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今日も平和なメリー号。だけどウソップはメリー号の修復に大忙しだった。
早く整備士が欲しいなんていいながらも、自らきっちりと修理するウソップは本当にメリーが好きなんだと思う。
普段は戦いに参加しないあたしは、お手伝いくらいしかできない。だから、あたしも一生懸命働く。


「ハルちゃん、おやつできたぜ。クッキー焼いたから、食べにおいで」
「食べるー!」
焼きたてのクッキーを数枚持って来てくれたサンジくんは、あたしの手にクッキーを乗せようとしてくれた。
だけど、メリーの修理中だったあたしの手は汚れていて。

「あ、あたしの手汚れてる。あーん」
サンジくんから直接もらえばいいやと楽観的に考えて、口を開ける。
サンジくん(そこにいたウソップも)は、ポカンと呆けていた。

「あーん」
早く欲しいと催促すると、サンジくんは苦笑いしてクッキーをぽいと口に入れてくれた。
「ん!おいし〜、さすがサンジくん!」
まだほんのり温かいサクサクのクッキーはじんわりとしみて、思わず笑みがこぼれる。


ウソップもサンジくんも何か言いたげだったけれど、あたしはもっとクッキーが食べたくて、二人を食卓へと促した。



「あ、タオル忘れて来ちゃった。取ってくるね」
「ミルクティーを淹れておくよ」
「ありがと!」


タオルの置いてあるマストまで行こうとする最中、階段を踏み外してよろけてしまった。
「っ……!」
数段ずり落ちたけれど、手すりに捕まったおかげで下まで落ちる事態は免れた。
「あ……ぶなかったぁ……!」

一応あたりを確認してみたけど、、何ともなかった。
最近メリーはボロボロで、なにかの拍子に壊れてしまうこともある。
あぁ、よかった。
ほっとひと息ついて、次の段を慎重に降りようとしたら、足に鈍い痛みが走った。
「っ……!」
痛みをどうにか噛みしめる。どうやら足を挫いたみたいだ。
そういえば、ぐきっと身体の中で音がしたかもしれない。

「い、たぁ……」
立とうにも痛みが鋭くて力が抜けてしまう。
「サン、」
サンジくんの名前を呼びそうになって、だけどサンジくんに話したら事が大きくなりそうだと、言葉を飲み込んだ。
それにサンジくんに余計な心配をかけたくないしね。
少しひねったくらいだから、1日放っておけば治るだろう。

深呼吸して足と腕に力を入れて立ち上がると、後ろからチョッパーの声。
「ハル、大丈夫かっ!?」

チョッパーに見られていたのか、チョッパーは大きな声であたしを呼んだ。
「しーっ!ちょっと階段を踏み外しただけだから、へいき!気にしないで」
何とか言ってるチョッパーを抱きかかえて、タオルを取って食卓に戻った。



そこで美味しいクッキーとミルクティーを堪能して、とっても幸せだった。
「サンジくんは天才コックだよ……美味しいのしか食べたことない」
「はは、お褒めに与り光栄です。あぁ、因みに明日は何が食べたい?」
「苺たっぷりのタルトとかはどう?あたし大好き」
「りょーかい」

やったー!と小躍りしているあたしを、サンジくんはタバコに火をつけながら目を細めて見ていた。

小休憩を挟んでからまたウソップを手伝おうとしたら、もうすぐ終わるから手伝いはいらないと聞き、読み途中だった本を読みに自室に戻った。


それからはいつものように、夕食の後お風呂に入ってすぐに寝た。
次の朝、久しぶりにナミに起こされたあたしは、洋服に着替えようとベッドから這い出た。
「いっ……!」
「ハル?……なんだ、足滑らせたの?鈍くさいわねぇ」
あたしがベッド際で転げたのを見て、ナミは心配そうな呆れた声を出した。
「うん……」
力の入らなかった足をさすると、激しく痛んだ。
どうやら昨日の捻挫が悪化してしまったらしい。

まずいことになっちゃった……。
こんなことなら昨日寝る前に、チョッパーに湿布もらって貼っておけばよかった。
けどそんな後悔も後の祭りだ。
立ち上がらない僕を訝しんだナミが、近寄ってきて声を上げた。

「……ハル!どうしたのその足!」
足を隠す前に強引に引っ張られ、あたしは痛くてうめき声をあげた。
「こんな腫れてるじゃない!今、落ちたからなわけないわよね!?」
「痛いから触らないで……」


ここまで悪化してるとなると、チョッパーを頼らざるを得ない。
ロビンにお願いして秘密で湿布を取ってきてもらうように頼もう。
「ロビン、お願いなんだけどー……」
「ハルちゃん、ナミさん、ロビンちゃん!起きたかい?もう朝食が出来上がってるぜ」

タイミングが悪い時は重なるものだ。
サンジくんが、いつもの時間を過ぎても来ないあたしたちを心配して、様子を見に来てくれた。
ナミはあたしの言葉も聞かず、ぱっとドアを開けると、サンジくんの顔が面白いほど変化していった。

「ハルちゃん!?どうしたんだ、その足!」
はぁ、と重いため息を吐いて腹を括った。
わざわざ言い訳するのも面倒だ。どうせ問い詰められたら、本当のことを言ってしまうんだから。

サンジくんが見事な早さで朝食中のチョッパーを呼んで、手当てをしてもらった。
骨が折れてるかもしれないだの、色がやばすぎるだのチョッパーに文句(?)を言っていた。
こんなの適当に湿布を貼っておけば良いだけなのにね。
これだから過保護な恋人は困る。

結局チョッパーはただの捻挫だといって、鎮痛剤と湿布を施して朝食を食べに帰っていった。
ついでにナミもロビンもとっくの昔にいない。
今は焼きたてのふわふわクロワッサンでも優雅に食べてるんだろう。


「……で、いつのまにこんな大ケガを?」
「(大げさに包帯なんか巻くから、大ケガに見えるだけなのに)」
「聞いてるか?ハルちゃん」
「怒らないでよ」
「怒ってないけど」
「怒ってる」

あたしが冷静にいうからサンジくんは口をつぐんだけど、不満げな顔がありありと浮かんでいる。

「怒ってないけど、なんつーか……ムカついてる」
自分に言い聞かせるように、静かに呟いたサンジくんは、あたしを悲しそうに見つめた。
「何でオレに言ってくれなかったんだ?」
「……サンジくんに余計な心配かけたくなかったから。あたしだけ戦ったりできないのに、足手まといになりたくないでしょ?」

ぴくりとサンジくんの独特な眉が動く。
「いつどこでどうして、最初から最後までちゃんと言わないと許さない」
真剣なサンジくんは、傷ついた顔をした。
足手まとい、という言葉が気に食わなかったんだろうな、と簡単に予想がつく。

許さないだなんて言われても、と途方に暮れた。

「……はいはい、降参」
そうして、せっかくあたしがかくかくしかじかと簡潔に述べたというのに、サンジくんはまた根掘り葉掘り聞いてくる。
(こーゆーサンジくんはうざい)


「捻挫っていうのは捻ってすぐは痛くなんないもんなんだ!ケガして放置なんて絶対もうしちゃダメだ、いいね?」
「……そうなの?」
はてそんなものだったろうかと小首を傾げると、サンジくんがこの部屋の全てを吹き飛ばすような、それはそれはもうおっきなため息を吐いた。

「ハルちゃんは天然なとこあるよな」
「ルフィより天然で破天荒じゃないよ」
「ケガ人は口を挟まない」
「大げさに巻かれてるだけ」
「じゃあケガ禁止」
どうしても許す気がないらしい金髪の恋人は、あたしををねめつけている。

「もうケガしちゃったんだからしょーがないじゃん」
「だから注意しろって!」
「わかったってば。……自己嫌悪とかあたしが一番してるんだから」
「は?」
「サンジくんにあんな顔させたくないし、心配させたくない。だから何も言わなかったのに、無神経すぎ」
あたしの赤黒く腫れた足を見た瞬間のサンジくんの表情を思い出す。
「そ……んなの、勝手すぎだろ」
サンジくんがしゅんと俯く。
「うん、ごめんね」
すかさず謝ると、拗ねた目があたしを射抜く。
ダメかな?と危ぶむけど、サンジくんの言葉は意外なものだった。

「ハルちゃんの気遣いは嬉しくないけどありがたいから、今回は許す」
サンジくんの大人?な対応にあたしは目を丸くした。
その代わり、とサンジくんは強い視線であたしを見つめる。


「次からケガをしたら一番にオレに言うこと!チョッパーにオイシイ役取られるわけにはいかないからな。それと金輪際、オレ以外に助けを求めるのはダメだ。支えてもらうのもナシだし、おんぶに抱っこは問題外」

後はどうしようかと思案するサンジくんに、今度は目を点にした。
「ちょ……サンジくん?」
「指切りな、はい」
ゆーびきーりげーんまん、とお馴染みのフレーズが耳を通り過ぎる。

「サンジくんってば!横暴ー……」
「あ、因みに破ったり反抗したら、否応なしに罰ゲームな」
語尾にハートでもつきそうなほど上機嫌な声で告げられた。
いや、目は全く笑ってない。


こんな形でブチギレなくても、と思いながらも
「もう指切りしたよな、ハルちゃん?」
と言われたあたしは、サンジくをが本気だからこそひとつの文句も言わずに頷いたのだった。


(もし破ったらハルちゃんにどんなステキな罰ゲームをさせようか)
(どうしてあたしがこんな目に遭わなきゃなんないの……)


>>>
最後だけ意味深にギャグテイストという(^O^)
サンジくんのキャラと違いすぎですね(笑)
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