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バスケ部が活動している体育館の観覧席で、おおよそ運動の場に似つかわしくないであろう女子生徒が本を読んでいる。
そのミスマッチな場面に、バスケ部員は1ヶ月ほど遭遇し続けているのだけれど。
「あの人……変な人ッスよねぇ……」
「こら、失礼だろうお前」
信長が誰しもが思う感想を口にすると、牧さんがそれを窘める。
「だって!いくら神さんの幼なじみだからって流石に変っすもん!」
「ははは、春は別に変じゃないよ」

そう、幼い頃から春と接して来ている俺としては、春は特別に変な子だとは思わない。
春は春だ。
ちょっと考え方が独特で、自分の興味ないものにはとことん無反応なだけ。
群れたがる女の子たちはそういったミステリアスな人間が総じて苦手で……(自意識の塊の中高生時代は特にそうだ)。
それに比例して、校内で春と会話する人はあまりいない。

幸か不幸か、春は読書をこの上なく愛しているから、彼女になんら不便はないらしい。
人と関わることがてんでダメだというわけでもないから、俺はあんまり気にしてないんだけど。
俺とは普通に齟齬のない会話をするし。

「必要だったら話すし、返事だってするよ」
「……つか、何であの人あそこに居るんスか?」
「何でって、家近いから俺が送って行くんだよ」
「自主トレの後で!?」
信じられない、と言いたそうな顔だ。
「家に帰っても本読んでるから、ここに居ても変わらないんじゃないかな」
「……もしかして、付き合ってたり?」
「さあ、どうでしょう?」

くすくすと笑いながら質問をかわす。
むくれた信長も片付けを終えると、今までの会話がなかったかのようにロッカーに戻って行った。

「じゃ、神さんお疲れさまっしたー!」
「お疲れさま」



ふと視線を感じて振り返ると、こちらに視線を落とす春と目が合った。
俺は春に下に降りてくるように手招きする。


***


本の内容が一段落する頃、部活後の片付けが終わったらしかった。
だけど宗は相変わらず自主トレに励むつもりらしい。
こちらを向いて柔らかい笑顔で手招きしてきた。
軽く手をあげて返す。


私は、多分とても淡白な人間だ。
小さな頃から興味が持てるのは本と宗だけ。
宗とは親同士が仲が良く、生まれた時から一緒にいた、双子みたいなもの。
宗に興味があるかないかというより、隣にいて当たり前の存在。


本と宗のどちらが好きかと問われれば、何の迷いもなく宗を選ぶ。
本は宗がいない時の代替品。


宗の隣に居ることが私の日常で、それが好き。
他人も学校もほとんど好きなものはない。
宗と居るために、学校に来ているようなものだ。
幸いこれまでクラスが離れたことがないし。
もしクラスが違えば学校なんかには来ないだろう。
きゃあきゃあと騒がしい他人と馴れ合うことも勘弁被りたい。


宗はこんな私を理解して微笑むから、好きだ。
私を何の偏見もない、ただの名前として見てくれる彼はとても大切な存在。

だからね、
「ねぇ、宗」
「ん?」
彼のとても(私なんかよりずっとずっと)大切なバスケットはよくわからないし、興味も持てないけど、宗の真剣な顔が見れるから好き。


そう告げると宗は嬉しいな、とはにかんだ。
いいんだ、あなただけが私の全てを知っていてくれるなら、それで。


(できそこないのカメレオンがただその一色に染まりたいと願って、)

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イメージはミ/ス/チ/ル の 「ス.トレン.ジカ.メレオ.ン」から。
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