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・二年後設定

シャボンディ諸島について、ナミとウソップと再会した。
ウソップは何だか頼りがいのある男の人に見えるし、ナミは二年前より露出も高く、更に胸が大きくなっている。
魅惑のワガママボディとはまさしくナミの身体のことだなと半ば感心した。
これじゃあ、サンジくんがナミに会った途端メロメロになっちゃう。
私はといえば、少し背は伸びたものの、胸はほぼ成長していない。くびれはあると言えばあるし、ないと言えばない。
そして二年前と変わらず、露出なんかほとんどしていない。

もともと引っ込み思案で照れ屋な私が、麦わらの一味として存在することが奇跡だ。
ルフィの強引な勧誘がなかったら、のどかな故郷で賞金首として追われることなく一生を終えただろう。
それでも私は麦わらの一味で、そして、何がどうなったかサンジくんの恋人になった。
奥手な私をサンジくんは怖がらせないように優しく甘やかしてくれて、恋を知らない私にいろいろと教えてくれた大切な大切な人だ。
二年前にシャボンディ諸島で離ればなれになってしまった時はしばらく泣いて暮らしていたけれど、ルフィの記事を読んでからは私なりに自分を磨いたつもりだ。

それでも、やっぱりナミやロビンには勝てないな……。
長い時間を掛けてサンジくんが私の良い所を教えてくれたおかげでちょっとずつ自信が持てていたけれど、離れてからはまた自信がどこかへ行ってしまった。
元もとがネガティブな人間なのに、心の拠り所を失ってしまっては歩き出すこともできない。
こんな弱い人間じゃサンジくんに捨てられてしまうし皆にも迷惑をかけてしまうからとどうにか自分を奮い立たせて鍛錬をしたけれど、心にはポッカリと穴があいたままだ。
だからサンジくんに会って、前みたいに「大好きだよプリンセス」って言ってもらいたいと思っていた。
またサンジくんに笑いかけてもらいたい一心でここまでやってきた。

それでも、ナミに会って私は揺らいだ。
ナミみたいに可愛くてスタイルも良くて性格も明るい子はたくさんいる。
私みたいに全部が人並みで、根暗な子よりナミみたいな子の方がいいに決まってる。
サンジくんに「そんなことないよ、おれはハルちゃんをどのレディよりも愛してる」って言ってもらって自信をつけた過去はもう遠い昔だ。

だって、二年も経ってしまった。
サンジくんが浮ついた気持ちで私に愛の言葉を囁いてくれていたわけではないことはわかってる。
それでも、二年も恋人と会わなくて、しかも周りに魅力的な女の子が居れば、普通の男はフラッといってしまうと思うのだ。
ただでさえサンジくんは、過ぎるほどのフェミニストだ。敵でさえ女性を蹴らないほどの徹底ぶりなのだ。
ナミやロビンに鼻の下を伸ばしてラブハリケーンを起こしている自称騎士。
恋人には申し訳ないけれど、浮気はほぼ100%しているはずだ。

むしろ、私になんかメロリンしてくれないだろう。
会いたいけど、会いたくない。




相反する気持ちを抱えたまま、サニー号へと乗り込む。
そこには、懐かしい顔ぶれがあって、素直に再会を喜んだ。
ロビンもよりミステリアスな女性になっていて、大人っぽさは更に増して妖艶という言葉が似合っている。
対して私はちんちくりん。

はぁ、と再会と言う門出にはふさわしくないため息がこぼれた。
こんな醜い感情を持つ私は、この船に居ていいのだろうか。
ついにはそんなことまで考えていると、森が騒がしくなった。

走ってこちらへと向かっているのは、ルフィとゾロとサンジくん。
私が目で追ってしまうのは、もちろんただ一人、サンジくんだ。
ヒゲが生えている。それに、髪の分け目も変わっている。一段と垢抜けた気がして、胸がきゅっと痛くなった。
どうしよう、まだサンジくんと会うための心の準備ができていない。
じわりと再会できた喜びに胸が温かくなるのと同時に、サンジくんにどう接すればいいのかわからずに胸が締め付けられた。

と、とりあえずあまり目立たないように階段の影に隠れていよう。
そう決めた私は一目散に階段へと駆け出した。

ルフィ、ゾロ、サンジくんの三人が船に乗り込んだのを確認して、船が岸から離れる。
一気に甲板が騒がしくなって、私はこっそりとみんなを見つめた。

「んナミさぁ〜〜〜んっ!ぶはっ!」
案の定ラブハリケーンしたサンジくんは、セクシーなナミを見て豪快に鼻血を出して倒れた。
サンジくんが倒れたことは心配だけれど、やっぱりな、と諦めが先に立った。
恋人"だった"私より、一番に目についたセクシーダイナマイトな美女の方が良いよね。鼻血出して倒れちゃうくらいだもんね。


うん、いいんだ。わかってたから。
私が男だったら、私だってナミを選ぶよ。ミステリアスなロビンも捨てがたいよね。
どちらにせよ、私の出る幕は全くないってこと。

大丈夫。わかってたから。




わかってた……けど、どうしてかな。
息苦しいほど、胸が痛いよ。
目の奥がジンジンして、じわりと視界が歪む。
せっかくの再会に泣き顔は見せたくない。私は天を仰いで、涙が流れないように何度も瞬きを繰り返した。

あんな風にいきなりどこかに飛ばされて離ればなれになっちゃったから、この関係は宙ぶらりんだ。
けれど、友だちとして接していれば、勘の良いサンジくんのことだ。すぐに気付いて、距離を遠ざけてくれるはずだ。
こんなことまでサンジくん頼りな自分にあきれつつ、深呼吸して気持ちを落ち着かせた。

「大丈夫、大丈夫……」
「どうしたァ、ハル?」
「きゃっ!ル、ルフィ!」
「ししっ、驚いたか?」
いつの間にか隣に居たルフィが楽しそうに笑って、私もつい吹き出した。
「ふふっ、びっくりした」
ルフィは相変わらず太陽みたいに元気で明るい。そんなルフィの人柄はやっぱり好きだな。
私とは次元が違いすぎて、嫉妬どころか尊敬さえしている。
私が麦わら一味に入ってからルフィとは一番に打ち解けたからか、引っ込み思案な私でも笑うことができた。

「久しぶりだね」
「おう!」
「ルフィとみんなとまた会えて、その……嬉しいな」
「だなっ!また一緒に旅できるんだ、わくわくすんな!」
「うん。今日がずっと楽しみだったから、みんなの顔をみてホッとした。なんだか、家に帰ってきたみたいな気がして」
えへへと照れると、おれ達は仲間で家族だからな!と心強い返事をくれた。
ルフィと一緒に居ると、私まで勇気が貰えるんだ。




その後、ルフィと甲板の中央に戻ってみんなの輪の中に入った。
なぜか女の子に耐性がなくなっているサンジくんが、ナミとロビンを見て何度か鼻血を出しているのを見て胸が痛くなった。
それでも、さっきのルフィの言葉を思い出すと少し胸がすいた思いがする。
私の居場所はサンジくんの隣だけじゃなくていいんだって思えたから。サンジくんの隣に居ることができなくても、ルフィとは家族であり仲間だ。



水深が深くなったところで、ナミが上着を着た。
そのおかげかサンジくんは気絶することもなくなり、私を気にする余裕もできたみたいで、私に話しかけてくれた。
「ハルちゃん、久しぶり」
「……うん。久しぶり。その……元気、だった?」
「はは、ご心配には及ばねぇよ。それより、どうしてさっき階段の裏に居たんだ?」
「えっ?」
ナミにメロリンして鼻血出してたから気付いていなかったと思ったのに、サンジくんはやはり侮れない。
ど、どうしよう。口下手な私が上手い言い訳を思いつくはずもないし……。

「えーーーっと、その、わ、わかんないっ」
「え?」
「ああーっそうだ、る、るるるルフィ!すすすすごい海王類居たっ!?」
「おー!すんげぇのがいっぱい居るぞぉ!」
「うそーっ、ど、どこどこぉ?」
棒読みで無理やりルフィのもとへ逃げる私。怖くてサンジくんの顔は見ることができない。
今のはちょっと、強引すぎたかな……っていうか、理由聞かれてわかんないって……。意味わかんないよね……。




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