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「ねぇ、サンジくん」
「何だいハルちゃん」
「サンジくんはどういう時に、この子好きだなぁ、と思うの?」
3時のおやつを作っている途中、オレの(密かな)意中の相手がそんな相談を持ちかけてきた。
オレは動揺をおくびにも出さず、そうだなぁと考えるフリをした。
な、なんだ!?ハルちゃんに好きなヤツが!?
まさか……オ、オレか?
いや、自分に恋する女の子の目はひと目ですぐわかる。
恥じらいを含んで潤む瞳や紅く染まる頬で、簡単に見抜けるから。
でもハルちゃんにはそんな空気や様子は一切なく、誰にも心奪われている心配もいまの今までなかった。
だからこそオレも安心して、優しいコックでいることに甘んじていたわけだ。
オレでないのなら、他の男を気にかけてるってことだ。
ここは消去法でいくか……。
あのクソマリモ野郎か?
いやいや、可能性ゼロだろ。あんな無愛想で万年寝太郎に魅力なんかこれっぽっちもない。
ならルフィ?
ハルちゃんはいつも、ルフィは子どもっぽいんだからと言っていたし、姉のような心境だろう。食欲魔人だしな。うん、ないない。
かなり納得いかねぇが、ウソップか?
あんな長っぱなに惚れるくらいなら、オレが1日でオトせるに決まってる。
あんなビビりにハルちゃんを任せられるか。
ならば、もしや……。
他の誰よりも可能性がないはずの(あったら困る)、あいつの姿が目に浮かぶ……。
意表を突いて、チョッパーってわきゃないだろ!?
あれ、恋愛感情っていう前に人間じゃねぇし。巨大化するし。
はっ!と、オレはここで大事なことに気づいてしまう。
ハルちゃんはチョッパーを抱きしめるの大好きだ!
毛がふわふわもこもこしていて最高だなんて、緩みきった顔で言ってたな。
い、いやそりゃないだろ……!
だがしかし、本来は恋愛対象になり得ないチョッパーに恋してるからこそ、ハルちゃんは悩んでんのかもしれねェ。
時間にして僅か20秒で今までの内容を考えていたオレは、ふぅと息を吐いた。
「あ、えーとまず……」
アドバイスをしようにも、ハルちゃんが誰を好きなのかが気になって考えが散らばる。
「ハルちゃんは、自分が恋してるって思ってるのかい?」
平静を保ちながら訊ねた自分を褒めてやりたいぜ。
「うーん……わかんない。だから、サンジくんに聞こうかなって」
そりゃあごもっともだと頷いて、愛しい人の為に頭をフル回転させた。
どんな時に愛しいと思うか、か……。
「えーっとだな。一緒に居るとくすぐったくなるくらい嬉しくて、寝る前とかふとした時に気づけば考えてるな。その子だけを大切にしたくて甘やかしたくて、オレだけ見てりゃあいいのにって思う」
あくまでこれはオレの経験だから、と一応断っておいた。
「あと、すげぇ美味そうにオレのメシを食ってくれる時かな」
気づいたらいいな、気づいてくれと願って目を伏せる。
「あ、そういやハルちゃんも美味そうに食ってくれるよな」
少しでも、友情ほどでもいいから、オレの好意が伝わっているといい。
まぁ、そんな淡い期待は見事に打ち砕かれたわけだが。
「サンジくんの料理は飽きないくらい美味しいんだから、当たり前じゃん!だからサンジくんは女の子みんなを好きなんだねぇ」
納得、と勝手に自己完結されてしまった。
予想と180度反対の展開に頭を悩ませる。
この子はこんなに鈍かっただろうかと落胆する。
「はは、冗談はさておき、オレのさっきの説明でわかったかい?」
「気づいたら考えてる、ってのはすごいわかる。あたしだけ見て欲しいっていうのも」
つまり、ハルちゃんの好きなヤツは誰か違う女の子に心寄せてるということか。
(オレの)ハルちゃんの心を奪っておきながら、なんて贅沢なヤツだ。
誰だかわかんねぇから、いっそ男ども全員に少量の毒でも盛るか、と不穏なことを考えた。
「なら、その人とよく目が合ったり、なんだかちょこっと他の子より優しくされてるかもって思ったら、脈ありかな?」
……オレだってそいつに負けないくらいハルちゃんを見つめて優しくしてんのになァ。
「あぁ、経験からいくと90%くらいは当てはまるな、うん」
オレが余裕を装って絞り出した言葉に、にっこりと品のいい笑顔でありがとうと言った。
「なんだか、告白する勇気がわいてきた!」
「お役に立てて光栄です、レディ」
「今日のおやつはなぁに?」
「今日はふわふわのホットケーキ」
「わぁ、美味しそう!サンジくんのおやつって本当に美味しくて、大好き!」
にこにこ罪のない言葉に、オレがどんなに苦しんでいるか。
その「大好き」をオレ自身にぶつけてくれ。
そんなふうにひたすら願いながら、いつもより張り切って焼いたホットケーキは最高の出来映えだった。
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たまにはサンジくんも気づかないといいな!ちゃんと両思いですよ!
ギャグちっくからいきなり切ない感じに……!
ホットケーキ食べたいです(*´д`*)
サンジくんは食べ物の描写ばかりになっちゃいますね(苦笑)