暑いような気がするかもしれない。
そんなことを考えていたら、コンコンッとノックの音。

ナミやロビンは自分たちの女部屋をノックしないし、ルフィやチョッパーやウソップは掛け声と共にノックも無しにあける。
ゾロはめったにこないし、今はまだ寝てる頃だろう。

と、いうことは。
「ハルちゃん、起きてるかい?」
声を聞かずとも誰かは分かるわけだ。

「ルフィのおっきな声で起きたよ〜。おはよう」
サンジくんは律儀に、入ってもいいかい?と女の子への配慮は完璧にそう訊ねた。

「どうぞ」
「おはようレディ。お目覚めにはハーブティがいちばんだ」
ふわりと香り高い匂いに頬がゆるむ。
「いい匂い〜」

丁寧に注がれたハーブティを受け取って、こくこくと飲み干す。
「ありがとう。サンジくんが作るのは何でもおいしいね」
「そりゃあ愛がトッピングされてるからね」

よくこんなセリフを恥ずかしげもなくいえるなぁといっそ感心すら覚える。
そんななごやかな会話の後ろではずっとルフィたちの歓びが聞こえている。
「もう島につきそうなの?」
「いや、明日か明後日には着くみたいだけど。あいつらがただはしゃいでるだけ」
「あたしも夏島の近くの海域に入ると、なんだかわくわくするよ」

いつも黒いスーツのサンジくんは暑くないのかな?
気になることは何でも知りたがる性格だから、サンジくんは暑くないの?と聞くと、

「もう慣れちまったな。ずっとこんな格好だしな」
「そういえば、たまーに上着脱ぐくらいしかしないよねぇ」
「レディの前では常に完璧でいなきゃな」
ふんふんと納得していると、ドタドタと数人の足音がして、バンッ!とドアが開いた。

「ハル!夏島ついたぞっ!!」
「ルフィてっめぇ!レディの部屋にノックもなしに入んじゃねぇって言ってんだろ!!それにまだ夏島に着いたわけじゃねぇっ!」

くるくる眉毛をきゅっと上げながら、さっきとは対照的にサンジくんは大声を出す。
「だって暑いぞぉ?」
「暑いからって夏島なわけじゃねぇぞ?」
ルフィのボケにウソップがツッコんで、チョッパーがトコトコとあたしの横にやってくる。

「ハル!一緒に釣りしよう!オレさっきこぉーんなでっかい魚釣ったんだぞ!」
「えっ、すごぉい!あたしにもそんなおっきいの釣れるかな?」
ハルちゃんが海に落ちたらどうするんだ、と過保護に心配するサンジくんをよそに、ルフィたちはあたしをベッドから引っ張りだす。
「ちょっと待ってよ〜!あたしまだパジャマなんだから」

すぐに行くからと苦笑して、男の子たちと別れた。
予告通り手早く着替えを済ませて陽射しがいくぶんか強くなった空の下に出た。

「わぁー、思ったより暑いなぁ!日焼け止め塗ろうかな〜」
独り言みたく呟くと、こんなことには耳ざといサンジくんが目をハートにしてやってきた。
「オレが塗って差し上げようかレディ?」
けっこう露出した服を着ていたので、背中だけお願いすることにした。

サンジくんが顔をでれでれさせながら日焼け止めを塗ってくれた後、あたしはルフィたちと約束通り釣りをした。
あたしの力なんかじゃビクともしなかった魚も、ルフィがゴムゴムの技を使って気絶させてくれて、チョッパーとウソップが引き上げるのを手伝ってくれたから、どうにか釣れた。

「おっっっっきぃ……!」
「ごれ魚じゃなぐで、がいぶづだ……!」
半泣きのチョッパーとウソップ。
「サーンジー!!今日の昼飯だぁ!」
お腹が空いてるらしいルフィが船の甲板くらいありそうな魚を捌いてもらうために、サンジくんを呼んだ。

「昼飯はさっきてめーらが釣ったので十分だっ!」
さっきもこれよりひとまわり小さいくらいの魚が釣れたらしく、もうそれは捌いてしまったようだ。
「がいぶづ……!」
ウソップはおそるおそる魚をつついて、チョッパーはまだガタガタ震えてる。


「んだよー。せっかくハルがこんなカイブツ釣ったのによー」
「ハルちゃんがっ!?」
ルフィの言葉に驚きを隠せないサンジくんがあたしを凝視する。
「うん、みんなに手伝ってもらったんだけどね?竿はあたしのだったから」

サンジくんを驚かせることができて、えへへと笑ってしまう。

「ケガしてないか?どこか打ったりしてない?」
気遣ってくれるサンジくんに何ともないと返した。


「サンジくん、これ捌いてくれないかな?あたし頑張って釣ったから!」
「今すぐ!」
ハートマークを飛び散らかしてサンジくんはあんなおっきな魚をものの20分で捌き終えてしまった。

昼近くだったということもあって、あたしが釣った魚はすぐに調理された。
ソテーや包み焼きの香ばしい匂いにぐぅとお腹が鳴る。


早くもいただきますをしたルフィと、負けじと食い意地を張るゾロ。
あたしも新鮮な魚を頬張った。
あんな姿してた割にはとてもおいしかった。

サンジくんが皿洗いをしてる後ろで、あたしは机に突っ伏していた。
「う〜、ルフィたちと張り合ってたら食べ過ぎた……」

普段ならば手伝いを進んでやるものの、食べ過ぎで動くのが億劫になってしまった。

「あいつらの腹は異常なんだぜ?ルフィなんて体型まるっきり変わるしな」
まん丸の風船みたいなルフィをさっき目の当たりにしたあたしは、さすがにギブアップした。

「ほんと、胃もゴムなんだね」
さすがは我らがキャプテンだ。

感心しながらも、う〜う〜唸っていたらサンジくんがひょいっとあたしを抱き上げた。

「ぅえっ!?サンジくん!?えっ、なに?」
ただひたすら混乱するあたしを抱きかかえながら、サンジくんは軽々と船尾に移動した。
そして組まれていたロックチェアに静かに降ろされ、パラソルを立ててもらった。

「そ、そんなことしなくたっていいのに……もう」
「ハルちゃんの美しい肌をもう焼かせるわけにはいかないからさ」
パチリとウィンクされて、はにかんでしまった。


「じゃあ、サンジくんもお隣にどうぞ」
サンジくんが女の子のお誘いを断るはずがないと知って呼び掛けると、案の定ハートマークの目で超特急でロックチェアを組んだ。

「ん〜、やっぱいいねぇ。気持ちいいよ」
潮の香りが落ち着くようになったってことは、あたしもようやく海賊に慣れてきたってことかな?

そんな他愛ない会話を二言三言交わすと、突然ぶわぁっと肌に心地よい風。
「涼しい〜!」
「クソ気持ち良かったな」

「あ、ねぇサンジくん。「極東」って呼ばれてるずーっっと東にある国知ってる?」
「ゴクトー?聞いたことねぇな」
「イーストブルーよりもっともーっと東にあるんだって。その国は海に囲まれた美しい国らしいの」

文献で読んだことのある内容をそのままそらんじた。

「その国の言葉でね、「薫風」っていう言葉があるんだけど」
「クンプウ?何か格闘技と関係あるかい?」
「あはは!違うよ〜。その国には4つの季節があって、夏島みたいに暑くなる時期があるの」
ふんふんと興味深げに聞いてくれると話しがいがある。
あたしは調子に乗って話を進めた。

「夏島みたいに暑くなる少し前に、さっきみたいな心地よい風がよく吹くんだって。それが薫風っていう言葉なの。きれいでしょ?」
似たような言葉で、青嵐っていう言葉もあるのよ。
そんなプチ知識まで添えると、サンジくんは目を細めて頷いた。


「言葉にきれいもなにもないと思ってたけど、確かにきれいな響きだ」
耳までもがその風にさらされたように心地よく感じる。
そんな言葉だな、とサンジくんはもらした。



「うん、あたしその国の言葉大好きなのよ」
「惹かれる気持ちもよくわかるよ」

賛同者を得られたことで満足したあたしは、満面の笑みでサンジくんに顔を向けた。

「話を聞いてくれた人がサンジくんでほんっとによかった……」
ルフィたちならその国自体に興味を示すだろうし(いいことだとは思うけどね)、美味いのか!?くらいは期待を裏切らずに言ってくれるだろう。

そんなやりとりも悪くはないけど、今はただ素直に感動してほしかったから。
サンジくんと話せて本当によかったと思う。

「ありがとね、サンジくん!」
「オレの方こそ、興味深い話を聞かせてもらって感謝してるさ」
ハルちゃんは物知りで勉強家だからすごい、とついには誉められてしまった。

「またそんな面白い話があったらぜひ聞かせてくれるかい?」
「もっちろん!一番に教えるよ」
さわやかなそよ風に撫でられながら、甘い空気を乗せた船は着実に夏島に近づいていた。


(あなたとこんなすてきなおはなしができるなんて)
(ゆめにもおもわなかったさ)
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