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学校から帰る帰り道に、クラスメイトと猫を見つけた。
そのクラスメイトはよくよく見れば俺の隣の席の日高さんだった。
日高さんはその猫―……ニャンコ先生の喉を慣れた手つきで撫でている。

「先生はどこのうちの子なんだろうね?」
自問に似た言葉がニャンコ先生に投げかけられて、俺はびっくりする。
どうして先生の名前を知っているんだろうか?
俺は日高さんと話したことだってないし、だいいち人間が先生を見れるんだろうか?

先生もゴロゴロと喉を鳴らして日高さんに甘えていた。

「先生はいい子だねー。うちのにゃんこにも見習ってほしいなぁ」
あんなに慣れた手つきで先生を撫でていたのは、どうやら日高さんも猫を飼っているかららしい。
「日高さん」
日高さんに話しかけていた。
「……な、つめくん?」
日高さんは驚いたように俺を見て、それから笑った。

「夏目くんもこっちの方なの?」
「え、ああ……うん。日高さんも猫飼ってるの?」
「そうだよ。あたしは先生って呼んでるんだけどね〜」
「せんせい?」
初めてうちに来て名前を考えてる時にね、すごい偉そうに寝そべってたから「殿」って名前にしようとしたんだ。
でもお父さんが「先生」って勝手に呼んでる間に、先生って名前になっちゃったんだよね。
一度も話したことなんかない俺に日高さんは人懐っこく話してくれた。

「そうなんだ。この猫も先生って名前なんだ」
「えっ、そうなの?じゃあこの猫は夏目くんが飼ってる……?」
「まあ、そうなるかな……」
俺も先生の頭を撫でてやると、ぱっと歩いていってしまった。

「あっ」
「先生は自分勝手だから」
「猫ってそういうとこあるもんね」
妙に猫話に花が咲いてしまって、気付けばもう夕暮れだった。
そろそろ帰ろうと促して、一緒に帰った。

「夏目くんとは隣の席なのに話したことなかったね」
「そうだね……」
「夏目くんは授業中にいつも空見てるよね」
見てたのか、と内心驚きながらもそつのない言葉を返した。
空を見ているのはよく妖怪が飛んでたり、木に止まっていたりしているからだ。
何かしないかと思わず目で追ってしまうのも、見える人間の性じゃないだろうか。

「あたしも空見るの好きだなぁ。青色が好きっていうのもあるけど」
日高さんのイメージは話した前と後ではがらりと変わっていた。
意外にハツラツとしてるんだ。なのに物腰が柔らかくて―……。

「じゃあ、あたしこっちだから!」
「あっ、ああ……」
何かの答えにたどり着きそうな時、日高さんの声で遮られた。
「また明日ね!」
「うん。また明日」
ひらひらと手を振られてしまっては、こちらも振り返すしかなかった。
暮れなずむ先に日高さんが消えていって、俺は手を止めた。

「夏目」
いきなり先生の声が聞こえて、俺はかなり動揺した。
猫だったら耳としっぽがピンと立って毛は逆立っていただろう。
「せ、せんせい……」
「なーにをデレデレしてる」
「デレデレって……なんだよ」

手を下ろしてすたすたと歩いた。
「だいたい先生は帰ったんじゃなかったのか?」
「家にアヤカシが来てな。夏目を連れてこいとうるさいから逃げてきた」

はぁ、と溜息をついた。
アヤカシは前よりかは嫌いじゃなくなった。
けれどやっぱり自分は普通の人間とは違うんだと自覚させられた。

「あ、そういえば。普通の人間にも先生は見えるのか?」
「見えるぞ」
「そうなんだ……」
少しだけ期待した自分が情けなくて、早足に家に帰った。
明日はおはようと言ってくれるかな、そんな淡い期待を抱く感情は無意識。

(夏目くん!うちの先生の写真、見てみて?女の子なんだけど)
(可愛いね。うちの先生とは大違い……)

(きみのゆめまでみるようになってしまいました)
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