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桜木くんはかっこいい。
みんなはバカだバカだっていうけど、ずるがしこくて嫌味なヤツより全然ましだと思う。

それに桜木くんはやさしい。
みんなはいつも怖いっていうけど、そんなことはない。

あたしが階段から落ちそうになった時には助けてくれたし!
この前なんか日直の時に背が小さいあたしの代わりに黒板消してくれた。



そう、あたしは桜木くんが大好き。
だから先週、あたしはとうとう半年分の想いを桜木くんに告げた。
あたしの言葉に桜木くんは目を白黒させて、ゆでダコみたいに真っ赤になった。
桜木くんの赤い髪の毛みたいに真っ赤にね。


そうしてかなりあたふたしてから、意を決したようにしっかり頷いてくれた。
それが嬉しくて嬉しくて、あたしの目から泪がどんどん溢れてきちゃった。

突然の号泣に桜木くんはもっとおろおろして、どうしたんですか、どこか痛いんですか?なんて的外れなことを言ったんだ。


『ちがうの。嬉しくて……』
ごめんね、と泪を拭きながら謝った。
そうしたら桜木くんはおっきな手で、あたしの頭をポンポンと優しく撫でてくれた。
(半分おっかなびっくりだったと思う)

『な、泣かないでください!この天才がついてますから!』
照れ隠しにかおっきな声で笑う桜木くんにつられて、あたしも笑った。
そうしてあたしたちは晴れて付き合うことになった。



「春さん、おはようございます!」
「おはよう、桜木くん。今日も朝練あったの?」
他愛ない会話すら楽しくて嬉しい。

付き合い始めの頃は桜木くんの態度がとてもギクシャクしたものだったけど、最近やっと普通に話してくれるようになった。

あたしと桜木くんが付き合っていることは学校中に知れ渡っている。
桜木くんはバスケットとちょっとやんちゃなことで有名だからだ。
それに、水戸くんや桜木軍団のみんなから聞いたところ、中学時代は女の子に振られまくりだったらしい。

みんな桜木の魅力がどうしてわからないんだろう?
こんなに優しくて元気でいい人なのに。
喧嘩は良くないと思うけど、きっと桜木くんたちからけしかけた喧嘩なんてないんだと思う。
桜木くんを良く思わない人たちの逆恨みってやつなんだ。


「もちろん!天才にも練習は必要ですから!」
「ふふ、そうだよね」
そうやって桜木くんと話していたら、始業1分前に水戸くんも教室に来た。


「よーへー!はよ!」
「おう、はよ。春ちゃんも、おはよう」
「おはよう、水戸くん」
今日も遅刻しなかったね!と言うと水戸くんはハハッとさわやかに笑った。
「花道が来てんのにオレが遅れるわけにはいかないだろ」


あたしと付き合う前は、万年遅刻坊主だった桜木くんだけど。
そういえばいつだったか、お昼ちょっと前に学校に来た桜木くんに、水戸くんが何で今ごろと聞いていた。
(あたしはこっそり隣で聞いてたんだけどね)

そうしたら、ラーメン屋でラーメン食べてたら遅くなったと、あっけらかんと言い放った桜木くんにあたしは心の中で爆笑したのだった。

でも進級が危うくなったら大変だろうと思って、遅刻はあんまりよくないよとたしなめた。
その次の日から、桜木くんは毎日遅れずに来てくれるようになった。
それだけあたしの言葉を大事にしてくれてるってことだよね?


そうして幸せな気分に浸りながら、午前の授業を乗り切った。
どうしても授業中に起きていることができないという桜木くんにいつか貸そうと、ノートをきれいに分かりやすくに取るようにした。
そうするだけで、退屈なはずの授業の時間がどんどん過ぎていくんだから、恋ってなんてすばらしいんだろう!

ぽわーんと想いを馳せていたら、桜木くんがおっきな声で、
「春さーん!メシ食いましょう!」
と机の前までやってきた。
「うん!今日も屋上で食べよ!」
お弁当箱を持ってそう提案すると、桜木くんも頷く。

「水戸くんたちはいいの?」
「購買行ってから来るらしいっス!」
じゃあ行こう、と二人仲良く屋上へ向かった。
屋上の扉をあけると、すぐに人影が見えた。
「あれ?あれは……」
流川くんだ。桜木くんとルーキー争いしてるって噂の彼。
横になってぐうぐう寝ちゃってる。
「ぬっ?ルカワーー!?春さん、ヤツを見てしまったらキツネになります!見ないでください!」
とたん、ぱっと視界が真っ暗になった。
わー、桜木くんの手ってやっぱり大きいなぁ。
ていうかやっぱ桜木くんって面白い。
流川くんはキツネじゃないし、あたしだってキツネにはならないだろう。
「おいキツネ!立ち去れ!」
あたしが笑いを噛み殺している間にも、桜木くんは対抗意識剥き出しで流川くんに突っ掛かる。
「さくらぎくーん。あたしは流川くんが居ても大丈夫だから、お昼食べよ!」
お腹すいちゃったよー。
そう言ったら桜木くんはすぐにぱっと手を離したけど、あたしにぴったりくっついて流川くんに見せないようにしていた。
(流川くん寝てるみたいなのにね)


あたしたちが端っこでお弁当を広げたらすぐに水戸くんたちも来た。
みんなが集まるともうお祭り騒ぎで、流川くん大丈夫かなーと思ったけど、
(だって、前に流川くんが寝るのを邪魔されて桜木くんを殴ったって噂あるし!ただの噂かもしれないけど!)
熟睡してるみたいだった。
スポーツマンの桜木くんはかなり食欲旺盛で、足りん〜〜!とか言いながらみんなのおかずを奪っていた。
「桜木くん、桜木くん。よかったらこれ食べて」
お弁当の蓋におかずをころころと置くと、桜木くんはいきなり謙虚になった。
「いいえっ!春さんのお弁当を奪うわけにはいきません!」
「大丈夫だよ、あたしのお母さん特製のお弁当だから!」
味は保証するよ!と笑顔でいうと水戸くんがぷっと吹き出した。
何かおかしいこといったかな?

「花道が食わないんならオレが食う!」
高宮くんがそう叫んで素早くお箸を滑らせた。
「くぉら高宮ッッ!春さんのお弁当を奪うんじゃねぇっ!」
高宮くんの動きより速く桜木くんが高宮くんに頭突きをかました。
ゴウンッとかなり大きくて鈍い音がしたかと思えば、高宮くんはおっきなたんこぶを付けて倒れてしまった。
立て続けにもう2回そんな音が聞こえて、何事かと思ったら今度は大楠くんと水戸くんまでたんこぶを作って倒れていた。
「「どうしてオレらまで……?」」
「また横から奪われねーためだ!!」
それはちょっと可哀想なような気が……。


桜木くんはキラキラした目でおかずの乗った蓋を持った。
「春さんのお母さまのお弁当……いただきますっっ!」
桜木くんは肉だんごをひとつ食べておもいっきり泣いた。
「美味いっス〜〜〜!春さんのお母さまは素晴らしいですね!」
「あはは、いちおう料理教室の先生だからね」
「そうなんですか!?美味いもん食い放題っすね!!」
だからあたしは料理へたっぴなんだよー、と苦笑しながらお弁当をつついた。
「春さんの手料理……」
ほわーん、と感慨に耽っている桜木くんに、失礼ながら提案してみた。

「もしよかったら、明日作ってこようか?お母さんに見ててもらえば大失敗はないと思うし」
ここでちょっと恋人としての株をあげなきゃね!
そんな計画を立てているあたしの横で桜木くんが、
「春さんのお弁当……」
とまたほわーん、としていた。
「ぜっ、ぜひお願いします!春さんのお弁当ならば美味いに決まってますから!」
「うん、頑張って作るね!何のおかずが好き?」
「何でも食えますよ!」
「じゃあ放課後の練習を頑張れるように、スタミナ弁当にしようかな?」
桜木くんの大喜びの表情に後押しされて、あたしも乗り気になった。
桜木くんたちと一緒におしゃべりできる昼休みは、当然に授業より短く感じる。
だけど同じ空間に居れるだけで授業も悪くないと思える。

「桜木くん!今日の練習、見に行ってもいい?」
教室に帰りがてら聞くと、桜木くんが嬉しげに頷いた。
(あたしたちはあんなに騒がしかったのに、流川くんはまだ寝ていた。そして桜木くんはまたあたしを流川くんからガードするように動いていた)

「もちろんっす!天才的なプレーをお見せします!」
楽しみだな!そう返せば桜木くんも楽しそうにハイ!と言ってくれた。

やっぱり桜木くんはやさしい。
元気で素直で、とっても面白いもん。
みんなそれを知らないだけ。

あたしだけでいいんだけどなぁ、なんて独占欲はまだまだしまっておこう。

(だってあたなはいつもあたしのとなりにいてくれるもの、こうしてかたをならべて)
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