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水深1万メートルあたりで戦闘が起きたけれどどうにか退治して、クラーケンがサニー号を頭に乗せて人魚の居る場所まで連れて行ってくれた。
その最中、サンジくんがキッチンでお茶を用意してくれていた。
ナミとロビンの近くに居るのにも気が引けて、私はルフィにくっついて回っていた。
サンジくんにお茶の用意ができたと声を掛けられても、後で!と言うことしかできなかった。
しばらくしてからナミが、お茶が冷めちゃうわよ!と私を呼んだから仕方なくキッチンに向かう。
テーブルにはもう私の分のティーセットしかなくて、ナミとロビンは入れ違いで甲板に戻った。

「ようこそレディ。紅茶、冷めちまっただろ?新しく淹れ直すよ」
「ご、ごめんなさい……」
「このくらい大したことないさ。ハルちゃんには、最高に美味しい紅茶を飲んでもらいたいんだ」
「………」
サンジくんの温かい言葉にも、素直に喜べない。
だって、この言葉は私だけのものじゃないもん。ナミにもロビンにも、二年間で出会った女の子にも言っているはずだ。


「はい、どうぞ」
「……ありがと」
出された紅茶を受け取って、もごもごと謝辞を述べる。
ふんわりいい香りの紅茶を一口飲むと、少しだけ爽やかな気分になる。猫舌の私に気遣って、温度もぬるめにしてくれている。
二年も会っていなかったのに、覚えててくれたのだろうか。そうならば、泣きそうなほど嬉しいけれど。

「おいし」
無意識に呟いた言葉を耳敏く捉えたサンジくんは、破顔した。
「良かった。ハルちゃんのお口に合って」
「っ………」
私がソーサーにカップを置くと、サンジくんは対面式のキッチンから出てきて、私を後ろからそっと抱きしめた。
突然のことでパニックになった私は、硬直して拒絶することもできなかった。

「会えて死ぬほど嬉しい……。すっげぇ心配したんだぜ?いっそ一緒に飛ばされてたらハルちゃんをちゃんと守れてたのにって……イヤ、そりゃダメか」
二年間を思い出したのか、サンジくんはげっそりした声で否定した。
「(ハルちゃんがあんなオカマ野郎たちの餌食にならなくて済んだと思えば、ラッキーなのか……?)」
「あぁ、久しぶりのハルちゃんだ……。おれ、毎日ハルちゃんのことばっか考えてた。変な奴らに襲われてないかとか、ケガしてないかとか、ちゃんとメシ食ってんのかって……」
サンジくんの声は嘘をついているとは思えなかった。でも、サンジくんは女の子みんなにこう思ってるんだから。
「………、そ」
「ん?悪ィ、聞こえなか……ハル、ちゃん?」
後ろから私を覗き込んだサンジくんは、びっくりしていた。
理由は単純明快。私が泣いていたから。
「うそ……うそつき」
バッと私を離したサンジくんは、正面から私の肩を抱いて顔を見つめてきた。
「ハルちゃん、」
「嘘……!私のことばっかり考えてたなんて嘘!」
絞り出すように出た声がどれだけサンジくんを傷つけるかも知らずに、私は言葉のナイフをキラリと閃かせた。
「嘘じゃない。ハルちゃん、どうかしたのかい?さっきも様子がおかしかったし、何かあった―……」
「ナミやロビンみたいな子が好きなくせに……!私になんか、もう、」
「ハルちゃん、落ち着いてくれ。おれはハルちゃんの恋人だろ?ハルちゃんが一番大事だ」
「ナミみたいに可愛くてスタイル抜群で明るい子の方がいいに決まってる……!さっきだって、ナミのこといやらしい目で見てたくせに!鼻血出して倒れてたでしょ!わ、私なんか、どうせ、根暗だし可愛くないし、ずん胴だし……。二年間可愛い女の子に囲まれて、私なんか忘れてたでしょ……!」

自分で言って自分で傷ついている。これでは世話ないな、と胸の内で自嘲した。
「おれの女癖がハルちゃんを傷つけたんだったら、謝る。ごめんな」
謝らないで欲しかったよ。謝られたら、それを認められたら、私はもうサンジくんをなじることすらできなくなってしまう。
ああ、いよいよ捨てられた。そう、確信した。

「でもな、ハルちゃん。自分をそうやって貶める言葉は言わないでくんねェか。俺はサイテーな男だけど、ハルちゃんはちゃんと素敵なレディなんだからさ。マジメで不器用で照れ屋な性格ってだけで、根暗だなんて言わないでほしい。それに俺にはもったいねぇほど可愛いし、スタイルだって悪くねぇ。ハルちゃんを抱きしめる時、おれはいつもクソ幸せなんだ。そりゃ、ナミさんもロビンちゃんもそれぞれ素敵な部分がある。それでも、おれはハルちゃんの全部がどうしようもなく大好きなんだ。恋多き男を仕留めちまうほどの魅力があるんだから、私"なんか"って言わないでくれよ」
それだけはわかって欲しいと、サンジくんは穏やかな声で言った。
あしらうわけでもごまかすわけでもなく、サンジくんは私の言葉をきちんと受け止めて返してくれた。
ずっと昔、一味に入りたての私が自分に自信がなくて泣いていた夜も、こうして言葉を尽くして私を元気づけてくれた。

サンジくんの温かい手がじんわりと私の肩にしみこむ。
いつもみたいなおちゃらけた色はなく、真剣さが瞳に表れている。けれどそこには、確かに優しさと愛情がたゆたっていて。
涙で視界がぼやけていてほとんど見えないけれど、私にはわかった。

「泣かないでくれよ。涙でキラキラと光る瞳もとびきり美しいけど……。キミには笑顔の方が似合ってる」
そっと親指の腹で涙が拭われた。指では拭いきれない量の涙がボロボロとこぼれた。
「……ンジ、く……」
声が裏返ったことが恥ずかしくて俯くと、くいっと顔を上げられて、そっと唇が目元にふれた。
反射的に目を閉じると、ちゅ、ちゅ、と音がして最後には赤く腫れた目じりを舐められた。
反対側も同じようにされて、私は羞恥に耐えるしかなかった。

「涙は止まりましたか?プリンセス」
ニカッと何のわだかまりもない笑顔が眩しすぎて眩暈でも起こしそうだ。
フラリと揺れた身体をサンジくんが受け止めてくれたのをこれ幸いと、体重をかけて抱きついた。
サンジくんの胸板に顔を押しつけて、ごめんなさいと謝る。サンジくんは私を慰めるようによしよしと頭を撫でてくれた。

「ナミとロビンに嫉妬しただけなの……自分に自信がないからって、サンジくんに嫌われて浮気されたに違いないって思い込んで………。本当にごめんなさい」
「いや、ハルちゃんにそう思わせちまう行動をとってるおれが悪いんだ」
「こんな私だけど……まだ、サンジくんのこと好きでいて、いい……ですか?隣に居ても、いい……?」
またジワリと涙が出てきてしまう。泣く必要なんかないのに。答えはわかっているのに、それでも心の底にいつでもある小さな不安にいつも揺られてしまう。
「ハルちゃんこそ……こんな信用のなんねェおれでいいのかい」
「サンジくんじゃなきゃ、嫌……!」
「ルフィより?ハルちゃん、ルフィに一番懐いてるだろ。さっきもルフィと楽しそうに喋ってたし」
「ふぇ?ルフィは、大切な仲間で家族だよ」
「……わかってるんだ。でも、恋人のおれよりルフィに先にあんな可愛い笑顔見せんなって思ったんだ、正直」
「そ、それって………」
「ルフィはクルーのみんなをそういう目で見るわけがないってわかってんだけど、ハルちゃんのこととなると、おれ我慢きかなくなるみてェ」
ぎゅっと強く抱きしめられて、きゅんと胸が鳴る。

「やきもち、妬いてくれたの……?」
「いつおれに愛想つかして他の男どものこと好きになるかって、ヒヤヒヤしてた」
「そんな……!私は、サンジくんだけなのに、」
「あァ、ありがとう。おれも、ハルちゃんだけだ。クソ可愛いおれのお姫様。世界中の誰より愛してる」


取りこし苦労っていうのは、もしかしてこのことを言うんじゃないんだろうか。
お互いにお互いのことしか見えてないのに、周りの人に嫉妬して喧嘩して。
蓋を開けてみればなんの不安要素もないのに、二人して大騒ぎして。

「ふふっ」
「? どうかした?」
「ううん。……サンジくん、宇宙一愛してる」
「ハハッ、ハルちゃんには負けてばっかりだ」



そして私たちは、ついに二年ぶりにくちづけを交わしたのだった。

(サンジーーーー!人魚の島に着いたぞォ!)
(んぬわにぃっ!?ぬほぉ〜〜っ!!)
(………っ、サンジくんのばかぁっ!!嫌いっ!)
(ハルちゅわん……!ち、ちがうんだぁっ!)

(アホコック……)
(バカコック……)



>>>
サンジくんはいちゃいちゃしてる甘あまな話が似合うな!
というか、それしか書けないな!と思いました。
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