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□WJ
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まったくトートツで申し訳ない話だが、俺は1年のマネージャーの春が好きだ。
好きなんだが……どうやら春には恐がられているらしい。

俺が話し掛ける度にびくりと肩を震わせて、他の奴が呼ぶとすぐにそっちに行っちまう。
心なしか笑顔もひきつってるしな。

まぁ、春が俺を恐がるのもわかる。
春は、俺が忘れたくても忘れられないー……バスケ部を潰そうと乗り込んで、乱闘を起こした現場に居たからだ。

殴り合いのケンカなんて初めて見たかもしんねぇ。
それどころか、ヤンキーだって初めてだったかもな。
今思えば、よく泣きもせずに立ってたよなって感じだ。


だから、普通に接してはくれるけど、どこかぎこちないのは俺にもわかる。
だから俺は、これまでないってくらい優しく大切に扱っているわけだが……。

そう簡単に元ヤンに親しくできないよな。
彩子みてぇに度胸の塊ってわけでもねぇし。
少しだけでも、怖いって印象を変えられたら違うんだろうか。

そんなわけで、2つ下でちっこい春に俺は悪戦苦闘なわけだ。


っていうのを1日ずっと考えてたら、俺が授業中に起きているなんて、とクラスのやつが驚いてた。

「三井!学食行かないか」
「あ?もうそんな時間か?」
木暮の誘いにそう返すと、木暮は目を大きくして驚いた。
「三井が昼を心待ちにしてないなんて……」
「うるっせぇ、考え事してたんだよ」
「悩みなら聞くぞ」
「悩みねぇ……」

ぼりぼり頭を掻きながら、財布を手に教室を出る。
学食へ行くまでの道に春のいる教室があることを思い出した。

普段の春の生活も見てみたくなって、目立たないように教室を覗いた。

「えーーっ!ホントぉ!?」
女子のデカい声の方を向くと、春とその友達2人が机を囲んで昼飯を食っていた。

「だって、三井先輩って元ヤンでしょ?恐くないの?」
「そうだよぉ、何かすぐ怒りそうじゃない?」
友人1号2号め、俺が聞いてないと思って言いたい放題いいやがって……!

「そ、そんなことないよ!三井先輩って素っ気なく見えるけど、本当は優しいんだよ?」
よし、春よく言った!
……って、春は俺のことそんな風に思ってたのか?

「えー?本当に?だっていつも怒ってない?」
「おい三井?」
友人2号の声と一緒に、木暮の怪訝な声がして、俺は思わずぎくりとした。
すぐさま木暮の口を手で塞いで、黙れと合図を出す。

「三井先輩は、すっごい優しいんだよ?……それに、誰にでも愛想振りまいてる人より、怖く見えたって自分にだけ優しくしてくれる人のほうがいいじゃん!……なぁーんて、あはははっ!」
照れ隠しのように春は早口にまくし立てた。
すると、今までさんざん俺の悪口を言っていた友人たちが、にやりと人の悪い笑みを浮かべる。


「春、もしかしなくても三井先輩に惚れたでしょ!」
「えっ!?違うよっ、」
「隠さなくてもいいじゃん、春が三井先輩がいいっていうならちゃんと応援するし!」

「で、でも……」
俺は自分の耳を疑った(夢かとも思って、頭も)。
嫌われてたと思ってんのに、なんだこのおいしい展開は!

いやいや待て、まだ春から確かな言葉は聞いてねぇ。
1号2号がはしゃいでるだけかもしんねぇしな。


俺が必死に自分を落ち着かせていると、

「好きなの、かなぁ……?好き、かも」
春の軽い告白に、友人たちもきゃあと声を上げる。

「三井先輩ね、あたしがタオルとかドリンクとか渡すと、すっごいかっこいい笑顔で『ありがとな』って言ってくれるんだよね」
「うわっ、のろけじゃん!」
「のろけは付き合ってからにしてよね〜」
「違うってば!ホントにかっこいいの!」


きゃあきゃあと言いながら、話題は1号の恋愛話になった。

俺はボーゼンとなりながら、隣の木暮に今の話を聞いていたかと尋ねた。
「うん、まぁ……」
木暮に引っ張られながら、俺はお約束のことを頼んだ。

「ちょっと、俺の頬つねってみ?」
「あとで怒るなよ?」
「怒んねぇよ、春のダチみてぇなこと言うな」

ぎゅっと頬をつねられ、ぎゃっと声をあげた。
「いってぇ!っつーことは……」
「良かったじゃないか、両想いだろ?」
「はぁっ!?何で知ってんだよっ!」
「(もうみんなにバレバレだけどな……)」



その日の部活、俺は浮ついた気分で休憩を迎えた。
なんたって、春は一番に俺にタオルとドリンクを持ってきてくれる。

「み、三井先輩どうぞ!」
「おー、ありがとな」
極上の笑顔で礼を言い、また固まった春を(今は照れてるだけだとわかる)、ちょいちょいと呼ぶ。

「は、はい?」
近づいてきた春の身体をぐいっと引っ張って、膝の上に乗せた。
「はぇっ?せ、せんぱいっ!?」
「こいつ俺のだから、手出すなよおめーら!」
「えええっ!?」

みんな驚いていて、俺はにやにやと笑いが止まらない。

「何だよ、嫌なのかよ」
「嫌っていうか……!」
「好きだろ、俺のこと」


こくりと頷いた真っ赤な頬に、俺はたまらずキスをしたのだった。

(み、みついせんぱいは、あたしなんかでいいんですかっ?)
(ばーか、春だから惚れたんだよ)

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へたれな男前みっちーが大好きです(*´ェ`*)
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