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ようやく授業が終わって流川が部室前に着くと、そこはひどく賑わっていた。

「おぉ〜!」
「すっげぇ!うまそーっ」
騒がしいそこに入った流川が最初に目にしたのは、恋人の春だった。
そして誇らしげな恋人の手元には、見栄えのいいロールケーキ。
「あ、楓!」
にっこりと爽やかすぎる笑顔で流川を迎えた春は、流川に手招きして自分の隣に座らせた。

「これあたしが作ったの。運動前の糖分補給ってことで!」
皆さんでどうぞ、とペーパーナイフでどんどんと切り分けていく。
次々に他の部員に渡されるそれらを見て、流川は春を軽く睨んだ。
「俺に先に渡せ」
はい、と切り分けられた最後のひと切れと端っこが流川に回され、無表情の中にも不満を表す。

「こういうのは先輩からあげるものなの!」
そう言って春は、流川の紙皿に乗っている崩れた端っこをパクリと食べた。
「奪うな」
「崩れたのはあたしが食べる予定だったんだよ」
紙皿が勿体ないでしょ、とあっけらかんとした春は流川の足をぺしりと叩く。
「ちょっと、あたしの場所取らないで」
大きく広げた流川の足が邪魔で座れないと言うと、流川は春の腕を引っ張って自分の足の間に座らせた。
「もう………」
呆れながらも大人しく座り、さぁ召し上がれと合図すると、みんな一斉に食べ始めた。


「うっめぇ!」
「春サン、天才っス!」
「うん、甘過ぎなくていい感じだ」
四方から賞賛の声が聞こえて、春は嬉しさと気恥ずかしさにはにかむ。


「お口に合ったならよかったです!また今度味見してくださいね」
お菓子を作るのが好きな春は、これで毎回作った菓子を消費できると喜んだ。
ニコニコとみんなの食べる姿を見ていたけれど、春はどうかしたのかと流川を見やる。

流川の足の間に座っているから必然的に、背中から腕を回されている流川の手は春前の下腹部で留まっていた。

「楓、不味かった?」
聞きながら皿を見ると、なにも減った様子がない。
「あれ?ロールケーキ嫌いだったっけ?」
「………」
無言を貫き通す流川に、気分を害したかと春は考えた。
暫し考えた後、春はロールケーキを掴んで流川の口元に運んだ。

「はい、あーん」
流川はじろりとそれを一瞥しただけだったけれど、春が「あーん」を重ねて言ってきたので、もくもく食べた。
「もー、変なとこで亭主関白やめてよね」
つまりは些細な嫉妬というところだろう。
「子どもじゃないんだから、ひとりで食べてよ」
そんなことを言いながら、口元についたクリームまでもティッシュでふき取ってしまった。


「おいし?」
可愛らしい嫉妬をされてまんざらでもない春は、いつもより甘い表情でそう聞いた。
「もっとくれ」
「ざーんねん。楓が拗ねてる間にみんな食べちゃったから、もうないよ」
「よこせ」


ただでさえ近い距離にあった顔が更に近づいて、零距離になった。
「ん、」
「……甘いのなんか、お前でジューブンだ」
吐息がかかる近さで口説かれ、春の頬に紅色が差す。


「嫉妬した楓はハズカシイ」
「もうさせんな、どあほう」
「こんなので嫉妬してたらキリないよ」
「うるせー」


楓は本当にあたしのこと好きだよね。
春がそう言うと、流川は今度は噛みつくようなキスをした。


恋とお菓子は、かなり甘ったるい。
(あれっ、いつの間にかみんないなくなってる)
(おい、集中しろ)


>>>
部員くんたちはイチャイチャし始めたあたりから退散しました(笑)
甘いんだかただのつんでれなんだかわかんないですね!
予想以上に甘くなりました(笑)
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