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「宗ちゃん、もう帰り?一緒に帰ろー」
学校からの帰り道、幼なじみ兼恋人の春とたまたま会った。
俺の返事も待たずに、いきなり春が言った。
「ね、もしかして宗ちゃん、背伸びた?」
「あぁ、うん。部活がハードだからね。運動量も中学より増えたから、10センチくらいは伸びたかも」
成長期だからね、と笑いかける。

「宗ちゃんの噂、聞いてるよ。昨日、レギュラーになったんだって?」
「えっ、誰から聞いたの?」
「ほら、あたしの友達、宗ちゃんとこのマネージャーでしょ?」
「あぁ、そっか」
そういえばよく一緒に居るところを見る。


「背が伸びたからかなぁ?昔より女の子っぽくなくなったよね」
春はいつもこのネタで俺をからかう。
冗談で言っているのがわかるから、そんなに嫌な気分にはならないんだけど。
「筋肉のついた高2男子に、女の子なんて言わないで欲しいんですけど?」
今日こそはその言葉を撤回させようとそう言うと、予想外にも俺の二の腕に細い指が触れた。

「わっ、本当だ!ムキムキってほどでもないけど、しっかり筋肉ついてるね」
触れた指先は外気に冷やされてちょっと冷たくて、俺は少しだけドキリとした。


それから他愛もないことを話してる間に、春の家の前に着いてしまった。
「宗ちゃん、うちでご飯食べていきなよ」
「いや、迷惑になるからいいよ」
「大丈夫だって!お母さーん、宗ちゃんが来てくれたよ〜」
春の言葉におばさんがニコニコと玄関まで来てくれた。
大丈夫です遠慮しますと言っても、二人がかりで言いくるめられたら俺に勝ち目はなかった。

「じゃあ、お邪魔します」
苦笑しながら告げると、もうすぐ出来るからと居間に通された。
そこには春のお姉さんが、出掛ける所だったらしく、支度をしていた。


「あれっ、宗一郎くん?久しぶりだねぇ、元気?」
お姉さんと会ったのはもう随分前で、記憶の中のお姉さんとは、少しの面影しか一致しなかった。
「こんばんは、お久しぶりです」

昔から思っていたけれど、春の家は美形揃いだなぁとまた再確認した。
おばさんも年を感じさせない若さだし、まだ高校生の春も、こんな大人になるんだろうか。


お姉さんがすぐ出掛けていってしまい、俺はボーっと見送った。
「宗ちゃん、どうしたの?」
「お姉さん、すごく久しぶりに会ったから、美人になっててびっくりした」
俺が素直にそう答えると、春は頬を膨らませた。
「外面がいいだけ!昨日なんてあたしのアイス勝手に食べちゃってさ。なのに謝りもしないんだよ!?ありえなくない!?」
「うーん、俺は兄弟いないからわかんないけど」
そんなお姉さんには見えないなぁ。

そう呟くと、春はさらに目を釣り上げた(ように見えた)。
「……怒ってる?」
「怒ってな……い、けど」
語尾がどんどん弱くなっていって、ついにはいじけだした。


「あたしだって、ちょっとはさ……」
宗ちゃんに美人になったね、って言われたいのに。

ボソボソと小さく呟いて俯いた春が、何だかいじらしく見えた。
なんて可愛いらしい恋人だろう。

頬が緩むのを感じながら、春の肩に手を伸ばすと。


「二人とも、ご飯できたわよー」
おばさんの声に、春はガバッと顔をあげて、座っていたソファから立ち上がった。

「そーちゃんのニブチン」
べぇっ、と舌を出した春に、くすりと苦笑して俺もテーブルに向かった。


(ご飯を終えたら、二人きりの部屋で思いきり甘い言葉を吹き込もうかな)
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