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□WJ
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合宿に行ったみんなと離れて、一人でシュート練習をしている花道。
あたしも洋平たちと一緒に泊まり込みで花道を応援してる。


今日のノルマを終えて、先生や晴子、彩子さんも帰ってしまった。
洋平たちはごはんを買いに行ってくれてる。

…気が利く洋平に感謝だ。



あたしと花道は付き合っている。
花道は鈍感だし奥手だし恥ずかしがりでバスケ馬鹿だから、あたしたちは二人きりで居れる時間が少ない。

だからこんな些細な時間ですらあたしにしてみればとっても大切な時間なんだ。

練習を終えて、息を整えている花道の背中にぴたっとくっついた。

「ぬ?どうした春」
「花道…」

きゅっと大きな身体を抱き締めても、花道はわかってない。
甘い雰囲気になりたいんだってことが。

ああ、なんでこんな鈍い男をスキになっちゃったんだろ…。

「春…?」
ほんとに不思議そうにあたしを見る花道を、お腹に回した手でペチッとはたいた。

「あーあ…こんな時ミッチー先輩なら、ロマンチックなことしてくれるんだろうなぁ」
思わせ振りにそう呟くと、花道はすごい勢いであたしの腕を引っ張った。

「いった…!」
痛いっ!と叫ぼうとした声は、真剣な花道の顔に力をなくした。

肩を痛いほどに掴まれ、あたしは抵抗の術を失う。


「ミッチーがなんだって?」


そう、花道は鈍感なくせに、あたしが他の男の名前を口にすると思い切り気にする。

「ミッチー先輩がロマンチックだなって話」
「ロマンチック…?ミッチーが?」

意味を理解した花道がいきなり笑いだした。

「はーっはっはっは!」
「えっ、何よ…」
「あんな元ヤンがロマンチックなわけないだろ、春!」

こいつには遠回しな言葉なんてやっぱり通じないか、と肩を落とす。

「…ばかみち」
「なんだとっ!?」


今度は、きちんとまん前から抱きついた。
「…春?」
「いいから、ちょっと黙ってて」

このドキドキの音を聞いて、少し恥ずかしい空気を感じることが花道にできれば、もっと甘い雰囲気になれると思う。


顔を胸に押しつけたまま花道の名前を呼んだら、花道はあたしの肩に手を乗せた。

「こういう時は、彼女を思い切り抱き締めるのよ」
じれったくて言ってしまうと、花道は顔を真っ赤に染めて固まってしまう。

「花道…」
あたしも多分、顔が真っ赤だろう。
だって、花道とこんなことするのなんてすごく久しぶりで、滅多にない。

花道なんてあたし以上に混乱してるだろう。
だけどこの時間は今しかないんだからと花道を見つめると、意を決したように抱き締めてくれた。


あったかい。
背中より花道を身近に感じることができた。

目を閉じてうっとりと甘い時間を貪る。


バクッバクッと花道の力強い鼓動が伝わってくる。

愛しくてしょうがない。



「…花道…」
「ぬっ!…なんだ?」


「…汗くさい」
「なっ!?」


花道はショックを受けたようで、ぼーぜんとしてる。
そしたら桜木軍団が爆笑して入ってきた。


「はなみちー!よっ、彼女に汗くさいと言われた彼氏!」
「今日は念入りに身体洗えよ!ギャハハ!」

「…てめぇら…」

花道をからかった桜木軍団は、恥ずかしさで真っ赤な花道に頭突きされて転がってしまった。


ごめんね、花道。
あたしから抱きついておいて、なんなんだけど。

高宮のおっきいお腹がドアからはみ出てたんだもん。

さすがのあたしでもあれ以上は出来なかったよ。


「なあ春、気づいてたのか?」
「まぁね。もうちょい痩せたら?って言っといて」

くすっと笑った洋平は了解と肩を竦めた。


「花道、はなみち」
「ぬ!?」

ないしょ話するように耳に口を近付けた。


あたしの大好きな花道に。


(また今度、続きしようね)
(ふっふっふ…この天才に任せとけ!)
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