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□WJ
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ここ数日、新しいレシピを考案すべくキッチンに立てこもっていた。
もう少しで新しい島に到着するから、また新鮮な食材も手に入るだろう。
「あー、今日もいい天気だぜ」
伸びをしてから、タバコに火を点ける。


少し風に当たろうと、デッキへと足を運ぶ。
爽やかな風が心地よく頬を撫でた。
胸いっぱいに大きく深呼吸すると、身体が新しく入れ替わったような気すらしてくる。
なのに、何か足り無いなと思った。
『何か』と頭が考える前に、身体が欲していたのだが。

「さ、プリンセスを探しに行くか」
出来上がったレシピの分だけ、さみしい思いをさせてしまったはずだ。
思い切り甘やかして、甘えたいと煮えたことを考えて広い船内を探す。
「……どこに居るんだ?」
ハルちゃんを探しはじめて数十分、船内といえど、限りはあるワケで。
でもどの部屋を見ても居ない。
ナミさんにぶっ飛ばされながらも、女子部屋を訪ねたっていうのに!


ハルちゃんお気に入りのみかん畑にも、船尾にも居ない。
俺が移動するごとにハルちゃんも移動してるわけでもないだろうに。
誰に聞いても、知らない居ないで未だ見つからないままだ。
もう一度全部探してみるかと思った時、少し冷たい風が吹いた。
傾きつつある陽が、夜をつれてくるのだろう。
ベストしか着ていなかった俺は、まず上着を取りにいこうと男部屋へ向かった。


部屋に着き、自分のベッドに掛かっていたはずの上着はない。
不思議に思ったのもつかの間、ベッドに膨らみがあることに気付く。
そしてその膨らみこそが、俺が捜していたハルちゃんだった。
「こんなところに居たのか……」
思い返せば、男部屋にハルちゃんが居るなんて夢にも思わなかったから、頭の中からきれいに消してたな。
そりゃどこにも居ないはずだ、と嬉しいやら悔しいやらで複雑だ。
しかも、最愛の彼女が俺の上着を、俺の代わりみたいに抱き締めている。

「かなわねぇな、ったく」
すやすやと幸せそうな寝顔に心が温かくなる。
「ほっといちゃって、ごめんな」
ありがとうの気持ちをこめて、愛する人にキスを送った。

(あいしてる、愛している)
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