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待ち合わせ場所に着くと、風に乗って祭り囃子が聞こえてきた。
夏の夜独特の風がさらりとうなじに触れていく。
髪型を鏡でチェックしたり、おろしたての浴衣を何度も確認してしまうのは、今日が宗ちゃんとの初デートだから。

幼なじみの宗ちゃんを、いつから好きになったのかも覚えてないくらい、昔からずっと好きだった。
宗ちゃんが部活で忙しくなって一緒に居れなくなってから、きちんと自分の気持ちに気付いたんだけれど。
3週間前に長年の恋心がようやく実を結んだ。だけど、なかなかお互いの時間が合わずにいて……。
宗ちゃんは毎日部活に勤しんでいるし、あたしもバイトを入れていたから。

宗ちゃんの自主練が終わるのを待って一緒に帰った道で、宗ちゃんが嬉しいお誘いをしてくれた。
「今度の土曜に、いつものお祭りがあるんだけど……一緒に行こう」
「もちろん!」
毎年宗ちゃんと行っていたお祭りに、もちろん今年も一緒に行くつもりだった。
「お祭りは夕方から始まるんだ。俺も3時まで部活だから、駅で待ち合わせしようか」
「うん!楽しみだね」
久しぶりに宗ちゃんと遊べる、と内心かなり喜んでいると、宗ちゃんがぽつりと呟いた。

「良かった、断られなくて」
「え?断らないよ。毎年行ってるじゃん!」
「……いつもの誘いじゃないから」
「え?違うの?」
もしかして部活のみんなも来るのかな?
宗ちゃんと二人がいいな、なんてこっそり思った。

「恋人として、ちゃんとしたデートだから」
恋人とかデートとか聞き慣れない単語に、ぽかんと大口を開けて驚いた。
「やっぱり。春のことだからわかってないと思ったよ」
宗ちゃんはくすくすと笑った。
あぁもう宗ちゃん格好よすぎる……!って、そうじゃなくて!!

「わ、わかってなかったけど、ちゃんとわかったから」
楽しみにしてるね、と紅い頬を自覚しながら笑いかけた。
俺も楽しみにしてるよなんて言って、宗ちゃんはあたしのおでこにそっとキスをした。

幼なじみの頃とは違う接触に、あわあわと慌ててしまう。
宗ちゃんってこんな性格だったけ!?と疑いたくなるくらい。

それでもやっぱり嬉しくて、幸せを噛み締めながら、お祭りに想いを馳せる。
「お祭りといったら浴衣だよね!最近は可愛い浴衣もたくさんあるから、友達と浴衣でお祭り行こうねって約束したんだ」
「なら土曜日は浴衣で行こうよ」
「えぇっ!?で、でも恥ずかしいよ……」
「せっかくの初デートなんだから。俺も甚平着ていくから、ね?」
ね?なんて可愛く言われて、断れるわけがない。
それにそれに、宗ちゃんの甚平姿を想像したらとっても格好よくて、あたしは大きく頷いた。


家に着いてお母さんにお祭りのことを話すと、お母さんの昔の浴衣を見せてくれた。
白を基調にして、所々紅い花があしらわれている紅い帯のそれらは、シンプルながら可愛らしいものだった。
お母さんに着付けを頼んで、浴衣の準備は万端。

そして当日、サイズがぴったりの浴衣と、浴衣に合うように髪をゆるく巻いておだんごを作った。
お母さんが使っていたという巾着袋を借りる。


そうしてあたしは、宗ちゃんとの初デートに気合い十分で出かけたのだ。
冒頭のように心地よい風が、首筋を撫でる。
「早く来過ぎちゃったな」
浴衣では歩きづらいかもしれないからと、早めに家を出たから、まだ約束の時間まで30分はある。
けれど全然長くなんて感じなかった。

甚平姿の宗ちゃんはとってもかっこいいだろうなとか、一緒に美味しいもの食べたいなとか。
ヨーヨー風船も欲しいし、リンゴ飴も初挑戦してみたい。


ニコニコと初デートを想像していると、肩をポンっと叩かれた。
「春、ごめん。待った?」
声の主に振り返ると、宗ちゃんが少し申し訳なさそうに眉根を寄せて、そこに立っていた。

すらっとした身体に濃紺の甚平がよく似合っている。
シンプルだけれど、一本気のあるかっこいい人みたいだ。
袖から見える腕は昔と違って逞しくて、本当に宗ちゃんなのかと思う。

何だか全然知らない人みたいだ、とぼんやり思っていると、宗ちゃんが心配そうに覗き込んできた。

「春?」
「………」
「春、待ちくたびれた?」
おーい、と目の前で手を振られる。
「そっ、宗ちゃん!」
正気に戻ったあたしは、ひっくり返った声で名前を呼んでいた。

「何?」
くすくすといつもみたい笑ってくれたから、ようやくあたしは目の前に居るカッコいい人が宗ちゃんだと理解した。
「あっ、暑いねぇ!?」
自分でも意味わからないことを言ってる自覚はある。
ばか!こういう時はもっと気の利いた言葉を言わなきゃなのに!

「そう?じゃあ飲み物でも買いにいこうか」
宗ちゃんのそつのないエスコートに、恥ずかしさやら何やらで顔を紅くしてしまう。
いきなり手を差し出されて、混乱した頭で宗ちゃんを見上げる。

「浴衣じゃ歩きづらいだろうから」
「だ、大丈夫だよ!ここまで来る時も転ばなかったから!」
申し出を断ってから、嘘でも歩きづらいって言えば手を繋げたかもしれないのに!と後悔した。
あぁもうほんとにあたしってば!

「春って鈍いなぁ」
「え?」
「俺が春と手を繋ぎたいだけだよ」
ただの言い訳、なんて流した視線を送られて。
ボールを扱うせいでちょっと硬くなった指が、あたしの指をそっと握る。

初めてじゃないのに、何故だかとっても恥ずかしい。
「新しく買った?」
「ん、何を?」
「浴衣。似合ってるね、可愛い」
「あああありがと!お母さんのだから古いんだけどねっ」
生地を引っ張ってひらひらと泳がせる。
「髪もそうやってあげてると、いつもより……大人っぽい」
息がかかりそうなくらい近くで囁かれて、あたしは硬直した。

「そそそそ宗ちゃんも、カッコいいよ!想像してたのよりずっとずっと!あたし見惚れちゃったもん!」
宗ちゃんみたいにすらっとした人に似合うんだね!と焦りつつ言えば、そんなに細いかなぁと自分の腕を確かめた。
「バスケ始める前の宗ちゃんは、本当に女の子みたいに細かったよね。今は全然そんなことないけど」
「一応、海南バスケ部員だからね」
「ふふっ、そうだね。練習お疲れさま」

ようやく心も落ち着いてきた時に、お祭りの屋台の列の入口に着いた。
「春、迷子にならないでよ?」
「ならないよ!それに手を繋いでるじゃん」
「春は小さくて人混みだと見えないから心配」
「あたしは幼稚園児じゃなーい!」

頬を膨らませながら抗議すると、わかったわかったと笑われ、からかわれていたことを知った。


すでに人がごった返している道を進む。
「あっ、宗ちゃん!リンゴ飴食べたい、リンゴ飴!」
宗ちゃんの手を引いて、リンゴ飴屋さんの前に陣取る。
じゃんけんで勝ったらもうひとつ貰えるということで、あたしは俄然張り切っておじさんとの勝負に挑んだ。
「あ〜あ、せっかく宗ちゃんの分も貰おうと思ったのにな」
「あはは、ありがとう」
初めてのリンゴ飴は大きくて甘かった。
宗ちゃんに渡したら、ぺろりと舐めて「甘い」と、どちらが甘いのかわからないくらいの優しい表情をくれた。
お祭り独特の雰囲気やほの暗い明かりが、宗ちゃんの顔に濃淡をつける。
見たことのない宗ちゃんに、またあたしの心臓は早鐘を打った。


「あっ!ちょ、チョコバナナだよ!」
緊張を隠し切れずにどもりながら、チョコバナナさんを見つけたあたしは、宗ちゃんをぐいぐい引っ張ってゆく。
まだリンゴ飴も食べ終えてないのに。
あ、もしかして食い意地張ってるなとか思われた!?
うーん、でも毎年いっぱい食べてるからなぁ。


「春?食べないの?」
「えっ?あ、食べるよ!」
考えすぎて歩みを止めてしまったあたしに、今度は宗ちゃんがあたしの腕を引いた。
「春はこれ大好きだよね」
大好きだなんて言葉にひとりで照れて、宗ちゃんの方が大好きだよとか言ってしまおうかと思った。(けどそんなの恥ずかしくて言えない!)


そのチョコバナナ屋さんも、じゃんけんに勝てばもう1本貰えるというので、今度は宗ちゃんに頼むことにした。
「あたしは弱いから、宗ちゃんお願い!頑張って!」
ドキドキしながらおじさんと宗ちゃんの手を見つめる。
3回ほどあいこが続いて……
「すごーい!勝った!」
おじさんは苦く笑いながら、好きなの持っていきなと言った。

「宗ちゃんはバスケもじゃんけんも強いんだね!」
宗ちゃんの健闘のおかげで、それぞれ1本ずつ食べながらまた歩きだす。
「春、去年も同じコト言ってた」
「え?そうだっけ?」
あたしは1回も勝ったことがないのに宗ちゃんはよく勝って、あたしに戦利品をくれたりしてた。
負けても二人で分けて食べてたしね。
「おいしーね。お祭りはやっぱりチョコバナナだよね」
「去年はかき氷だねって言ってた」
「え、そうだっけ!?」
相変わらず食欲魔人だと思われちゃう。
面白そうにくつくつと笑う宗ちゃんを軽く睨む。
「春は昔から変わってない」
「宗ちゃんだって、」
全然変わってないよって言おうとして、言葉が途切れた。
全然変わってないのに、幼なじみの時とは全く違う宗ちゃんを自覚したから。

「俺だって、何?」
あの頃みたいに無邪気な日々を少し懐かしく感じた。
だけど、あの頃のあなたも今のあなたも、これからのあなただって、きっと。
「優しいとことか、全然変わってない」

あたしの傍にずっといてくれるんだろう。
(あたしもずっとあなたと一緒に、)


>>>
中途半端ですみませ……(´ω`)
素敵設定を活かしきれませんでした(泣)
とりあえずチョコバナナは美味しいですよね←

あやの様、リクエストありがとうございました!
拙い作品ですが、気に入っていただけたら嬉しいです(*´∀`*)
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