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□WJ
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友達に誘われて、興味もないバスケ部の見学をさせられた。
30分くらいで帰るからねと何度も念を押して、流川親衛隊を横目に練習を見学した。


そこであたしは出会ってしまったんです!
あたしの王子様に!

ミニゲームの最中におじゃまして、なかなか熱戦だったらしい試合で、ふとボールを持った人に目を奪われた。
素人のあたしでもきれいだと思うくらいに、その人から放たれたボールは、正確な弧を描いてリングに沈んだ。


瞬間、あまりの美しさに鳥肌が立った。
よしっ、と軽くガッツポーズをしたその人から目が離せない。

あとで友達が三井寿先輩っていうんだよ、と教えてくれた。


それからは毎日、友達と一緒に練習を見に行った。
でも、ほんと今日はやばい!

「ちょ!まじでやばい!かっこいい!」
普段は髪の毛をつんつん立ててる三井先輩が、今日は髪を下ろしてタオルを頭に巻いていた。

やっばい!まじでかっこいい!
「先輩かっこよすぎる〜」
「泣くな泣くな」
「だっていつもより爽やかなんだもーん!」


もう三井先輩っていうか王子様だよねあれは!
きゃあきゃあと二人で騒いでいると、マネージャーの彩子さんが手招きをした。
友達が彩子さんの後輩だったから、あたしも彩子さんとは面識があった。


「二人ともこれ食べていって。2年がおみやげにって持ってきてくれたから」
「もう部員のみなさんは召し上がったんですか?」
「まんじゅうだからね。甘い甘い言いながらドリンク飲んでるわよ」

彩子さんのお言葉に甘えて、おまんじゅうを頬張る。
「おいしーです!」
「抹茶欲しくなりますねぇ」
「春ちゃんシブいわね」
「抹茶と和菓子は最強ですって!」
美味しいんですよー!と力説していると、あたしの後ろにいきなり大きな人影ができた。

「彩子、何食ってんだ」
「えっ、三井先輩食べてなかったんですか?おまんじゅう」
「おい、初耳だぞそれ!」
そんな先輩たちのやりとりに、あたしは緊張MAXだった。
だってだって、憧れの三井先輩がこんな近くにいるんだよ!?
試合中みたいに張り上げてない声聞いたの初めて!

あたしの緊張に、彩子さんが気付いたらしかった。


「お前なぁ!俺まんじゅう好きなんだぞ」
「あーら、でも春ちゃんが最後の1個食べちゃってるんですよね」
「えっ、あっ、すみません!」
いきなり振られても対応できないってば!
3分の1くらいを食べてしまっているまんじゅうに、あたしと三井先輩の視線が注がれた。

「だーかーらぁ、春ちゃんからもらってください」
「あああ彩子さんっ!?」
ぱちっと可愛くウインクされても困りますっ!

「春チャンってお前?」
「はっ、はい!」
「それもう食わねぇの?」
「えっ、はい!で、でも食べかけって嫌ですよね……!」
あ、食べかけのところちぎればいいんじゃない!?
混乱しているあたしは、どもりながらも「ちぎります」と言った。

「あ?減るからいいよ」
「で、もっ!」
「回し飲みとかふつーにしてっから」

ひょいっと手を掴まれて、ぱくりとおまんじゅうは三井先輩のお口に消えた。
「あ、わりぃ指も食っちまった」

し、ぬ……!!
顔を真っ赤にしながら絶句しているにも関わらず、三井先輩はあたしの腕をしげしげと見た。

「それにしても細っこい腕だな、折れちまわねぇ?」
「やーね、先輩が太いだけですよ」
失神寸前のあたしに見兼ねて、彩子さんが助け船を出してくれた。

「肌も白いし、運動してんのか?」
「先輩がバスケ馬鹿なだけです」
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは」
あたしが硬直してる間に、また会話がぽんぽんと交わされる。

ああ、ほんと心臓に悪い……!


「春」
「はっ、はい!」
ぎゃー!名前で呼んでもらっちゃった!
「ごっそさん。お前のまんじゅう取っちまったから、明日昼飯おごってやるよ。昼休みにお前のクラス行くから待っとけ」
予想外のお誘いにぽかーんと口を開けた。(彩子さんも)

「おい春、聞いてるか?」
「ふぇ?は、はいっ!」
「よーし、忘れんなよ。じゃあな」
手を振る先輩にあたしは、今がチャンスだと大声で言った。

「み、三井先輩!部活頑張ってくださいっ!」
「おう」
三井先輩は、あたしがひとめぼれをしたあの時みたいに、きれいな笑顔で笑ってくれた。


「どどどーしよう彩子さん!お昼誘われちゃったぁ!」
「よかったじゃん、これでもっと三井先輩と仲良くなれるよ!」
「そんなの無理だって!」

きゃあきゃあ二人で言っていたら、彩子さんがふぅん、と色っぽく笑った。
「彩子さん?どうしたんですか?」
「何でもないわ。よかったじゃない、三井先輩と仲良くなれて」
「彩子さんはあたしの恋のキューピッドさんです!大好きです!」
がしっと抱きついたら可愛い、と彩子さんにほっぺにちゅーされた。

何はともあれ、明日頑張らなきゃ!


(……なんだかんだ三井先輩も春ちゃんのこと気に掛けてたのねぇ。早々に手を出されなきゃ良いけど……)
(狼さんがわらった!)
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