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長い長い帰り道。
眠たげな楓が長い足ですたすたと歩いている。
あたしはその速さについていくので精一杯で、少し息を切らしていた。

だから、必然的に話もなくなりかけている。(それはまあ楓が眠いというのもある)
小走りになりつつある歩調でもようやく楓に追い付いて、あたしはドキドキしながらその速度を保っていた。
もしあたしが立ち止まってしまっても、楓は気付かずいってしまいそうだったから。
だからあたしは必死に横に並んだ。

「かっ、楓!……まって」
一生懸命に歩いていたあたしも、さすがに運動部員にはついていけない。
あたしの懇願を聞いていた楓は、くるりと後ろを向いてあたしを見た。
「も、ちょっとゆっくり歩いてもらってもいいかな……?」

おせーんだよ、とでも言われるかと思ったら意外にも素直におうと言われて歩調をゆるめてくれた。
「あ、ありがと」
このくらいならついていけると安心したのも束の間、楓はまた寝ぼけて歩いているのか差が開いてしまった。
2度も同じことを言うのは気が引けてしまって、次第にあたしたちにはさっきより距離ができた。


あたしってちゃんと楓の彼女なのかな、なんてらしくもないため息。
彼女より眠気かこのやろー。

そんな悪態を心のなかで吐きながら前を見ると、楓がいなくなってた。
いつもの曲がり角をもう曲がってしまったらしい。
自然に足が地面を蹴って走った。
すぐに角を曲がると目の前に巨体が現れて、あたしは急には止まれずに思いきりぶつかった。
「ぅわぷっ!」
変な声が一瞬響き渡った。
「おい」
「え?あ、なんだ楓かぁ。曲がったらいきなりいたからぶつかっちゃったよ」
ぶつかった鼻をさすりながらそう笑い飛ばす。

「いつのまに消えた?」
「消えたっていうか、あたしが遅かったというか楓が速かったというか……」
モゴモゴと口の中でごまかすあたしを楓は見続けている。
「ほっほら、あたし足短いじゃない?それに楓は足長いから、だからどうしても離れちゃうんだよ」
もうちょっと速く歩くね、そう付け加えて踏み出すと、楓に腕を捕られた。


「か、楓?」
「こーすれば、いい」
そして歩き始めた楓にひっぱられるままついていく。
ひっぱられながら歩くと、確かにゆっくりになった。
あたしの歩調にちゃんと合わせようとしてくれてる。
バスケットボールを片手でつかめちゃう大きな手が、あたしの腕を包んでいる。

「あ、ありがと」
できれば手をつなぎたかったと思ったけど、楓の好意を台無しにしたくなかったからそのままでいた。
相変わらず多くなかった会話も、その分触れた部分の温かさを感じられて嬉しい。

「あ」
そんな幸せに浸っている間にすぐ自分の家に着いてしまった。
「今日はなんか早かったね、着くの」
「おう」
「あ、のさ……また、こうやって帰りたいね」
この言葉の意図を汲み取ってもらうのはまだハードルが高いかな?


「明日は、手ぇつなぐ」
「えっ?」
「つなぐから。あけとけ」
ぶっきらぼうな言葉に愛しさが募る。
「ん、あけとく」

じんわりと温くなる胸を嬉しく思いながら、バイバイと手を振った。
普段なら視線だけ寄越すのに、今日は手をちょっとだけあげて返してくれた。

「……っ楓!だいすきー!」
ご近所さんのことなんかお構い無しに叫ぶと、楓はぼそっと「うるせー」と言って相変わらずの早足で帰っていった。
明日はあたしの方から繋いで、楓を驚かせてみようと思った。


(強引にやさしく手を引く姿が、)
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