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□WJ
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ジワジワと蝉が命を叫んでいる。これが初夏だったりすると、蝉の数が少ないせいか騒がしくなくて、耳に心地よいのだけれど。
これじゃいくらなんでも騒音だと思うくらい、うるさい。
まぁそれは、俺が座っている位置が木の真下だからなんだけれど。

帰宅途中にどうしても直射日光に耐え切れなくなった俺は、仕方なく少しだけ公園の木陰の下のベンチで休むことにした。
風を通しづらいワイシャツが肌にまとわりついて気持ち悪い。
汗が首筋に垂れてきて、ぐいと腕で拭った。

溶けそうに暑いとはこのことだ。
手で扇いでも、生ぬるい風を浴びるはめになっただけだった。
家に早く帰って冷房の効いた部屋で涼みたい。
だけど動くのも億劫なほどの暑さに、今後の行動を決めかねていると。


「たーかしくんっ!」
「ひゃっ!?」
首筋にいきなり冷たさを感じて、思わず声が出た。
「あはは、どっきり成功!」
「日高か……」
「ひゃっ!だって〜、可愛い!びっくりした?」
悪戯が成功した日高は楽しそうに目を細めて、俺の首筋に当てた缶ジュースを差し出した。

「貰っていいのか?」
「その為に買ってきたんだもん」
どうぞと冷たいお茶を貰って、喉が猛烈に渇いていた俺はすぐに飲んだ。
「はぁ、生き返った……」
さっぱりとした緑茶が喉に心地よくて、あっという間に飲み干してしまった。
「それはよかった」

がさごそと日高がコンビニの袋の中からアイスを取り出す。
じゃーん!とか言いながらベリベリと包装を剥くと、1つのアイスに棒が2本ついていて、それを躊躇することなく割るとまた俺にくれた。
「え、いいのか?」
「こういうのは、半分にして食べるから美味しいんだよ!」
溶けちゃうよ、と言われたら断れない。(こんなうだるような暑さの中でアイスを断るつもりなんかないけれど)
「ありがとう……冷たくて美味しい」
蒸し暑い時に、乳脂肪分の多いソフトクリームのようなアイスは喉が渇く。
けれどさっぱりとした氷菓はくどくなく、とても好きだ味だ。
「そういえば、どこかに行く予定だったのか?」
「ううん。帰るつもりだったよ」
もしかして家で食べるつもりだったアイスを、俺に分けてくれたんだろうか。(それにお茶も)

しかし俺の予想とは裏腹に、日高は続けた。
「すっごく暑そうな貴志くんを見つけたから、引き返してコンビニで買ってきたんだ」
いきなり冷たいお茶を触れさせたらどんな反応をするのか気になって、と鈴が鳴るように笑った日高。
「それにしても、蝉うるっさいねぇ」
「あぁ、ここに座ってるから更にな」
アイスとお茶のおかげで、少し暑さを凌げた。
「そろそろ帰ろうかな。なんだか耳が痛くなってきた」
騒音のせいで耳がおかしくなったんだろうか、くらくらしてきた。
「そうだね、あたしも帰って涼みたいや。よーく冷えたスイカがまだ残ってると良いんだけどなぁ」

うちの家族は食いしん坊だから、と微笑む日高の言葉で思い出した。
「あ、なら家に来ないか?昨日、塔子さんが美味しいスイカが田舎から送ってきたって言ってたから。あ、えっとお茶とアイスのお礼の代わりに」
自分の提案になぜか恥ずかしくなって、言い訳みたいにお礼だと付け加える。
「えーっ、いいの!?」
俺の動揺なんか知らずに、目をキラキラさせる姿が可愛らしくて、つい笑ってしまった。
「何で笑うのよ」
「いや……スイカ好きなのか?」
「うんっ、多いときは1人で半分くらい食べちゃうよ!」
それはさすがに食べ過ぎだろうとまた肩を震わせる。
「あっ、人様のお家ではそんなことしないからね?」
暑さだけではない紅い頬。
「大丈夫、わかってる。行こう」
じんわりと指の先まで幸福に包まれて、俺たちは家路についた。
(塔子さんに彼女かしらと言われて慌てて否定したけれど、)
(よく冷えた真っ赤なスイカを美味しそうに食べるその姿に、心が甘く満たされた)

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夏ですね!アイス半分こしたいですね!
ガリガリくんは一番美味しいアイスだと思います!
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